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ホーム化学気相成長 (CVD)CPV用太陽電池作製のための高純度有機金属前駆体

CPV用太陽電池作製のための高純度有機金属前駆体

Ravi Kanjolia

Material Matters, 2020, Vol.5 No.4

はじめに

消費者の需要を満たすための太陽エネルギーの効率的な利用の上で、薄膜太陽電池の重要性がますます高まりつつあります。従来の結晶シリコン太陽電池は近年驚くほど性能が向上してきましたが、いまだ効率において物質本来の制約が問題となっており、一層の進歩を可能にする新規材料の開発が求められています。今日までの最高変換効率はIII-V族化合物半導体を用いて得られています。そのため、これら材料を費用対効果の高い方法で次世代アーキテクチャに取り入れる研究が進んでいます。特に懸念されるのは原材料のコストが高いことであり、現在、薄膜の集光型太陽光発電(CPV:concentrator photovoltaic)技術が、(所定のモジュールサイズと電力出力に対して)高価な半導体材料の使用量を削減するための方法として注目されています。

表面積と材料体積を削減した小型電池の駆動には、非常に高品質で高度な素子構造が必要です。III-V族化合物半導体層の作製に最も適した製造法は、有機金属気相エピタキシー法(MOVPE:metal organic vapor phase epitaxy)です。MOVPEで可能な、組成の化学量論比や層の厚さ、および界面粗さの制御は、内部損失を最小化して全体の変換効率を向上させるための重要な要素です。過酷な運用条件(500~1,000 sun)では、素子構造に極度の負担がかかります。性能を最大化するには、活性層、窓/バッファー層、導電性酸化物および/または金属電極層を正確に積層しなければなりません。

また、MOVPEを用いて最高品質の層を得るには、適切な前駆体化合物の選択かつ使用が重要です。これらの材料は出来る限り高純度であり、かつ均一に堆積チャンバーに供給しなければなりません。本論文では、これらの前駆体の使用に関して得られた成果について論じたいと思います。

高集積CPV多接合型太陽電池

従来の結晶シリコン型太陽電池に用いられているような単一バンドギャップ構造では、一つの活性層で光子を吸収しています。光子のエネルギー範囲は広いために活性層は素子に入射する光子すべてを吸収することができず、素子全体の変換効率には限界が生じます。活性層のバンドギャップより低いエネルギーを持つ光子は、電子を必要なエネルギー状態にまで励起するのに十分なエネルギーを供給できないために、活性層をそのまま通過し、失われてしまいます。より大きなエネルギーを持つ光子では、電流抽出のための励起および電子-正孔ペアの生成に必要なエネルギーが利用され、残りのエネルギーは熱に変換されます。理論計算によれば、標準条件[Air Mass(AM)1.5]での単一バンドギャップ太陽電池の最高出力変換は約30%です1。従来技術での変換効率はすでに23%に到達しており、アプローチを変えない限り、これ以上の効率向上の達成がますます困難であることは明らかです。

いくつかの異なるバンドギャップを持つ材料からなる多接合型太陽電池構造を用いることによって、太陽スペクトルの異なる領域をそれぞれの接合部で電気に変換し、累積的な効果によって全体の変換効率を向上させることができます。図1は3つのセルを組み合わせた多接合型太陽電池の構造であり、入射光のスペクトルと素子全体の吸収特性とが一致していることを示しています2。個々の層の組成を調整して各セクションの吸収特性をさらに一致させれば、素子全体としての光子の捕獲特性を向上させることができます。すなわち、バンドギャップを設計することで、特定の領域で最適な性能を得られるようなセルのカスタマイズが可能です。このような進歩によって、素子の効率は着実に改良されています。

多接合型太陽電池の構造と吸収スペクトル

図1多接合型太陽電池の(a)層構造、および(b)スペクトル吸収

III-V族化合物多接合型素子の性能向上のためには、入射光を効率的に集光する必要があるため、鏡とレンズを用いて500~1,000 sunエネルギーレベルにまで光を集光し、素子に照射します。近年、このような集光型光太陽光発電(CPV)が精力的に研究されており、図2に示すように、過去10年の間に材料特性と集光技術の両面で著しい進歩が見られています2。現在の最高効率は、格子整合型3接合GaInP/GaInAs (1.4eV)/Geセルの41.6%です3

