セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)は、哺乳類の体内全体に広く分布しており、胃腸管のクロム親和性細胞内およびセロトニン作動性ニューロン内でL-トリプトファンから合成されます。モノアミンは、CNSの主要な神経伝達物質ですが、末梢性交換神経ニューロンによって積極的に取り込まれ、ノルエピネフリンとともに保存される一方で、別個の末梢性セロトニン作動性ニューロンの存在を示すエビデンスは依然はっきりとしていません。
末梢におけるセロトニンの主要源は血小板であり、血小板は能動輸送機構によりセロトニンを捕捉して、セロトニン:ATP複合体として保存します。セロトニンは、血管損傷箇所で血小板が凝集し止血が促進されるときに放出されます。 また、セロトニンは、放射線やシスプラチンのようながん化学療法薬へのばく露後に、腸クロム親和性細胞からも放出されます。続いて起こる腸管壁内および/または最後野内の求心性迷走神経上の5-HT3受容体の活性化は、吐き気や嘔吐を引き起こします。したがって、これらの両状況において、セロトニンは宿主生物の防衛応答を誘発します。
セロトニン受容体の分類と命名法は、セロトニン受容体の分類と命名法のためにIUPHAR(国際薬理学連合)分科会が制定した基準に従って、体系化されています。構造、伝達および作動上の特徴に基づいて、はっきりと異なる13種類のセロトニン受容体ヒトサブタイプが認められています。14番目の推定上のサブタイプ(5-ht5B)がげっ歯類で同定されていますが、ヒトではその遺伝子コード配列が終止コドンによって中断されており、確認されていません。このような受容体サブタイプは、構造によって7つ(5-HT1 ~5-HT7)に分類されています。一方、いくつかのケースでは、明らかな生理学的役割が依然確認されていないため、5-ht1E、5-ht1Fのような小文字の名称を割り当てて、これらの遺伝子産物を、証明された作動機能を有する受容体と区別しています。
対立遺伝子多型および選択的スプライシングにより、さらなる構造的および作用上の多様性が生じています。例えば、5-HT4受容体の7つのアイソフォームおよびヒト5-HT7受容体の4つのアイソフォームは、その受容体mRNAの選択的スプライシングによって生成されることが明らかになっています。さらに、2番目の細胞内ループのアミノ酸組成が異なる、最大7つの5-HT2C受容体アイソフォームが、受容体mRNA前駆体の編集によって生成されることが示されています。これらのアイソフォームはすべて異なる組織分布を示すことから、組織特異的な機能があることが示唆されます。正確な役割は不明のままですが、これらの違いによって、受容体の脱感作/内在化、細胞内輸送およびGタンパク質との共役の特異性や効率の速度が調節されている可能性があります。受容体のホモおよびヘテロ二量体形成は、受容体多様性の1つの最終形態を示していると考えられます。これは、遺伝子組換えシステムにおける5-HT1Bおよび5-HT1D受容体で証明されていますが、天然の環境での関連性はまだ証明されていません。
過去50年間、セロトニン受容体を直接的または間接的に標的にした薬剤が重要なカテゴリーの治療薬として登場し、さまざまな臨床症状の治療に使用されてきました。これらの薬剤で主要なものが、うつ病やさまざまな不安障害の治療に広く使用されている選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。これらの薬剤は、セロトニントランスポーターを選択的に遮断するため、5-HT1A受容体を調節して作用すると考えられています。不安障害の治療におけるブスピロンのような5-HT1A受容体アゴニストの有効性が証明され、この概念の裏付けは強化されました。5-HT3受容体に対する選択的アンタゴニストは、化学療法や放射線治療が誘発する嘔吐を予防することから、がん治療を一変させました。同様に、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、およびリザトリプタンのような選択的5-HT1B受容体アゴニストは、片頭痛の急性期治療における新たな標準法を確立しました。新しい治療法で標的とされているその他の5-HT受容体サブタイプには次のものがあります。5-HT2A受容体(統合失調症の治療のために、この受容体のアンタゴニストが検討されています)、5-HT2B受容体[この受容体の拮抗作用は、過敏性腸症候群(IBS)および片頭痛予防という点で有望視されています]、5-HT2C受容体(この受容体の選択的アゴニストは、満腹感を高め、肥満を低減させると予測されています)、5-HT4受容体(この受容体のアンタゴニストまたは低効果のアゴニストは、IBS治療の可能性があるとして検討されています)、推定上の5-ht6受容体(この受容体の選択的な遮断は、認知機能障害の治療に可能性をもたらすかもしれないと考えられています)。
