ソルボサーマル法によるナノ粒子の合成
Prof. Bonnie Gersten,
Queens College of the City University of New York
Chemfiles Volume 5 Article 13
図2量子ドット効果を示す棒状ZnOの吸収スペクトル
ソルボサーマル合成(Solvothermal Synthesis)は、金属、半導体、セラミック、ポリマーなどの様々な材料を作る合成法の一つです。この方法では、合成中の前駆体物質の相互作用を促進するような中~高程度の圧力(通常、1 atm~10,000 atm)と温度(通常100℃~1000℃)のもとで溶媒を使う必要があります。水を溶媒として使う場合は特に「水熱合成」と呼ばれ、熱水条件下での合成は通常水の超臨界温度(374℃)以下で行います。ソルボサーマル合成は、薄膜、バルク粉末、単結晶、ナノ結晶など様々な形状を作るのに使用できます。更に、形成される結晶の形態(球(3D)、棒(2D)、または線(1D))は、溶媒の過飽和、溶質の濃度、反応速度などで制御できます。この方法は、他の合成法では簡単には作ることができない新規材料などの、熱力学的安定状態および準安定状態を作るのに使用できます。ここ10年間のソルボサーマル合成に関連する文献の大半(およそ8割)がナノ結晶に焦点をあてたものでしたので、ここではナノ結晶ソルボサーマル合成の進展状況を取り上げたいと思います。
ナノ結晶は、そのユニークな特性によって関心を集めています。一つの例として、ソルボサーマル合成によって合成された量子ドット(QD:Quantum Dot)の発見を挙げることができます。水熱合成で作られた硫化カドミウム(CdS)のナノ粒子が、水の懸濁液中でバルクCdSに比べて青方偏移した可視吸収・発光スペクトルを持つことをLuis Brusが最初に発表しました1,2。半径が励起子ボーア半径より小さい粒子は、単一原子に似た離散的なエネルギー準位を示します。バンド状のエネルギー状態を持つバルク材料とは異なり、ナノスケールの結晶の場合は結晶の直径によって電子のエネルギー状態も変化します。この特徴を持つ材料は、「人工原子」または量子ドットと呼ばれます。最近の論文3–5によると、ソルボサーマル合成技術がII-VI族とIII-V族の半導体材料の粒径を制御する上で、今や不可欠な技術のひとつであることがはっきりしています。量子ドットの合成には通常、選択した溶媒に溶ける陽イオンの原料と、結晶の成長を制御するために量子ドットを捉えて安定化する界面活性剤が必要です。例えば、CdSeの量子ドットは、CdOをトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO:Trioctylphosphine oxide)とトリオクチルホスフィン(TOP:Trioctylphosphine)に溶かして作ります。これらは、溶媒とキャッピング剤の両方の役割を果たします。溶液を300℃まで加熱し、その後、トリブチルホスフィン(TBP:Tributylphosphine)に溶解させたセレンを添加します。すると反応は止まり、ナノ結晶が生成します6。
酸化亜鉛も、ソルボサーマル反応で作製できる量子ドット効果を示すII-VI族化合物の一例です7。ある方法では、酢酸亜鉛二水和物を50℃にて2-プロパノールに溶かします。続いてこの溶液をまず0℃に冷却し、NaOHを添加してZnOを沈殿させます。溶液を65℃まで加熱してZnOを一定時間成長させた後、成長を止めるためにキャッピング剤(1-ドデカンチオール)を懸濁液に加えます。この棒状のZnOナノ結晶(図1)は、量子効果を示す吸収スペクトル(図2)を示します。
図1棒状ZnOのTEM顕微鏡写真
図2量子ドット効果を示す棒状ZnOの吸収スペクトル
量子ドットは、ソルボサーマル法により温度、濃度、反応時間を制御することで、球、棒状、テトラポッド状、しずく状などいろいろな形で合成できます8。また、ある組成(ZnSなど)の化合物を、別のナノ結晶(CdSなど)を核にして、その周りを覆うように合成することができます9。その核は、初期成長の後に濃度を調整することで、より大きな粒子を成長させる種(結晶)として使うこともできます。量子ドットを応用する際には、大きさと形を制御することで最適化しますが、ソルボサーマル合成はこの制御の鍵となる技術です。
II-VI族材料に比べると、III-V族化合物はソルボサーマル法での作製が困難です4。ナノサイズのInSbを合成する1つの方法には、ジエチレンジアミン(DETA:Diethylenediamine)を溶媒として使い、200℃でNaBH4を用いてInCl3とSbCl3を還元する方法があります10。この場合は、不規則な形状でかつ凝集しているため量子ドット効果を示しませんでした。しかし、最近の研究では、リン化物(InP)、窒化物(GaN)、およびヒ化物(GaAs)のIII-V族半導体では量子ドット特性が示すことがわかっています。
金属粒子も量子ドット作用を示すことができますが、金属の励起子ボーア半径は半導体のものよりもずっと小さいため、合成が非常に難しいものとなっています。しかし、金属ナノ粒子の合成はナノ回路やデバイスの用途のために現在注目されていて、要求されている材料の大きさ、形、種類は、用途により異なります。たとえば、高密度磁気記憶デバイスを作るために、Fe3O4(8 nm)とFe58Pt42(4 nm)という大きさのまったく異なる2つの磁性粒子を3次元自己集合させて超格子コロイド結晶を作製するという、新しいナノサイズ強磁性材料の開発が行われました11。均一ナノFe3O4粒子は、265℃にて、アルコール、オレイン酸、オレイルアミンの存在下でフェニルエーテルと鉄(III)アセチルアセトナートから作製します11。均一ナノFe58Pt42粒子は、1,2‐ヘキサデカンジオールで白金アセチルアセトナートを還元し、オレイン酸とオレイルアミンの安定剤を用いて鉄ペンタカルボニルを分解することで合成しています11。
金属ナノ粒子や量子ドットのようなタイプの磁性粒子については、バイオセンサーでの応用が考えられています。これらのナノ粒子には、生体分子と適合させるために親水性の表面が必要です。水熱合成で作られたナノ粒子がバイオテクノロジーの用途に特に適しているのは、表面のヒドロキシル基によってナノ粒子が親水性であるためです。しかし、これらのヒドロキシル基はナノ粒子の重要な特性に影響する(たとえば、量子ドットの量子収率が減少する、金属表面を酸化するなど)ことがよくあります。しかしながら、他のソルボサーマル法を用いても界面活性剤の添加で親水性ナノ粒子を作ることができます。金粒子は不活性な性質のため、特に興味深いものです。均一金ナノ粒子は、ChenとKimuraの方法12と似たソルボサーマル還元法で作られました。この方法では、テトラクロロ金酸四水和物が水素化ホウ素ナトリウムで還元され、メルカプトコハク酸を安定剤として使用します。図3は、銅の表面に自己集合した金のナノ粒子の顕微鏡写真です。
図3自己集合した金粒子のTEM顕微鏡写真
最後に、ソルボサーマル法によるナノ粒子の合成は、ナノ回路やナノ光回路からナノ磁気、バイオテクノロジーまで、幅広い応用が考えられています。この合成法は材料の大きさや形を制御できるので、多目的に使用でき、経済的で簡便な方法といえます。
参考文献
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