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ホーム高分子合成 (ポリマー合成)リソグラフィ/ナノパターニング用ヘキサフルオロアルコール官能基化メタクリル酸モノマー

リソグラフィ/ナノパターニング用ヘキサフルオロアルコール官能基化メタクリル酸モノマー

Daniel P. Sanders, Ratnam Sooriyakumaran, Richard A. DiPietro

IBM Almaden Research Center, San Jose, CA

Material Matters 2011, Vol.6 No.1

はじめに

ムーアの法則(Moore's Law)を維持していくためには、マイクロエレクトロニクスデバイスの集積密度を常に高めていく必要があります。現在の半導体デバイスに見られるような高密度回路を作製するには、図1に示すようなリソグラフィ技術を用いた感光性ポリマー薄膜へのパターニングを用います1,2

リソグラフィ技術の概略

図1ポジ型あるいはネガ型レジストを用いてパターンを形成するリソグラフィ技術1

はじめに、シリコンウエハ上に感光性材料(フォトレジスト)の層を所定の厚さになるようスピンコートで塗布します。この膜に、マスクと光学系を通して適切な波長の紫外光を照射することで露光します。フォトレジストには、一般に「solubility switch」ともいえるポリマーが含まれており、ポリマー薄膜の溶解性(例えば溶解速度)を光化学的に変化させることが可能です3-5。また、現在の化学増幅レジストには、高エネルギー照射によって分解して強酸を生成する光酸発生剤(PAG:photoacid generator)が含まれています。この酸は、フォトレジストポリマーに含まれる、酸に対して不安定な保護基の開裂や、フォトレジストポリマー鎖間の架橋結合の生成などの化学反応に対して触媒作用をもち、フォトレジストの溶解特性を変化させます3-5。現像用溶媒を用いて、露光した材料(ポジ型レジスト)、もしくは未露光の材料(ネガ型レジスト)を選択的に除去(現像)することで、潜在パターンをフォトレジスト上に顕在化します。最終的に、反応性イオンエッチングなどによって、フォトレジストパターンが下地の基板に転写されます。

リソグラフパターニング材料の重要な特性

光学リソグラフィでは、次のレイリーの式に従い、最終的に得られる分解能は入射光の波長の関数で表されます。

レイリーの式

ここでRは分解能(例えば最小限界寸法)、λは入射光の波長、NAはレンズ系の開口数です。また、k1はプロセスによって決まる係数であり、一般に0.5から0.25の範囲の値をとります1,2。現在、より微細な寸法を得るために露光光の波長が短波長に移行しており、新しい入射波長に対応できるフォトレジストを再設計する必要があります1-5。特に、レジスト中の感光性を持たない成分は、入射光を効率的に利用するために相対的に透明でなければなりません。例えば4-ヒドロキシスチレンを含むフォトレジストポリマー(PHS:polyhydroxystyrene)やその共重合体は、優れた光学特性、溶解性、およびエッチング特性を持つことから248 nm照射に広く使用されていますが、この芳香族ポリマーは193 nmに強い吸収を持ちます。その後、193 nmで透過性を持つアクリラート、メタクリラート、または環状オレフィンポリマーをベースとした新しいフォトレジストが開発されました。化学増幅フォトレジスト材料についての包括的な議論は他の文献3-5に譲りますが、新しいフォトレジスト材料を設計する上で考慮しなければいけない1つの重要なパラメータは、フォトレジストの溶解特性です。前述した248 nmイメージングに使用されるヒドロキシスチレンを含んだ材料は、業界標準の現像液である0.26 N水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)に対して、非露光部の膨潤や過度の薄膜化を引き起こすことなく、極めて均一に溶解します。一方、カルボン酸基を溶解性官能基に用いた前述の193 nmフォトレジストポリマーの基本骨格は、多くの場合非線形の溶解性を示し、現像の初期段階で著しく膨潤します。そのため、これらの材料に基づいたフォトレジストの開発は、特にネガ型の場合に極めて困難になっています。

HFAメタクリラートポリマーの優れた特性

そこで、その代替策として、フェノール基の代わりに高フッ素化アルコールを溶解性官能基として用いるフォトレジスト材料が開発されています3,6。特に六フッ化アルコール(HFA、例えば1,1,1,3,3,3-hexafluoro-2-propanol)の共役塩基は、電子吸引性の高い三フッ化メチル基によって誘導的に安定化されており、前述したフェノール系材料のpKa(約11)と同程度の値を示します7

HFA官能基化ポリマーは248 nm、193 nm、および157 nmリソグラフィ向けに設計されていますが、HFA官能基化メタクリラートモノマー(図2参照)を基盤としたリソグラフィ材料は、溶解性が線形であり膨潤性が小さいことから、193 nmのドライおよび液浸リソグラフィによく用いられています3,6,8-10