一般的なモジュレーターおよび詳細を以下の表に示します。その他の製品一覧については、後述の「関連製品」の項をご参照ください。
脚注
a) セロトニン受容体の名称体系において、現在、ヒト受容体を最重要としています- Trends Pharmacol.Sci., 17, 103-105 (1996)。現在、5-HT1Bおよび5-HT1Dという用語は、それぞれ5-HT1Dbおよび5-HT1Daとかつて称していたヒト受容体を指しています。非ヒト相同分子種はこれらの分類に含まれます。
b) 小文字の使用は、遺伝子産物の同定のみであることを表します。
c) げっ歯類の相同分子種は、異なる薬理作用を示します:選択的アゴニスト - CP-93129、選択的アンタゴニスト - シアノピンドロール、放射性リガンド - [125I]-ヨードシアノピンドロール。
略語
BRL 15572:3-[4-(3-クロロフェニル)ピペラジン-1-イル]-1,1-ジフェニル-2-プロパノール
BRL 54443:3-(1-メチルピペリジン-4-イル)-1H-インドール-5-オール
CGS12066:7-トリフルオロメチル-4-(4-メチル-1-ピペラジニル)ピロロ[1,2-a]キノキサリン
8-OH-DPAT:8-ヒドロキシ-2-(ジ-n-プロピルアミノ)テトラリン
GR 55562:3-[3-ジメチルアミノ)プロピル]-4-ヒドロキシ-N-[4-ピリジニル)フェニル]ベンズアミド
GR 125743:N-[4-メトキシ-3-(4-メチル-1-ピペリジニル)フェニル]3-メチル-4-(4-ピリジニル) ベンズアミド
GR 127935:N-[メトキシ-3-(4-メチル-1-ピペリジニル)フェニル]-2’-メチル-4’(5-メチル-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)[1,1-ビフェニル]-4-カルボキサミド
L-694247:2-[5-[3-(4-メチルスルホニルアミノ)ベンジル-1,2,4-オキサジアゾール-5-イル]1H-インドール-3-イル]エタンアミン
LSD:リゼルギン酸ジエチルアミド
LY-334370:4-フルオロ-N-[3-(1-メチル-4-ピペリジニル)-1H-インドール-5-イル]-ベンズアミド
LY-344864:(R)-N-[3-ジメチルアミノ-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-カルバゾール-6-イル]-4-フルオロベンズアミド
NAN-190:1-(2-メトキシフェニル)-4-(4-[2-フタルイミド]ブチル)-ピペラジン
SB-216641:N-[3-(2-ジメチルアミノ)エトキシ-4-メトキシフェニル]-2’-メチル-4’-(5-メチル-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)-(1,1’-ビフェニル)-4-カルボキサミド
SB-224289:2,3,6,7-テトラヒドロ-1'-メチル-5-[2'-メチル-4'(5-メチル-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-カルボニル]フロ[2,3f]インドール-3-スピロ-4'-ピペリジン塩酸塩
U-92016A:(+)-R-2-シアノ-N,N-ジプロピル-8-アミノ-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ベンゾ[e]インドール
UH-301:5-フルオロ-8-ヒドロキシ-2-ジプロピルアミノ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン
WAY 100635:N-(2-(4-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル)エチル)-N-(2-ピリジル)-シクロヘキサンカルボキサミド三塩化物
脚注
a) mRNA編集により、最大7つの機能的アイソフォームが生成されます。
略語
AMI-193:8-[3-(4-フルオロフェノキシ)プロピル]-1-フェニル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]デカン-4-オン
BW723C86:1-[5(2-チエニルメトキシ)-1H-3-インドール]プロパン-2-アミン塩酸塩
m-CPP:1-(m-クロロフェニル)ピペラジン
DOB:2,5-ジメトキシ-4-ブロモアンフェタミン
DOI:1-(2,5-ジメトキシ-4-ヨードフェニル)-2-アミノプロパン
