生化学的および物理的な指標によって定義される細胞外基質(ECM)微小環境は、細胞接着、増殖、分化、表現型特異的な機能の発現など、さまざまな細胞プロセスの決め手となります。これは、ECM微小環境を操作することによって細胞や組織の操作の研究とそれに関連したアプリケーションに十分な恩恵をもたらすことを意味します。既存の技術では、細胞接着などの単純なプロセスを促進するために最低限必要となる環境が提供されているにすぎません。1,2より統合的な細胞プロセスをコントロールしたい場合、単に細胞接着モチーフを提供するだけでは不十分です。
シグナル伝達経路同士のクロストークが相乗効果的に起こると、細胞接着や増殖といった細胞の応答は高まります3。最近の研究によると、複数のECM由来ペプチドを組み合わせて塗布しておいた細胞培養面では、細胞接着の強度や焦点接着が促進されることが示唆されました。また、細胞培養面に複数のECM由来ペプチドの混合物が存在すると、初代細胞や幹細胞の増殖速度を上げる可能性が示されています。4,5,6
Kollodis ECMライブラリーは、以下に記載する特徴のとおり、お客様の細胞研究において、多様な細胞表面受容体を制御するための手段を提供します。
利点
- ムール貝の接着タンパク質を含む幅広いECM由来ペプチドにより、多くの細胞培養システムのニーズに対応
- お客様の細胞の表面にある受容体を操作することにより、その細胞を特異的にターゲットとする細胞培養表面をフレキシブルに作製
- 利便性の高い、in situで形成可能な3次元MAPTrix HyGel™マトリックス微小環境
- 厳密な品質管理(QC)試験にて保証される高い品質を維持する製品群
コラーゲン由来ペプチド
コラーゲンは、細胞や基質タンパク質の接着の際の足場としての機能を備えています。近年では、この特徴に加えて、数多くのリガンドを持ち生物活性が高いという点に注目が集まっています。例えばコラーゲンは、インテグリンやヘパリン結合モチーフが得られます。α2β1インテグリンは、GFPGERやGFOGERといったGXO/SGERペプチドを認識しますが、これらは内皮細胞の結合、活性化、血管新生のための部位となります。αvβ3インテグリンの結合部位は、抗腫瘍作用を有しており、ヒト好中球の活性化や毛細血管内皮細胞の増殖を阻害する可能性があります。このほか、NC1ドメイン内のインテグリン結合部位では、α1β1またはαvβ3インテグリンの結合を介した抗血管新生作用が示されます。
図1コラーゲン由来ペプチド
フィブロネクチン由来ペプチド
細胞表面受容体の結合特異性とシグナル伝達ラミニン由来ペプチド(α1~α5、βおよびγ鎖)を制御することを目的とした培養表面設計のためのECMミメティックライブラリー。フィブロネクチンは自然環境中では、ほぼ同じ構造の単量体サブユニット2つからなる二量体として存在しています。フィブロネクチンの各サブユニットは、細胞との結合作用を持つIII9-10とIII14-Vという二つの部位を備えています(以下のフィブロネクチン分子のモジュール構造をご参照ください)。フィブロネクチンに接着するための一次受容体には、通常、α5β1などのインテグリンを介して、反復配列III10中のRGDモチーフが関与します。しかし、このインテグリンとリガンドの間の相互作用は細胞接着と拡散に際してのみ効果を発揮します。焦点接着の形成、ならびにアクチン細胞骨格のストレスファイバー束への再編成のためには、細胞表面にあるシンデカン-4などのプロテオグリカンを介したシグナル伝達がさらに必要です。この結合に関しては、通常、フィブロネクチン分子のC末端領域にある(フィブロネクチンIII型ドメイン中の反復配列12~14を含む)HepIIドメインを介して行われます。
図2フィブロネクチン由来ペプチド
ラミニン由来ペプチド(α1~α5、β、γ鎖)
ラミニンは、α、βおよびγ鎖からなるヘテロ三量体であり、基底膜中に存在する多機能を持った糖タンパク質です。インテグリン、ジストログリカン、シンデカンなどをはじめとしたいくつかの細胞表面にある分子が、ラミニン受容体として機能します。ラミニンα鎖のN末端およびC末端にある球状ドメインは、細胞の受容体との相互作用にとって不可欠な要素となります。インテグリンα6β1は、ラミニンのほとんどのアイソフォームと結合します。インテグリンα3β1は、ラミニンのアイソフォームの中でもラミニン-5、10、11とより特異的に作用し合います。インテグリンα1β1、α2β1およびα7β1は、ラミニン-1および2と結合します。また、インテグリンα6β4とラミニン-5の相互作用により、皮膚組織中の半接着斑が形成されます。α-ジストログリカンは、ラミニンのα1およびα2鎖と強固な結合を形成するほか、α5鎖とは中等度に相互作用します。
図3ラミニン由来ペプチド
その他のECM由来ペプチド
カドヘリンは、カルシウム依存性の細胞接着タンパク質であり、組織同士の境界の形成、組織の再編成、細胞分化、転移など、さまざまな形態制御プロセスに関与します。E-カドヘリンの細胞外ドメインには同種親和性結合をとる傾向がありますが、特定の条件下では異種親和性の結合もします。細胞外カドヘリンの結合は細胞間接着の土台となっており、カドヘリン接合点では広範囲に見られる傾向にあるほか、アクチン線維束と構造的に関与します。
ビトロネクチン、ニドゲン(旧称エンタクチン)、テネイシン(テナシン)、また、骨シアロタンパク質(BSP)やオステオポンチンなどに由来するリガンドであるSIBLINGs(小インテグリン結合リガンドN結合型糖タンパク質)といったECM構成成分の組み合わせも、細胞シグナル伝達を(直接または間接的に)制御することによって細胞の動態に影響を与えることが可能となります。コラーゲンやフィブロネクチンといった主要なECM構成成分とは異なり、これらのタンパク質は、主要なECM構成成分やインテグリンと相互作用する接着調節型のECMタンパク質となります。
コロディスバイオサイエンシーズ社のMAPTrix™技術は、統合的な細胞プロセスのためのインテグリン媒介型シグナル伝達を誘導あるいは制御することを目的としたペプチドモチーフのコンビネーションにより、リアルなECM微小環境を実現します。このような環境は、以下に示すように、MAPTrix HyGel™によってコーティングされたプレート上で、内皮細胞からの血管形成が見られることにより示されます。
図4ECM由来ペプチド
参考文献
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