低酸素検出アッセイ
組織・細胞中の酸素レベルの測定
組織中の酸素欠乏と定義される低酸素症は、血管形成障害と急激に増殖するがん細胞からの呼吸要求が増すことで起きる一次腫瘍の特徴の1つです。毛細血管は末梢に密集しており、腫瘍の微小環境は壊死中心部の酸素[O2]濃度が低く、腫瘍表面では高い[2という、酸素勾配を作り上げます(図1)。低酸素症は細胞増殖、代謝能、免疫反応、および化学療法に対する抵抗性など、転移疾患のさまざまな面に影響を与えます。細胞レベルでは、低酸素反応は低酸素誘導(HIF)転写因子の仲介で起き、遺伝子発現を制御して常在細胞の順応を促します。低酸素反応の基礎的な機構を解明することは、腫瘍進行を標的とする治療法の開発に極めて重要です。メルクは低酸素検出キットおよび固定/生細胞・組織中の酸素レベルを測定するアッセイを提供しています。
図1.低酸素の腫瘍微小環境。固形腫瘍は血液供給を上回るほど急速に増殖し、腫瘍領域の酸素濃度は健康な組織よりも有意に低下します。低酸素状態によってがん細胞の変異速度、薬剤排出、およびアポトーシスの回避が増えるほか、細胞全体の増殖、薬剤溶解性、ならびに可溶性サイトカインおよび栄養素の分泌が減少します。
EF5低酸素状態検出キットの主な利点:
- ピモニダゾールと異なり、単一の親油性EF5は迅速かつ均一に組織に分布
- EF5結合画像を検量することで各細胞のpO2値を定量可能
- 2000超の文献で引用
図2.固定組織中の低酸素状態検出。ヒト皮膚におけるEF5結合(赤、図A、B)と血管(緑、CD31;図A)または増殖中細胞(緑;Ki67-図B)との関係がわかります。
生細胞における低酸素状態検出
生細胞における低酸素状態はがんや虚血など、いくつかの病理状態に関連しています。ピモニダゾールやEF5など、既存の低酸素状態検出プローブは細胞を固定してから免疫染色する必要があります。BioTracker 520低酸素検出緑色素(BioTracker 520 Green Hypoxia Dye)は、生細胞における低酸素状態を検出するための蛍光イメージングプローブです(図3)。ピモニダゾールと同等の感度があるBioTracker低酸素状態検出色素は、生細胞の蛍光イメージングおよびフローサイトメトリーの用途に使用できます(図4およ・5)。
CellASIC® ONIX2マイクロ流体システムを用いた生細胞中のがん細胞内低酸素状態のイメージング
図3. BioTracker hypoxia dyeのメカニズム。低酸素状態で BioTracker 520 Green Hypoxia Dyeのアゾ塩基が還元的に開裂し、明るい緑色蛍光を発する2Me RGを形成します。酸素濃度が低い(より重度の低酸素状態)ほど、蛍光が強くなります。
図4.がん細胞における低酸素状態の測定。低酸素濃度環境のA549生細胞をBioTracker 520 Green Hypoxia Dyeで蛍光イメージング。
図5.フローサイトメトリーを用いた低酸素状態検出。A549細胞をさまざまな酸素濃度で6時間インキュベーションし、1 μM BioTracker 520 Green Hypoxia Dyeで染色した後、フローサイトメトリーで分析。酸素濃度が低いほど蛍光が強くなり、フローサイトメトリーによる低酸素検出プローブとして本色素が機能することを示しています。
低酸素微小環境のマイクロ流体制御
CellASIC® ONIX2イメージングプラットフォームは1台で培地の潅流、ガス交換、および温度を管理し、細胞の長期自動培養に加え生細胞の連続イメージングができます。培地や流量をユーザーが設定変更でき、加圧流路や培養パラメータを管理できる画期的な設計により、さまざまな環境状況に細胞を置くことができます。
培養ユニットはマイクロ流体プレートおよび環境管理システムで構成されています(図6)。プレートはガス透過材と通気チャネルでできており、拡散の影響を最小化します。微量の培養によって、実験条件の迅速な変更など、化学物質を時間・空間的により高精度な管理を行うことができます。細胞加圧、プログラム化可能な培地潅流、温度、およびガス濃度をコントローラーで制御します。コンパクトで光学的透明度が高いため、プレートは大半の倒立顕微鏡とセットで自動ダイナミック分析に使用することができます。蛍光イメージングと併用すると、ONIX2は標識タンパク質の発現変化のモニタリングに使用したり(図7・8)、複数の細胞タイプを識別し同時に分析したりすることができます。
図6.CellASICの模式図 ONIX2® コントローラー、マニフォールド、およびマイクロ流体プレートを装着したONIX2イメージングシステム。
図7.化学抵抗がHIF1αタンパク質濃度に並行して変化。A)低酸素状態から正常酸素状態に復帰させ、その間、細胞を固定・染色して総細胞と低酸素応答性分画を特定。B)Hif1αレベルは化学抵抗性の変化に相関し、長期低酸素ばく露4時間目にピークに達した。総細胞(DAPI)および低酸素応答性分画(Hif1α)の正規化した蛍光強度(両画像とも20倍)。
図8がん細胞株の低酸素応答。さまざまな組織に由来し、転移可能性が異なるがん細胞株8種(MDA-MB-231、M4A4、MCF7、HT1080、A549、A431、HeLa、HCT116)を低酸素(標準酸素濃度への復帰有/無)の条件下で、細胞毒性物質スタウロスポリン(STX)にばく露。
結論
低酸素症は、細胞増殖、細胞毒性物質に対する抵抗性、細胞死のメカニズム、および転移の可能性など、腫瘍細胞の多くの機能およびプロセスに影響することがわかっています。低酸素症のメカニズムとプロセスをさらに解明すれば、がんの進行を予防し、より有効性が高く確固とした化学療法を開発できることでしょう。どのような実験アプローチに対しても、メルクは画期的な方法・製品へのアプローチを素早く提示することで、ライフサイエンスの難題解決に貢献します。固定組織から生細胞のイメージングまで各種の試薬、ツール、および器具装置を取り揃え、がんやその他の疾患状態における低酸素状態の研究を後押し致します。
参考文献
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