EGIS-7625:(1-ベンジル-4-[(2-ニトロ-4-メチル-5-アミノ)-フェニル]-ピペラジン)
LY272015:6-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-[3,4-ジメトキシフェニル)メチル-9H-ピリド[3,4b]インドール]塩酸塩
MDL 100907:(±)-2,3-ジメトキシフェニル-1-[2-(4-ピペリジン)-メタノール]
R 102444:(2R,4R)-4-ラウロイルオキシ-2-[2-[2-[2-(3-メトキシ)フェニル]エチル]フェノキシ]エチル-1-メチルピロリジン塩酸塩
RS 102221:8-[5-(5-アミノ 2,4-ジメトキシフェニル)-5-オキソペンチル]-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]デカン-2,4-ジオン
RS 127445:2-アミノ-4-(4-フルオロナフチル-1-イル)-6-イソプロピルピリミジン
SB-200646:N-(1-メチル-5-インドリル)-N-(3-ピリジル)尿素塩酸塩
SB-204741:N-(1-メチル-5-インドリル)-N-(3-メチル-5-イソチアゾリル)尿素
SB-242084:6-クロロ-5-メチル-1-[2-(2-メチルピリジル-3-オキシ)-ピリド-5-イル カルバモイル]インドリン
SB-206553:N-3-ピリジニル-3,5-ジヒドロ-5-メチル-ベンゾ(1,2-b:4,5-b’)ジピロール-1(2H)カルボキサミド
テガセロッド:2-[(5-メトキシ-1H-インドール-3-イル)メチレン]-N-ペンチルヒドラジンカルボキシイミダミド
YM348:S-2-(7-エチル-1H-フロ[2,3-g]インダゾール-1-イル)-1-メチルエチルアミン
脚注
a) 推定上の5-ht5受容体をコードする2つの遺伝子がげっ歯類で同定されており、それぞれ5-ht5Aと5-ht5Bと呼ばれています。5-ht5Bのヒト相同分子種は確認されていません。
b) 小文字の使用は、遺伝子産物の同定のみであることを表します。
c) α-サブユニットのスプライス変異型がマウスに存在します。
d) スプライス変異型は[a], [b] などと表されます。
e) 推定上ラットげっ歯類5-ht5B受容体:371 370 aa
略語
BIMU 8:(エンド-N-8-メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクト-3-イル)-2,3-ジヒドロ-3-イソプロピル-2-オキソ-1H-ベンズイミダゾール-1-カルボキサミド塩酸塩
5-CT:5-カルボキサミドトリプタミン
GR 113808:[1-2[(メチルスルホニル)アミノ]エチル]-4-ピペリジニル]メチル-1-メチル-1H-インドール-3-カルボン酸塩
5-HTQ:N,N,N-トリメチルセロトニン ヨウ化物
LSD:リゼルギン酸ジエチルアミド
ML 10302:2-(1-ピペリジニル)エチル-4-アミノ-5-クロロ-2-メトキシ安息香酸
Ro 04-6790:4-アミノ-N-(2,6 ビス-メチルアミノ-ピリミジン-4-イル)-ベンゼンスルホンアミド
Ro 63-0563:4-アミノ-N-(2,6 ビス-メチルアミノ-ピリジン-4-イル)-ベンゼンスルホンアミド
RS 67506:1-(4-アミノ-5-クロロ-2-メトキシフェニル)-3-(1-n-ブチル-4-ピペリジニル)-1-プロパノン
RS 100235:1-(8-アミノ-7-クロロ-1,4-ベンゾジオキサン-5-イル)-5-((3-(3,4-ジメトキシフェニル)プロプ-1-イル)ピペリジン-4-イル)プロパン-1-オン
SB-204070:1-ブチル-4-ピペリジニルメチル-8-アミノ-7-クロロ-1,4-ベンゾジオキサン-5-カルボン酸塩
SB-207710:1-ブチル-4-ピペリジニルメチル-8-アミノ-7-ヨード-1,4-ベンゾジオキサン-5-カルボン酸塩
SB-258719:(R)-3,N-ジメチル-N-[1-メチル-3-(4-メチルピペリジン-1-イル)プロピル]ベンゼンスルホンアミド
SB-269970:(R)-1-[3-ヒドロキシフェニル)スルホニル]-2-[2-(4-メチル-1-ピペリジニル)エチル]ピロリジン
SC 53116:(1S-シス)-4-アミノ-5-クロロ-N-[(ヘキサヒドロ-1H-ピロリジン-1-イル)メチル]-2-メトキシベンズアミド
SR 57227A:4-アミノ-(6-クロロ-2-ピリジル)-1-ピペリジン塩酸塩
h:ヒト
r:ラット
参考文献
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