HFA官能基化メタクリラートモノマー

図2193 nmリソグラフィ用に設計されたHFA官能基化メタクリラートモノマー

この溶解特性は、カルボン酸のみをベースとしたリソグラフィ材料とは対照的です。例えば、図3は、メタクリル酸共重合体が(水晶振動子マイクロバランス(QCM:quartz crystal microbalance)によって測定される膜厚の増加および抵抗のシフトからも明らかなように、)現像の初期段階で著しく膨潤することを示しています。一方、HFAベースのPoly(1)の溶解特性は線形です。

QCMで測定したメタクリル酸共重合体の溶解特性

図3QCMで測定したメタクリル酸共重合体の溶解特性。:poly(methylmethacrylate-co-methacrylic acid) 4:1、:図2のモノマー(1)を用いて調製したHFAメタクリラートポリマー。

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代表的なHFAメタクリラートホモポリマーの特性

一連のホモポリマーは、図2に示したHFAメタクリラートをAIBN開始フリーラジカル重合によって重合することで得られ、その特性を表1に示します。低分子量ポリマーほど溶解速度が速いため、低分子量(<10 kDa)のポリマーは、連鎖移動剤(CTA:chain transfer agent)として1-dodecanethiolを用いて合成されました。CTAを用いない場合は、高分子量のポリマーを容易に得ることが可能です。HFAメタクリラートポリマーの特性は、分子量の調整、連結基の構造の変更、または他のコモノマーとの共重合によって調整することができます11,12。特に、45などの多環基を持つHFAメタクリラートは、多環基が酸素反応性イオンエッチング抵抗を増加させる働きをするフォトレジストポリマーのコモノマーとして使用されます6,8-10。一方、短く分岐した連結基を持つモノマー1は、水との高い接触角とTMAH溶解速度がより重要とされる液浸リソグラフィに特に適しています12-14

Polymer aMn
[g/mol]
PDITaDissolution Rate in TMAHStatic water
contact angle
Static, advancing
contact angle b
Static, receding
contact angle b
    0.26N0.52N   
Poly(1)4,22015689 oC125 nm/s1010 nm/s83o87o66o
Poly(2)6,1301.1466 oC990 nm/s 71o77o50o
Poly(3)5,9201.5655 oC245 nm/s 75o83o58o
Poly(4)9,2901.32159 oC~0 nm/s3.2 nm/s77o81o65o
Poly(5)11,0001.26148 oC~0 nm/s~0 nm/s86o86o74o
表1HFAメタクリラートホモポリマーとそのUVリソグラフィに関連する特性

【表内注釈】
a Prepared from Monomers 1-5 in Figure 2, respectively, using AIBN-initiated free radical polymerization. b Measured using a tilting table contact angle goniometer.

リソグラフィ/ナノパターニング材料へのHFAメタクリラートの適用

193 nmフォトレジスト材料

図4に、水晶振動子マイクロバランスで測定した248 nmフォトレジストと193 nmフォトレジストの254 nm Hg/Xeランプの露光時間に対する溶解特性を示しました。ヒドロキシスチレン基を含んだ248 nmフォトレジストと比較して、中間の照射量で生成する、部分的に脱保護された193 nmフォトレジストの場合、TMAH現像液によって著しく膨潤します。イメージング性能という点では、このような膨潤は、回路パターンの側壁の荒れ(LER:line edge roughness)とパターン幅の荒れ(LWR:line width roughness)の増加およびプロセス許容度の減少につながります。対照的に、モノマー4図4、HFAレジスト)を含むフォトレジストは、ポリヒドロキシスチレンをベースとした248 nmフォトレジストと同様の溶解特性を示します8,9

フォトレジストの溶解特性

図4溶解特性。:248 nmフォトレジスト、:193 nmフォトレジスト、:poly(tert-butyl methacrylate-co-4)ベースのHFA含有193 nmフォトレジスト。

193 nm水液浸リソグラフィ用アルカリ溶解性トップコート

現在の半導体産業では157 nmリソグラフィを導入する代わりに、193 nmリソグラフィの能力を拡張した液浸リソグラフィを引き続き使用しています15。液浸リソグラフィでは、空気より屈折率が大きい浸漬液を、露光システムの最終レンズとフォトレジストの間に置きます。浸漬液を使うことで、開口数が1より大きなイメージング系(いわゆるhyper-NAイメージング系)を現像でき、開口数にかかわらず使用可能な焦点深度が増え、その結果プロセス許容度が改善されます15。193 nmでは水が理想的な浸漬液であり、その理由として、高い透明度を持つこと、低コストで高純度のものをラボで容易に入手できること、および熱、粘性、表面張力特性が優れていることが挙げられます。液浸リソグラフィでは入射光の有効波長(λo/n)のみを変え、真空波長(λo)は変えないため、現行の193 nm世代の大部分の技術(レーザー光源、光学材料、フォトレジスト、および反射防止材料)を継続して利用することができます。

