金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)は、幅広い用途が期待されている比較的新しい多孔性結晶性材料です。MOFは、金属イオンまたは金属クラスターと、網目状構造内でリンカーとして機能する多方向に広がる有機配位子が結合したものです。この網目構造は、一次元、二次元または三次元に広がる周期構造をとることができます。金属と有機配位子は規則的な配列構造が形成されるように集合して、ゼオライトに似た、多くの場合は多孔性の堅牢な物質を生じます。MOFは、既知の材料では最も大きな表面積を有しています。現在報告されている多孔性MOFの多くは、材料のガス吸着等温線に基づいてIUPACが定義するミクロポーラス(孔直径2 nm未満)材料であり、メソポーラス(孔直径2~50 nm)材料の最近の報告例は少数です。MOFは、内部表面積がきわめて大きいことに加え、予測に基づいて有機ユニットを変更することにより特定の用途に合う材料を作製できるため、ゼオライトに比べて非常に有利です。たとえば、材料の孔径は、有機リンカーの長さによって決まることが少なくありません。さらに、有機配位子を官能基化することによって、孔をチューニングすることができます。
シグマアルドリッチでは、MOF製品として、種々の孔形状、孔径、金属(Al、Cu、Fe、Zn)、有機リンカー(BDC、BTC、mIM)から成るBasolite™シリーズを提供しています(図1)。
図1MOFを構成する有機リンカーと金属イオンの組み合わせ
HKUST-1 (Basolite™ C300)
HKUST-1は、1999年にWilliamsらによって初めて報告された銅を基盤とするMOFです1。ソルボサーマル条件下で青い立方晶系結晶が形成されます。この条件下では、paddlewheel型CuIIダイマーが容易に形成されて平面正方形の基本単位となり、平面三角形の基本単位を構成する三価のトリメシン酸イオンと結合します。その後、生じた結晶を低沸点溶媒に移して高温で真空乾燥処理を施すと多孔性材料が生じます。溶媒中、溶媒分子(通常は水分子)はpaddlewheel型CuIIダイマーにaxial配位していますが、この配位子が除去されると不安定になるため、空気/湿気にさらされると不可逆的な分解を起こすおそれがあります(スキーム1)。これは一般にCuを基盤とするMOFに見られる現象であり、他の材料に当てはまるとは限りません。HKUST-1を適切に取り扱った場合、このラングミュア法での表面積は約2200 m2/gです2。HKUST-1は、MOF-199、Cu-BTCなどのさまざまな名称で呼ばれていますが、シグマアルドリッチではBasolite™ C300(製品番号:688614)として販売しています。
スキーム1HKUST-1の生成
De Vosは、沸点が近すぎるため蒸留分離が不可能なC8-アルキル芳香族化合物(p-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン)をMOFを利用して分離したことを報告しました。検討されたMOFは、HKUST-1(Basolite™ C300、製品番号:688614)、MIL-53(Al)(Basolite™ A100、製品番号:688738)、MIL-47(V)であり、この場合はVを基盤とする材料MIL-47が用いられました。サイズ選択性によって分離が実現したと考えられています3-5。MOFを利用した最も有名なサイズ選択的触媒反応としては、約2100 m2/gのBET表面積をもつMn-テトラゾール構造体が、カルボニルのシアノシリル化のサイズ選択的ルイス酸触媒として機能する(スキーム2)ことが2008年のJACSに報告され6、Chemical & Engineering Newsでも特集されました7。この反応においてサイズ選択性の研究は前例がありませんが、種々のゼオライトのほか、HKUST-1によっても触媒反応が進行します10。
スキーム2カルボニルのシアノシリル化
ZIFs
ZIF(zeolitic imidazolate framework:ゼオライト-イミダゾラート構造体)と呼ばれる新しいMOF材料は、金属イオンとイミダゾラートアニオンから得られます9。イミダゾラートの結合角は、ゼオライト中のSi-O結合が成す結合角に近いと考えられるため、ZIFとゼオライトは非常に似た構造をとりやすくなります。ZIFは、M-O結合の代わりにM-N結合を有しています。ZIFの熱安定性は最高約500℃であり、大多数のMOFよりも安定です。しかし、有機分子を含むため、熱安定性には限界があります。最も重要なZIFとしてZIF-8(Basolite™ Z1200、製品番号:691348)、ZIF-69などがありますが、このふたつはCO2の貯蔵に有用です10。ZIFは熱安定性が高いことから、触媒反応の固体担体として利用できる可能性があります。不均一系触媒の表面積と再利用性を向上させるため、既にいくつかのMOFがアルミナ、シリカまたは活性炭と同様の固体担体として検討されています。最近、FéreyらはCrから成るMOFであるMIL-101にPdを含浸させたものを作製し、これがヨードベンゼンとアクリル酸とのHeck反応に対して高い活性と再利用性を示したことを報告しました(スキーム3)11。
スキーム3ZIFs
References
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