はじめに
フッ素を置換基に有する芳香族化合物(ArF)は、医薬品化学および農業分野で広く応用され、その合成法は高いニーズがあります。しかし、これまでに知られているフッ化アリール合成法は、激しい条件や取り扱いの難しい試薬を用いる反応が多く、汎用性に欠けるものが少なくありません。一方、パラジウム触媒を用いたクロスカップリングは近年急速に発展し、穏やかな条件の下、アリール基に対して炭素、窒素、酸素を結合させる一般的な手法を実現しました。しかし、アリール基とフッ素の結合形成反応の開発は、これらに比べて遅れているのが現状です。この理由としては、LPd(II)(Ar)F中間体からAr-Fへの還元的脱離が、多くの場合に起こりにくいことが挙げられます。 しかし、Buchwaldらは、この問題を解決する新しい配位子(AlPhos)と、それを用いた触媒前駆体[(AlPhosPd)2・COD]を開発しました1。これらは、各種のアリールトリフラートおよび臭化アリールからの、位置選択的なAr-F結合形成を、室温という温和な条件下で実現しました。
図1.AlPhosの構造
特長
従来の配位子によるAr-F結合生成反応は、しばしば置換位置が異なった異性体の生成を伴いました。このため目的物の精製および単離が困難となり、反応の適用範囲は大きく制限されていました。しかし、AlPhos(799718)の結合した高活性な触媒前駆体(799726)は、より低温で反応を行うことができるため、望ましくない位置異性体の生成を大幅に減少、あるいは完全に抑制できます。活性化された基質の室温におけるフッ素化反応の例を見れば、新開発の触媒の威力は明らかです。さらに、AlPhosの結合したPd(0)触媒前駆体(799726)は、大気中に1週間放置した後でも触媒活性が完全に保たれており、通常の実験条件で問題なく取り扱うことができます。
主な利用例
図2.AlPhosの主な利用例
献辞
Buchwald研究室では、新しい配位子が発見されると、発明者がその配位子に名前をつける習慣になっています。AlPhosという名称は、発明者であるAaron C. Satherが、彼に対して継続的な援助とモチベーションを与えてくれた祖父Albert B. Satherに捧げたものです。
参考文献
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