刺激応答性ポリマー
刺激応答性ポリマーは、「スマート」ポリマーもしくは「環境応答性」ポリマーとしても知られ、周囲の環境変化によってそのミクロ構造が急激に変化します。外部刺激(熱、pH、イオン強度、磁場、電場、光、超音波、化学種など)が環境の変化を引き起こし、生じた巨視的変化は可逆的であるため、そのきっかけとなる要因がなくなれば、システムは初期状態に戻ることが可能です。
刺激応答性ポリマーの形状
刺激応答性ポリマーはその物理的形状によって、(a)溶液中でフリーな直鎖状ポリマー、(b)共有結合的に架橋された可逆性ゲル、(c)表面吸着ポリマーもしくは表面グラフト化ポリマーに分類されます。
図1(a)直線状ポリマー鎖の収縮(b)ゲルの膨潤と収縮(c)基板表面上での膨潤と収縮
刺激応答性ポリマーの用途
その優れた特性から、制御された薬物送達、バイオ共役(bio-conjugation)、組織工学、バイオセンサ、バイオセパレーションなどの化学的、生物学的応用が期待されています。
図2LCST(下限臨界溶液温度)前後でのPNIPAMの変化を表した模式図
図2は、温度変化による刺激応答性ポリマーミセルからの薬物放出、および細胞接着の促進を模式的に示したものです。下限臨界溶液温度(LCST:Lower Critical Solution Temperature)を超えると、刺激応答性ポリマーに物理的な変化が起きます。
温度およびpH応答性PNIPAMポリマー
温度およびpH応答性ポリマーは刺激応答性ポリマーの中でも特に注目されている材料です。その理由として以下の点が挙げられます。
- ある病態は温度やpHの変化によって発現すること
- 所定の温度やpH範囲において刺激に応答するように、材料特性を容易に調整できること
最も広く研究されている温度およびpH応答性システムは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)を基盤としたもので、様々なタイプのPNIPAMをベースとした温度もしくはpHに応答性をもつポリマーが開発されています。カルボン酸、ヒドロキシル、ケトン、エーテルおよび/または水素を使用して製品に官能性を付与することができます。たとえば、PNIPAM末端をカルボン酸やNHSエステル、アミン、マレイミド基で官能基化することができます(図3)。さらに、NIPAMとメタクリル酸とを共重合させることで、pH応答性を付与することが可能です。また、pHおよび温度応答性ヒドロゲルは、NIPAMとアクリル酸、ジアクリルアミド架橋剤を用いて調製することができます(図4)。
さらに、連鎖移動剤(CTA:chain transfer agent)の濃度を変えることで分子量を制御することができます(図5)。PNIPAMは水溶液中で約32℃のLCSTを示しますが、適切なモノマーとNIPAMとを共重合させることでLCSTを容易に調整することが可能です(図6)。
図3末端を官能基化したPNIPAMの合成
図4温度およびpH応答性PNIPAMの合成
図5PNIPAM-COOHの合成における分子量とCTA濃度の関係([AIBN]/[NIPAM]:0.1、温度:60℃、溶媒:THF)
図6poly(N-isopropylacrylate-co-5% methacrylic acid)の温度と透過率との関係(1%水溶液、pH:4.46)
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