各種太陽電池の最大セル変換効率の推移

図2様々な太陽電池技術における最大セル変換効率の推移2

セル変換効率は、これまで年率約0.5%~1%で上昇しており、これからも同様のペースで45%~50%まで上昇することが期待されています。多接合型素子におけるセル追加によって、3、4、5接合セルの理論効率は、それぞれ47.3%、49.3%、および50.5%に上がると予測されています4。また注目すべきは、集光技術が向上すると、従来の多接合セルでも、同じ面積で、より広い面積で利用していた光を電気に変換することができるようになります。この変則的なスケール効果は、高価な半導体の単位体積あたりの発電量が増加し、コストが低減されることを意味します。この効果に加えて、照射密度が高いほどより高い変換効率を示すCPVの特性から、より電力出力も増えることになり、次世代の発電技術として極めて有望であるといえます。

MOVPE法

基本的なMOVPEは、1970年代にGaAs薄膜の作製に初めて用いられました。それ以降、基本原理は変わりませんが、層の組成と組み合わせは極めて複雑になっています。MOVPEがより汎用的な有機金属気相成長(MOCVD:metal organic chemical vapor deposition)法と異なるのは、堆積した膜の性質についてのみです。MOCVDは、アモルファス膜、多結晶膜、およびエピタキシャル膜の作製が可能ですが、MOVPEはエピタキシャル膜に特化した方法です。この方法では、作製する膜に必要な各成分を含むガスを、加熱した基板を置いた堆積チャンバーに導入します。蒸気は基板の上を流れ、熱分解して堆積し、副生成物はキャリアガスによって表面から排除されます(図3)。前駆体の供給比を変えることで、異なる化学量論比の膜を堆積させることができます。このプロセスの制御が、高効率デバイスを製造する上で非常に重要となります。

MOVPE法の概念図

図3MOVPE法の概念図

前駆体ガスは、液体または固体の化合物を含む容器にキャリアガスを通すことで得られます。流量が変化しても、気相に取り込まれる前駆体の量を単位体積あたり一定にできるように、ガス流を蒸気で飽和させることが必要です。この飽和ガスの供給量を制御することで既知量の化合物を堆積チャンバーに導入することができます。後に紹介するように、飽和レベルを一定に保つために、前駆体容器のデザインが改良されてきました。

化合物半導体のMOVPEには高い反応性と毒性、かつ自然発火性を持つ前駆体を使用するため、これら前駆体の取扱い、高純度化、およびその使用においては多くの課題があります。III族金属の原料に使用される主な物質はトリメチル化合物であり、たとえばトリメチルガリウム(Me3Ga、TMGa)、トリメチルアルミニウム(Me3Al、TMA)、トリメチルインジウム(Me3In、TMIn)などです。V族の原料は水素化物であり、アルシン(AsH3)やホスフィン(PH3)です。高度に均一な膜の堆積のためには、チャンバー内での前駆体蒸気の完全な混合と、微粒子形成につながる前駆体同士の相互作用の最小化に関しての最適化が必要となります。

今日の成膜装置では、各堆積処理で複数の基板にコーティングします。基板の全領域で堆積層の均一性が向上するように、処理中に回転する複雑なホルダーを使用します。このホルダーの動きが、各ウエハ間およびバッチ間の再現性を向上させます。こういった先端技術によって素子の量産が可能となり、太陽電池モジュールに組み込めば設置発電量の増加につながります。必要な複合III-V族化合物素子構造の一部は分子線エピタキシー(MBE:molecular beam epitaxy)法でも製造できますが、MOVPEの方が費用効率に優れています。

