3D細胞培養ツールおよび技術
2D細胞培養 vs. 3D細胞培養
発生生物学、創薬、再生医学、タンパク質生産などといった分野において、細胞培養技術は広く定着しています。細胞培養技術の導入当初より、細胞は組織培養用プラスチック容器、あるいは細胞外基質(ECM)に接着した状態で2次元的に(平面上で)培養されてきました。生理学的環境下においては、細胞は常にECMと相互作用をしています。ECMは細胞遊走やアポトーシス、転写の制御、受容体の発現といった複雑な生物学的機能をコントロールしています1。2次元環境(2D)で培養した細胞を用いたin vitroでの実験結果を、そのまま臨床試験に反映することは不可能です2。これは、細胞とECMの間の複雑なシグナルのやりとりが2D細胞培養では再現できないことが要因となります3。3次元的(3D)に培養された細胞はこの問題を解消するものであり、in vivoの生理学的環境により近く、従来よりも優れたモデルとして登場しました。表1は2D細胞培養および3D細胞培養の違いをまとめたものです。
さらに、いくつかの研究から、3D環境下で培養された細胞の遺伝子やタンパク質の発現プロファイルは、2D培養の場合とは異なるという報告がなされています。また、3D培養環境下での発現プロファイルは、2D培養環境の場合と比較して、生理学的に類似していると考えられています。
3D細胞培養の利点
3D培養の場合に示される細胞内外の事象は、生理学的環境下での動態に類似しており、2D培養の場合と比較して以下のような利点が認められます。
- 3D環境で培養された幹細胞は、著しく高い分化能を示す15
- 3D培養の場合、薬物の安全性試験や効能試験を効率的かつ比較的容易に実施することができるため、製薬会社が創薬に要する期間を短縮することができる16。また、3D細胞モデルでは薬剤誘導性の肝毒性を効率的に調べることができる16。
- 3D培養では、薬剤耐性の予測に関してより良好なデータを得られる。In vivoの腫瘍と類似する3D培養細胞群ではアルキル化剤耐性が示されている17。
- 3D培養モデルを用いることで、ウイルスの増殖や感染、そして病原性ウイルスと宿主の間の相互作用といったウイルス感染症の研究を、より低いバイオセーフティーレベルで実施することができる18。
3D細胞培養技術の概要
3D細胞培養技術は、細胞自体の特性(細胞株、初代細胞、由来組織)あるいは研究の最終目的といった複数のパラメータに従って選択する必要があります。最適な3D細胞培養技術を選択するには、これらのパラメータを評価することが必須となります。
3D細胞培養技術は、スキャフォールド型とスキャフォールドフリー型に大別されます。
スキャフォールド(足場)型技術
スキャフォールド型技術では、細胞は支持体の存在下で培養されます。主に以下の二種類の支持体を用いることが可能です。
- ハイドロゲル支持体:ハイドロゲルとは、満遍なく水で膨潤した高分子化合物の網目構造と定義されています。培養される細胞は、こうしたハイドロゲル中に包埋処理されていることもあれば、単純に表面をコーティングされていることもあります。ハイドロゲルは高分子化合物の特性によって、性質別のいくつかのクラスに分類されます(ECMタンパク質系ハイドロゲル、天然ハイドロゲルおよび合成ハイドロゲル)。
- 高分子性硬質材料支持体:細胞は、繊維状またはスポンジ状の構造体の存在下で培養されます。培養する細胞は平面上に播種されていないために、より生理学的環境下に近い形状になります。支持体としては、ポリスチレン(透明性があるので画像解析用に適している)だけでなく、生分解性のあるポリカプロラクトンなどの素材も用いることができます。
次の表は、こうしたスキャフォールド型技術に関連する特性をまとめたものです。
適正)+++ = 高、++ = 中、+ = 低、- = 不適、+/- = スキャフォールドの構成素材によって異なる
適正)+++ = 高、++ = 中、+ = 低、- = 不適
おわりに
3D細胞培養の進化には、in vitro実験とin vivo実験のギャップを解消できるという可能性が秘められています。細胞をin vitroで扱いながらin vivo環境を反映した結果を得ることが可能です。その結果として、実験動物の使用に関する倫理的な問題を回避できる3D細胞培養技術は研究者の間でますます人気が高まっています。一方で、3D細胞培養を行うために適切なシステムを選択することが肝要です。
今後は、さらに複雑で高度な技術が開発されるでしょう。例えば、3Dプリントの副産物である3Dバイオプリンティングは、生体材料および生存細胞のプリントに役立ちます。皮膚移植に際して、従来手法の特徴であった皮膚片を得るための二次的な損傷作成を回避できるという点から、3Dバイオプリンティングは広範な医療分野で応用することが可能です。3Dバイオプリンティングの主要な要素となるバイオインク、スキャフォールド材料、生体材料などに関しては、いずれも自然科学の領域では既に広く認知されています。これらの要素をうまく使うことにより、生理学的環境を再現するような組織製品を開発することが可能となります19。こうした技術は未だ初期の開発段階にありますが、将来、創薬や毒性試験において不可欠なツールに進化していくことが大いに期待されます。
参考文献
続きを確認するには、ログインするか、新規登録が必要です。
アカウントをお持ちではありませんか?