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グラフトポリマー層を使用した表面改質用汎用プラットフォーム

Bogdan Zdyrko<sup>1</sup>, Viktor Klep<sup>2</sup>, Igor Luzinov<sup>*1,2</sup>

Material Matters, 2008, Vol. 3 No.2

はじめに

極薄(末端-)グラフトポリマー層は、粘着性、潤滑性、濡れ性、摩擦、生体適合性などの、基板の表面特性に著しい影響を与えることがよく知られています。これらの層は、さまざまな材料のバルク性能を変化させることなく、表面特性を調製するためにしばしば利用されます。

この論文では、さまざまな無機および高分子基板上に化学的にグラフト化されたナノ厚みの高分子膜(ポリマーブラシ)の合成と特性解析に焦点を当てています。合成は、最近開発された高分子固着層法(macromolecular anchoring layer approach)を用いて行いました1。疎水性、親水性、および官能性/機能性表面を作製するための、このポリマーグラフト化手法の応用例を示します。機能性材料(光学的、超疎水性など)が、高分子固着層法を用いて開発されました。

ポリマーグラフト膜のナノファブリケーション用高分子プラットフォーム

ポリマーの化学的グラフト化は、「grafting to」法または「grafting from」法によって行うことができます2。「grafting to」手法では、末端官能性ポリマー分子が、表面に存在する相補的官能基と反応して連結鎖を形成します。「grafting from」手法では、付着した(通常は共有結合による)開始基により基板表面から開始される重合を利用します。開発されたグラフト化の方法(「to」と「from」)のほとんどは、ポリマーブラシを合成するために、(末端)官能性ポリマーまたは低分子量物質(開始剤など)を基板に付着させなければなりません。通常、結合の方法は比較的複雑で、基板/(高)分子の組み合わせごとに固有のものです。

付着のための別法には、表面と官能性(高)分子の両者に対し活性を持つ高分子固着(単)層が関係します3–6。ポリマーは、最初の表面改質だけでなく、反応性の高い一次固着層の生成にも使用されます。基板上に堆積すると、一次層は、まず共有結合を形成し表面と反応します(図1)。付着した高分子の「ループ」および「末端」部分にある反応性ユニットは、表面に結合されません7。これらのフリーな基は、それに続く化学的改質反応のための合成能を提供し、その後の官能性(高)分子を付着させるための反応部位の役割を果たします。

基板に付着した反応性ポリマーの模式図

図1a)基板に付着した反応性ポリマーの模式図、(b)PGMAの化学構造、(c)ディップコーティングによってシリコンウエハ上に堆積させたPGMA層のトポグラフィーを示すAFM画像。サイズ:10 × 10 μm

筆者らの研究では(図1b)、ポリ(メタクリル酸グリシジル)(PGMA)の高分子を使用して一次固着ポリマー層を形成しました。エポキシ基はさまざまな化学的性質を備えているため、表面に付着させるのに必要な開始剤/高分子を選択する上での柔軟性を提供します。各種表面へのPGMAの付着について研究した結果、均一(図1c)かつ均質なエポキシを含むポリマー層をディップコーティングによって表面上に堆積できることが分かりました1,8–13。エポキシ含有のポリマー層は、ポリマー(PET、ポリエチレン、PP、PVDF、シリコン樹脂、ナイロン)の表面および無機(シリカ、ガラス、チタン、アルミナ、金、銀)の表面上に単分子膜として堆積できます。得られたPGMA層は平滑かつ強固で、これは、PGMAが表面に化学的に結合していることを示唆しています。その後、「grafting to」法および「grafting from」法を用いて、PGMAプラットフォームからグラフト層を効果的に作製しました。

PGMA一次層を用いた「grafting from」法を使用して、制御された/「リビング」原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)のための効果的なマクロ開始剤を合成しました8,11,14,15。最初の表面改質は、PGMAの薄層を用いて行いました。PGMAのエポキシ基とブロモ酢酸(BAA)のカルボキシ官能基の間の反応によって、ATRPマクロ開始剤が基板表面上に合成されました(図2、下の行)。ポリスチレン4、ポリ(オリゴエチレングリコールメタクリラート)8,16、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)17、およびポリ(ビニルピリジン)(PVP)18のブラシが、ATRPによりPGMA/BAA修飾された基板上に合成されました。モデルのシリコン表面上への重合に続き、この手法を高分子基板上へのグラフト層の合成用に開発しました。PET13およびPVDF18の表面を、ATRPで合成したポリマーブラシを用いて改質しました。