III-V族化合物半導体前駆体の純度

太陽電池素子は非常に過酷な条件下で利用されるため、セル全体の構造はできる限り理想的なものでなければなりません。同様に、非放射中心や過度の熱生成による好ましくない内部損失を避けるために、金属不純物の量を極めて低く抑えなければなりません。したがって、反応チャンバーへのガスの導入の際に汚染物が入るのを避けるため、前駆体には超高純度が求められます。独自プロセスによって不純物濃度がサブppm未満である最終化合物の単離を行い、かつ基板への導入前の汚染を避けるため、厳格な処理手順で作業を行わなければなりません。III-V族半導体の高輝度LED製造において蓄積された非常に多くの経験は、最高の素子性能を得るために必要な制御性を有しかつ量産に適した方法で、目標とする品質の化合物の供給に利用できます。

特に、酸素(O)はセルの動作効率や寿命を損なう原因となる好ましくない非放射中心であることが分かっています。堆積膜中のOレベルを最小化するには、使用する前駆体ができる限り高品質のものでなければならず、特に有機アルミニウム化合物の不純物レベルは1 ppm未満でなければなりません。図4に、いくつかのMe3Al原料で検出された酸素種のレベルを示します。表1には、これらを用いて堆積した各アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)の特性を示しました。この2組のデータに直接的な相関関係があるのは明らかであり、最終的に得られる膜の高品質化には、原料中の酸素不純物量が1 ppm未満であることが条件であることがわかります5

H-NMRを用いたMe3Al原料中の-OMe成分の検出

図4プロトンNMRによって得られた、各Me3Al原料中の-OMe成分

AlGaAs膜中の酸素の二次イオン質量分析データ

表1MOVPEで作製したAlGaAs膜中のO不純物量の二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)データ

不純物による汚染をこのような超低レベルにすることに加え、MOVPE成長に使用する装置も最高品質でなければなりません。その他の酸素源を最小限にするために、徹底した装置のリークテストや表面前処理が必ず必要です。試行試験として、成長装置の状態についてバッチ間の再現性をランごとに検証しており、アルミニウム前駆体がただ1つの変動要素であることが標準相関で確かめられました。

同様に、金属不純物レベル、キャリア濃度、およびキャリア移動度との直接的な相関性からも、MOVPEに用いる原料から完全に汚染物を除去する必要性のあることが明らかとなっています。

前駆体ガスの輸送

MOVPE法の開発には、前駆体ガス相を一定の濃度で供給することが重要です。高品質の膜を得るのに必要な精密制御を行うには、幅広い製膜条件にわたって安定的に原料を供給しなければなりません。特に、電荷トラップと素子の劣化を防ぐために界面の急峻性が必要ですが、それには前駆体の供給を正確に制御する必要があります。光吸収の効率を最適化するには合金組成の化学量論比を厳密に制御することが重要であり、それには、成長チャンバーに入る前駆体のガス濃度を、1回の結晶成長の間だけでなく原料化合物を使い切るまで精密に計量しなければなりません。必要な再現性を得るために、これまでに多様なアプローチで容器の設計が検討されてきました。当初は、1本の浸漬したチューブ(=ディップチューブ)が付いた単純な容器(バブラー)を用いましたが、容器の体積が大きくなるほど、1つの原料バッチが減るにつれて蒸気飽和の効率が低下していくことが分かりました。このため、交換を早い時期に行わなければならなくなり、装置の稼働時間を失うことになります。液体の前駆体の場合、大きなバブラー(直径>75 mm)に対してはディップチューブの末端にガスが分散するよう十字型のチューブを使用することで解決を図りました(図5a)。この装置によってキャリアガスを効率的に液体中に拡散させることが可能なため、広い範囲にわたる量の原料において完全な飽和蒸気が得られることから、原料バッチの使用可能期間が延びるだけでなく、使い終わった際の化合物の残量を減らすことが出来ます。

