3Dオルガノイド培養:発生と疾患の新しいin vitroモデル
2D培養 vs. 3D培養細胞モデルシステム
モデルシステムを用いることで、生体のプロセスと機能を分子レベルから器官全体レベルまで再現し、生物学研究は発展してきました。人体は、高度に分化した細胞と非細胞の両方の構成要素で構成されています。1つのin vitroモデルシステムでヒトの生物学的側面をすべて模倣することは困難です。3D細胞培養モデルは、2D平面で細胞を成長させるのではなく、生体内の細胞が経験する自然環境をより正確に表現することができます。
既存の細胞モデルシステムの限界
オルガノイドとは?
オルガノイドは、自己複製、自己組織化が可能であり、臓器の機能を発揮する初代組織または幹細胞に由来する、in vitroの3D細胞集合体です3。オルガノイドには、既存のモデルシステムにおける制約の克服につながる以下の特長があります。
- 初代組織に似た組成および構造:オルガノイドは、生理的条件と同様の頻度で、すべての主要な細胞系列の細胞に分化できる自己複製能をもつ幹細胞の小さな集団から成ります。
- In vivo条件に適切なモデル:オルガノイドは、任意のモデルシステムに生物学的により関連性が高く、ニッチ因子や遺伝子配列を操作することに適しています。
- 長期間培養するための安定したシステム:オルガノイドは、バイオバンクとして凍結保存でき、幹細胞の自己複製能、分化能および自己組織化する固有の能力を活用できます。
図1.マウス腸上皮オルガノイドCleversら(Science 2013)に概説されたプロトコルに従って、成体マウスの腸組織から3Dオルガノイドを作製しました。2013:オルガノイド細胞は、培養3~5日頃に内腔と器官芽構造を形成し始め、7~10日頃に複雑な陰窩様構造を形成します。これらの陰窩様領域は、機能的には腸管の機能と類似しています。腸管では、分裂したLGR5+腸管幹細胞が陰窩底部に局在するパネート細胞により挟まれます。
オルガノイドとスフェロイドの比較
オルガノイドとスフェロイドは、いずれも3次元で培養された細胞です。スフェロイドは、多くの場合、癌細胞株または腫瘍生検を超低接着表面プレートで浮遊させた状態で培養した細胞集合体として形成されますが、オルガノイドは、マトリゲル®などのECMハイドロゲルマトリックス内に埋め込まれた組織幹細胞に由来します。オルガノイドは非常に複雑で、スフェロイドと比較するとin vivoに類似しています。近年、腫瘍のオルガノイドは、個別化医療のサポートを目的として、患者が抗がん剤にどれだけよく反応するかを予測することに用いられています。
図2.オルガノイドとスフェロイドの比較幹細胞由来のオルガノイドは、腫瘍スフェロイドと比較してより高次の組織の複雑性を持ち、よりin vivoに近い表現型を示します。
オルガノイドの作製方法は?
オルガノイドは、適切な物理的および生化学的刺激を与えることにより、初代組織または多能性幹細胞[iPS細胞(induced pluripotent stem cells)またはES細胞(embryonic stem cells)]から作製されます4。
物理的刺激:細胞の接着と生存をサポートします。例として、コラーゲン、フィブロネクチン、エンタクチンおよびラミニンが挙げられます。
生化学的刺激:シグナル伝達経路を調節することにより、増殖、分化、自己複製に影響を与えます。例として、EGF、FGF10、HGF、R-スポンジン、WNT3A、レチノイン酸、GSK3β阻害剤、TGF-β阻害剤、HDAC阻害剤、ROCK阻害剤、ノギン、アクチビンA、p38阻害剤およびガストリンが挙げられます。
オルガノイド用試薬
オルガノイドのアプリケーション
オルガノイドは生理学的に意義が高く、分子生物学および細胞生物学的分析に適しているため、基礎研究および橋渡し研究の両方で大きな期待が寄せられています。
発生生物学 ES細胞、iPS細胞から作製したオルガノイドは、発生の段階の特徴を保持し、胚の発生過程、系統の特定、組織の恒常性の研究に役立ちます。また、幹細胞とニッチの発生にも有用です。
- 脳24、膵臓25および胃7などの臓器の発生は、Wnt、BMPおよびFGFシグナル伝達経路を調節することにより誘導される連続的な分化ステップを通じて研究されました。
感染症の病態:オルガノイドは臓器のすべての構成要素を表し、特殊なヒト細胞の種類に影響を与える感染症の研究に適しています。
- インターフェロン調節因子-7遺伝子のnull対立遺伝子を持つ健康な子どものiPS細胞に由来する肺オルガノイドが、インフルエンザウイルス複製の研究に使用されました26。
- ヒトiPS細胞に由来する前脳オルガノイドは、神経前駆細胞におけるジカウイルスの感染を研究するために採用されました27。
再生医療:成体幹細胞に由来するオルガノイドの移植は、損傷した臓器または組織を代替することができます。さらに、CRISPR/Cas9テクノロジーによる遺伝子編集は、単一遺伝子の遺伝性疾患の治療に利用できる可能性があります。
- 小腸オルガノイドは、マウスモデルに移植した場合、絨毛形成やパネート細胞の存在など、小腸の特徴を保持していました28。
薬物の毒性および有効性試験:代表的な標的臓器(腸、肝臓、腎臓)に対する薬物の有効性と毒性の試験に採用することができれば、動物の使用に関連する倫理的問題の解決につながる可能性があります。
- シスプラチンの腎毒性を実証するために、ヒト腎臓オルガノイドが採用されました11。
個別化医療:個々の患者の成体幹細胞に由来するオルガノイドは、薬物反応のex vivo試験を可能にします。
- 結腸オルガノイドを使用して、希少なCFTR変異を有する患者の治療法の選択肢を特定しました29。
- 腫瘍オルガノイドは、個々の患者のレベルで薬物反応を評価するために使用できます。
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参考文献
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