酸化鉄磁性ナノ粒子
酸化鉄は天然に豊富に存在する化合物であり、実験室で容易に合成することも可能です。酸化物、水酸化物、酸化-水酸化物を含む16種類の酸化鉄があり、これら鉱物は種々の酸化還元及びpH条件下における水中での反応で得られます。Fe、Oおよび/またはOHの基本組成を持ちますが、鉄の価数と全体の結晶構造が異なります。重要な酸化鉄には、針鉄鉱(goethite)、赤金鉱(akaganeite)、鱗鉄鉱(lepidocrocite)、磁鉄鉱(magnetite)、赤鉄鉱(hematite)があります1-3。
酸化鉄(IO:iron oxide)ナノ粒子は、1~100 nmの直径を有するマグヘマイト(γ-Fe2O3)および/またはマグネタイト(Fe3O4)粒子からなり、磁気データ記憶、バイオセンシング、ドラッグデリバリーなどにその用途が見いだされています4-7。ナノ粒子(NP:nanoparticle)は、その比表面積が著しく増加するため、溶液中のナノ粒子はかなり高い結合能と優れた分散性を有するようになります。2~20 nmサイズの磁性ナノ粒子は、磁場がない状態で超常磁性(すなわち、磁化がゼロ)を示し、外部の磁気源により磁化されます。この特性により、溶液中での磁性ナノ粒子の安定性が高まります。
近年、超常磁性特性、生物学的適合性、非毒性といった酸化鉄ナノ粒子の持つユニークな特性により、生物医学の分野での関心が高まっています8。鉄カルボン酸塩の熱分解による酸化鉄ナノ粒子の調製法が報告されて以降、粒径の制御、単分散性、および結晶構造に関する酸化鉄ナノ粒子の品質が著しく改善されました。独自の単層ポリマーコーティング手法を用いることで、疎水性有機配位子で被覆した酸化鉄ナノ粒子を水溶性酸化鉄ナノ粒子に変換し、生物学的用途でも利用できるようになっています。高pHと高温という厳しい条件下に置かれたこのような水溶性酸化鉄ナノ粒子が高い安定性を持つことから、ナノ粒子と他の生体分子の結合が可能になります。多糖類(例えばデキストラン)や脂質分子なども生体内研究用の新たな生体適合性コーティング材として開発されており、米国食品医薬品局の承認を得た材料のみからなるナノ粒子が得られました。有機溶媒および水のどちらにも可溶な酸化鉄ナノ粒子の品質を改善することで、酸化鉄ナノ粒子の利用がさらに拡大するでしょう。期待される用途には、
- 核磁気共鳴映像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)の造影剤
- 標的特異的ドラッグデリバリーのキャリア
- 遺伝子治療の遺伝子キャリア
- 温熱療法をベースとする癌治療の治療薬
- 体外診断薬(IVD:in-vitro diagnostics)の磁気検出プローブ
- ワクチンと抗体産生のナノアジュバント
などがあります。
図直径20 nmの酸化鉄ナノ粒子のTEM画像
References
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