基板表面へのPGMAの付着の例

図2PGMAにより活性化された表面からの「grafting to」(上の行)および「grafting from」(下の行)の模式図

末端官能性ポリスチレン(PS)およびポリ(エチレングリコール)(PEG)が、PGMA一次層を通じて溶融液から(シリコンウエハへの)効果的に付着することも、「grafting to」法によって同様に実証されました(図2、上の行)10,12,19。さらに、このグラフト化法を用いて、ポリマーを高分子膜とファイバーに付着させました。親水性/極性(PEG、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、PEI)13および疎水性(ポリペンタフルオロスチレン)20ポリマーを、PET、ポリエチレン、木綿、およびナイロンに付着させました。

ポリマーグラフト法の実際的な応用

超疎水性コーティングの合成

固着層法の万能性を利用し、ポリエステル繊維(PET繊維)の境界に化学的に固着された粗い疎水性の層を持つ布地の表面を改質しました21。基本的にこの改質プロセスは、2つの主なステップで構成されています。最初のステップである表面改質では、極薄のPGMAの反応性層で被覆したシリカ粒子を繊維の表面上に堆積しました。2番目のステップでは、疎水性ポリマー[ポリ(スチレン-b-(エチレン-co-ブチレン)-b-スチレン)、SEBS]を繊維表面とナノ粒子にグラフトし、繊維境界に化学的に固着された極薄で粗い疎水性層を生成しました。

PET織物の撥水性を、水接触角(WCA:water contact angle)を測定することにより評価しました。図3に、元のPET織物(図3b)、SEBSを用いグラフト化した織物(図3c)、および引き続くSEBS単分子膜固着によりナノ粒子で改質した織物(図3d)の濡れ性を示します。WCAの増加は明らかにグラフト層と2重の粗さの導入に起因しており、最初の粗さは織物の構造自体によるもの、2番目の粗さはナノ粒子の層に由来するものです。

PGMA改質されたシリカ粒子

図3a)PET繊維に付着したPGMA改質されたシリカ粒子のTEH画像、水接触角(WCA)測定:(b)織物(無改質)、(c)SEBSのみでグラフト化した織物、(d)ナノ粒子改質およびSEBSグラフト化

光学的に活性な銀ナノ粒子アレイ

銀ナノ粒子(Ag NP)の鎖状埋め込みアレイを持つ光学活性なフレキシブル高分子膜を、PGMA一次固着層を用いて作製しました22。具体的には、平坦な基板上に堆積されパターン付けされたPVPグラフトポリマー層(ポリマーブラシ)を「マスター」として使用しAg NPの組織化を誘導しました。規則的に整列したナノ粒子の層をPDMS膜に転写した後、「マスター」を再利用して次の膜を作製しました。

パターン付けされたPVP層を平坦な基板上に作製するために、シリコンウエハの表面をPGMA単分子膜で改質しました。次に、前述のように作製した反応性表面の一部を、毛管力リソグラフィ(CFL:capillary force lithography)を用いてポリスチレンレジスト層で保護しました。その後、非保護領域を、溶媒蒸気の存在下、低温でPVPグラフト化しました。すなわち、非遮蔽(非保護)基板領域にカルボキシ末端PVPを40℃の温度で固着しましたが、これはPSとPVPの両方のガラス転位温度(Tg)より約60℃低い温度です。グラフト化中にPSのパターンを保つために、プロセス温度を低くすることが必要でした。PGMA層のエポキシ基の高い反応性により、PVP鎖の付着とPSパターンの保持が可能になります。銀ナノ粒子をアレイ中にアセンブルし、透明なポリマーマトリックス中に転写しました。PVPマスターの原子間力顕微鏡(AFM:atomic force microscopy)画像、PVPストライプにアセンブルしたAg NP、およびPDMS透明マトリックスに埋め込まれたAg NP一次元構造体の紫外可視吸収スペクトルを図4に示します。紫外可視スペクトルの2つのピークは2種類のプラズモンモードを表し、1つは電子の集合的な振動が構造体の向きに平行の縦モード、もう1つは電子の振動が構造体に垂直の横モードです。

