ドラッグデリバリーにおける高分子科学の手法

【高分子材料を用いた薬物送達システム研究に最適】

薬物送達システム（DDS：drug delivery system）とは、薬物を所望の部位に送達する方法であり、様々な担体を介して薬物を放出・吸収させるものです。DDSの開発は、疾患の複雑さ、複数の治療に伴う毒性および薬物を標的部位に限定する障壁と密接に関係しています。

医学とバイオテクノロジーの急速な進歩は創薬分野を牽引し、多数の治療薬候補の開発につながっていますが、大半の化合物はその低い溶解性や安定性、短い循環時間、非特異的毒性などが問題となり、前臨床評価中にドロップアウトしてしまいます。これら課題は、新規医薬品の複雑さと多様性が相まって、バイオアベイラビリティや送達の障害を克服する新しいドラッグデリバリーシステムの進化を促しています。

高分子ナノ粒子を用いた薬物送達は、その高い生体適合性、対応可能な薬剤の多さと表面修飾の柔軟性から、有望なプラットフォームです。しかしながら、その重要性が高まっているにもかかわらず、材料や方法はポリマー合成分野以外の研究者には広く知られていないのが現状です。

本ガイドブックは、高分子ドラッグデリバリーシステムの概要を示すとともに、ドラッグデリバリー技術を実験室で利用するために必要な、プロトコールおよび製品情報が掲載されています。

本文目次

薬物送達用ポリマーミセル
薬物送達用途に向けた架橋キトサンナノ粒子および化学的修飾
薬物送達用ポリエチレングリコールハイドロゲルの調製
ポリオキサゾリン：ポリエチレングリコールの代替材料
ドラッグデリバリーへの応用に向けた生分解性コロイドキャリア
Poly(N-isopropylacrylamide)-based Stimuli-responsive Materials
Protein PEGylation
Linear and Branched PEIs as Nonviral Vectors for Gene Delivery

高分子ドラッグデリバリーシステム

高分子ドラッグデリバリーシステムには3つの主要なカテゴリがあります。「コロイド担体（ミクロ、ナノ粒子、ミセル、ミクロ／ナノゲル）」、「移植可能なネットワークまたはヒドロゲル」および「ポリマー薬物コンジュゲート」です。薬物送達システムの選択では、薬剤の性質や薬物送達システム固有の特性を考慮する必要があります（図1）。各種ドラッグデリバリーシステムの利点と制限について表1にまとめました。いずれの担体からの薬物放出も、薬物特性、ポリマー特性、および環境／in vivo条件との間の複雑な相互作用によって決定される点に注意が必要です。

どのポリマーを選択するかによってDDSの性能（カプセル化効率、放出速度、放出持続時間など）は大きく影響を受けます。薬効を改善するための三つの鍵となる薬物送達戦略（制御された薬物放出、標的化デリバリー、溶解性の向上）を実施するために、薬剤とポリマーの相互作用を考慮しながら、多様なポリマー材料の中から最適な化合物を選択する必要があります。ポリマーの種類と物性（分子量、表面電荷など）は、薬物放出のメカニズムや放出速度、薬物動態に影響を及ぼします。薬物放出のより細かい調整は、複数のタイプのポリマーを用いるか、または添加剤を用いることによって行います。シグマアルドリッチでは、薬物放出挙動が制御された、さまざまな治療薬化合物のカプセル化を行うことが可能な「NanoFabTx™製剤キット」を販売しています。

Drug

薬物の特徴（溶解性・安定性）
望ましい作用部位
望ましい放出の程度
送達における課題

Drug Delivery System

薬物担持量
投与経路

Polymer Selection

薬物との適合性
分解速度を含む、望ましい放出速度・薬物動態

Formulation

図1 ドラッグデリバリー製剤の選択プロセス

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