反応容器内の構造

図5容器内前駆体の利用効率を上げるための方法。(a)十字ディップレッグ型、(b)二重チャンバー型、(c)ディスク管型

上記の方法は固体の前駆体には効果的でなく、より複雑な形状の容器を使用しなければなりません。容器設計における重要な点は、キャリアガスと前駆体との接触時間を長くすることで最も効率的に気化が可能となるようにすることです。前駆体が容器を満たしている時に前駆体を効率的に気化させることは比較的容易ですが、前駆体が減少するにつれて不均一になり、固体の前駆体が気化した場所に溝ができます。この溝を通るガスは前駆体との接触時間が短いため、容器が満たされている時と同じ気流の条件では蒸気密度が低下します。容器の断面全体での前駆体の減り方のばらつきを最小化するために、いくつかのタイプの形が効果的であることが報告されており、焼結体や穴あきディスク型管などを使用した構造のものがあります6,7。これらの管によって層流ガスが固体中を流れるようになります。また、複数のチャンバーと併用することで、性能が大きく改善されます(図5bおよび5c)。バッチ体積がより大きくなると、長期間にわたり前駆体蒸気の供給安定性を最大化する革新的な容器の必要性が再び注目されるでしょう。この点が、生産の規模拡大への最も困難な要因の1つとして残っており、商用に必要な大面積多接合型III-V族化合物半導体素子の作製には、必ず解決しなければならない課題です。

現在では、改良型容器の開発にコンピュータモデリングが使用されており、代表的なデータを図6に示しました。最もよく研究されている固体前駆体化合物であるMe3In(TMIn)におけるガス流の計算(図6a)と、ガス供給量の変動(図6b)を示しました。予測される安定性と利用効率は最先端の容器と比較して著しく改善され、試作容器の初期テストでは、広範囲にわたる運転条件において安定した供給レベルが保たれたことは注目に値します。

コンピュータモデリングを使用した容器の改良

図6a)ガス流のモデリング、(b)最新容器の設計における供給量変動のシミュレーション

高効率CPV素子の例

層構造を精密に作製するにあたって、高純度有機金属前駆体を使用することで、高性能CPVを実現することが可能となります。Fraunhofer ISE8が最近発表した、効率が40%を超える素子を図7に示します。この素子では、リン化ガリウムインジウム(Ga0.35In0.65P)、ヒ化ガリウムインジウム(Ga0.83In0.17As)、およびゲルマニウム(Ge)の3種類のPN接合の組み合わせを用いています。各材料(図1b)によって、それぞれ300~780 nm、1,020 nmまで、1,880 nmまでの波長の太陽光を吸収することが可能で、地上における太陽光スペクトルの最適な電力変換に非常に有効であると考えられています。

高効率CPV素子の例

図7Fraunhofer ISEの高効率多接合型太陽電池の(a)素子拡大写真、(b)デバイス全体の模式図8

この太陽電池は、セル面積が5.09 mm2で454 sunで動作した時の全体効率は41.1%です。より高い集光度でも高効率を維持できる(C=1,700で37.6%)ことがこのセルの重要な利点です。しかしながら、この特性は、個々の層や界面をすべて完全に構築し、電荷トラップやそれ以上に問題となる欠陥伝播を避けることができるかどうかに強く左右されます。これらの影響による品質低下は素子寿命の短縮につながりますが、商業用の素子では起きてはならない現象です。そのため、堆積技術における重要な点は、多層構造全体での高品質なエピタキシー成長の実現であり、同様に、不純物レベルは熱生成による損失を避けるために極めて低くなければなりません。理論値に近い出力特性が得られたことから、採用した材料は適切な品質を持ち、不純物による損失が最小限に抑えられていることがわかります。

まとめ

太陽光を高度に集光し、極小面積に照射する高効率(約40%)太陽電池は、(特に日差しの強い地域で)費用効率に優れた太陽光発電の方法としての可能性を持っています。高効率薄膜多接合型太陽電池の作製は大規模製造に向かっており、世界中で積極的に太陽エネルギーが採用されることで、この業界は今後数年で大きな成長を遂げようとしています。このような特殊なセルの製造に最適の技術はMOVPEです。この活気に満ちた分野の要求に応えるために、使用される有機金属前駆体は素子性能を最大化するため高純度であること、かつ堅牢で費用効率に優れた手法で導入される必要があります。

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