銀ナノ粒子アレイのAFM画像

図4銀ナノ粒子調製プロセスのAFM画像(すべて5 × 5 μm、縦軸スケールは50 nm)。(a)PGMAへの溶媒を用いたグラフト化により得られたPVPストライプ、(b)PVPパターンに吸着したAg NP、(c)2種類の偏光を用いて測定した、PDMSマトリックス中のAg NP一次元構造体の紫外可視吸収スペクトル。

BaTiO3印刷のためのシリコーン樹脂改質

一次PGMA固着層をベースに、BaTiO3前駆体印刷用PDMSスタンプ向け親水化の手順を設計しました。簡潔には、改質手順の初期段階で、シルガード184(ダウコーニング社)製PDMS膜を低強度の高周波プラズマで処理し、活性な表面官能性を作製しました。次に、ディップコーティングにより表面上にPGMA薄膜を堆積し、アニールしました。エポキシ官能化されたPDMS膜を、「grafting to」法により親水性ポリマーで改質しました。ポリ(アクリルアミド-co-アクリル酸)を表面改質剤として使用しました。

信頼性の高い濡れ性と溶液移動のために、印刷スタンプの表面エネルギーが低いことが不可欠です。整然とした改質PDMSスタンプのAFM表面形態とBaTiO3前駆体溶液との濡れ性を図5に示します。スタンプの濡れ性は、改質後大幅に改善されました。改質したPDMSによる試験印刷で、優れたパターン転写と耐久性が示されました。さらに、スタンプは、転写パターンが著しく劣化することなく再使用可能(少なくとも6回)であることが実証されました。印刷されたBaTiO3前駆体のAFM画像(図6)は、エッジのシャープさとパターンの再現性が優れていることを示しています。

PDMSスタンプのAFMトポグラフィー画像

図5a)モデルPDMSスタンプのAFMトポグラフィー画像。(b)ポリ(アクリルアミド-co-アクリル酸)によるスタンプの親水化。縦軸スケール:500 nm(a);200 nm(b)、画像サイズ:20 × 20 mm。(c,d)PDMSスタンプとBaTiO3前駆体溶液の濡れ。

Siウエハ表面上に印刷されたBaTiO3前駆体

図6改質PDMSスタンプでSiウエハ表面上に印刷されたBaTiO3前駆体。(a)第1世代インプリントパターンの形態。(b)第6世代インプリントパターンの形態。画像の縦軸スケール:200 nm、画像サイズ:20 × 20 mm。

結論

高分子固着層法を用いた各種表面の改質について、最近の研究成果の概要を紹介しました。この手法は、官能性ポリマー層をグラフト化するための、実質的に万能な方法として有用であることが実証されました。開発されたポリマーグラフト化手法は、平坦面、繊維、布地など、広範にわたる無機および高分子材料の表面改質に直ちに適用可能です。高分子固着層をベースにした機能材料を開発しました。具体的には、PET織物から超疎水性の布地を作成しました。PGMA層上に合成、パターン付けされた化学ブラシを用いて、光学的に活性な銀ナノ粒子アレイを作製しました。最後に、BaTiO3前駆体(誘電率の高い絶縁体)を、1.5 μmより高い空間分解能で表面上に印刷しました。

Acknowledgments

The research presented has been supported by the National Science Foundation CTS-0456550 and DMR-0602528 Grants, ERC Program of National Science Foundation under Award Number EEC-9731680, and Grants M01- CL03, C05-CL01 and C04-CL06 from the Department of Commerce through the National Textile Center. Authors thank Dr. Viktor Balema and Dr. Shashi Jasty for collaboration. Igor Luzinov would like to acknowledge present and former members of his research group: K. Swaminatha Iyer, Yong Liu, John Draper, Karthik Ramaratnam, and Oleksandr Burtovyy, who conducted a significant fraction of the research presented.

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