液浸リソグラフィの導入に伴い、浸漬液と直接接触可能なフォトレジスト材料の開発が必要です16,17図5に示すように、浸漬液はフォトレジストに対して好ましくない影響を及ぼし、光酸発生剤などの重要な成分が溶出することで、イメージング性能を悪化させるとともに露光機を汚染する可能性をもっています16-18。この問題を解決するために、保護用にポリマートップコートを用いて浸漬液へのフォトレジスト成分の溶出量を減らし、その結果、浸漬スキャナーを保護してフォトレジストパターニング性能を維持することができます16。トップコート材料は、「film pulling」(浸漬液のメニスカスの後方に膜や液滴の跡を残すこと)を起こすことなくウエハを素早くスキャンできるように、水に対して高い後退接触角を持つように設計されます19。これらの残留した水滴はリソグラフ印刷による最終的な微細形状に欠陥を生じさせるため、トップコートに対する浸漬液の後退接触角が、最大ウエハスキャン速度と装置のスループットを実質的に決定します16-17,19

液浸リソグラフィにおける材料間の主要な相互作用を示した模式図

図5液浸リソグラフィにおける材料間の主要な相互作用を示した模式図。

HFAメタクリラートポリマーは、高い後退接触角と適度なTMAH溶解速度(カルボン酸など、その他のアルカリ溶解性官能基を含むポリマーと比較して)とを併せ持つため、トップコート用材料に特に適しています12-14,16,20。その上、HFAメタクリラートポリマーはアルコール系キャスト溶媒に高い溶解性を持つため、最小限の相互拡散でフォトレジスト上にスピンキャストできます。

特に、ポリマー6図6参照)は接触角と溶解速度性能のバランスが理想的であり、トップコート材料設計において基本となる物質です12,16。1,1,1,3,3,3-hexafluoroprop-2-yl methacrylateなどのフルオロアルキルメタクリラートと共重合させることで、溶解速度を犠牲にする代わりに接触角が増加します(図6のポリマー7参照)。一方で、トップコート-フォトレジスト間の相互作用を調整するために強酸基を含むコモノマー(例えば、図6、ポリマー8の2-acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid)を用いることで、水の接触角の問題はあるものの、パターンプロファイルを改善(例えば、T-topを減らす)することが可能です14

193 nm液浸リソグラフィ用トップコートポリマーの例

図6193 nm液浸リソグラフィ用トップコートポリマーの例

193 nm水液浸リソグラフィ用表面活性ポリマー添加剤

保護トップコートは水液浸リソグラフィにしばしば使用されますが、トップコートを用いるリソグラフィ技術は、従来のドライリソグラフィと比較して工程と材料費が増えます。代替策として、ノントップコートフォトレジストが液浸リソグラフィ向けに開発されています。この方法では、少量の表面活性フッ素ポリマー添加剤が膜形成の間にフォトレジスト表面に分離して光酸発生剤の溶出を最小化し、浸漬液-フォトレジスト間の相互作用をコントロールします16。これらのノントップコートフォトレジストは、トップコート材料を利用した液浸リソグラフィの高スループットと低欠陥特性を、余分な材料や工程コストを追加することなく実現しようとするものです。

さまざまな表面活性フッ素ポリマー添加剤が、ノントップコート液浸フォトレジスト用に開発されています16。一般に、ほとんどの添加剤は、現像液溶解型(トップコート型)と切替可能型(レジスト型)のいずれかに分類できます。現像液溶解型添加剤に必要な物性は、高い水接触角や水を溶媒とした現像液に対する適度な溶解速度といった性質であり、液浸用トップコートとして有用なHFAメタクリラートの多くの物性と同じです。切替可能型添加剤は、表面特性が最適化されたフッ素化フォトレジストそのものです。多くのフッ素化表面活性樹脂はパターニング中に良好な水接触角を示しますが、HFAメタクリラート材料はアルカリ現像液の存在下でpHが変化することで疎水性から親水性へ特性が変わるため、現像中に現像液の良好な濡れ性が確保されます12,16。例えば、単純なフッ素化ポリマー添加剤9が入った未露光のノントップコートフォトレジストは、水および水性TMAH現像液にも高い後退接触角を示しますが、HFAベースの添加剤ポリマー10を含んだ同様のノントップコートフォトレジストは、MAH現像液に対してはるかに小さい接触角を示します(図7参照)。

ノントップコートフォトレジストの水およびTMAH現像液に対する静的後退接触角

図7ポリマー添加剤(ポリマー910)入りノントップコートフォトレジストの水およびTMAH現像液に対する静的後退接触角

インパクト

HFAメタクリラートを含んだ最新のポジ型フォトレジストは、IBMにおける193 nmドライリソグラフィを用いて製造したいくつかの世代のチップ生産に、大きなインパクトをもたらしています。また、これらの化学は、半導体産業全体で用いられている液浸用トップコートとノントップコートフォトレジストに導入され、液浸リソグラフィ技術のチップ量産への急速な採用において重要な役割を果たしています。HFA-MAモノマーの持つ材料固有の柔軟性が、マイクロエレクトロニクスだけでなく半導体産業以外の応用において、ポリマーの特性と性能の精密制御による大きな可能性を研究者に与えています。

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参考文献

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