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ホームマイクロ・ナノエレクトロニクス多層カーボンナノチューブ(SWeNT SMW)

多層カーボンナノチューブ(SWeNT SMW)

Ricardo Prada Silvy, Yongqiang Tan and Philip Wallis

SouthWest NanoTechnologies

はじめに

単層カーボンナノチューブ(SWNT:single-walled carbon nanotube)と多層カーボンナノチューブ(MWNT:multi-walled carbon nanotube)は、幾つかの類似点を持つものの、大きく異なる点があります。単層カーボンナノチューブは、フラーレンなどの<i>sp</i>2混成炭素で構成される同素体の一つです。その構造は、黒鉛に見られる六員炭素環で構成される円筒状チューブと考えられています。同様に、多層カーボンナノチューブは同心円筒状のこれらチューブから構成されます(図1)。MWNTは幾つかの単層チューブが入れ子になっていると考えられており、少ない場合は6層、多い場合で25層ほどの同心多層構造をとります。そのため、MWNTの直径は、典型的なSWNTの0.7~2.0 nmに対して、30 nmと大きい値を示します。カーボンナノチューブの持つ優れた独特の特性によって、新たな応用開発や既存の用途における性能改善を行うことが可能となります。本稿では、多層カーボンナノチューブの物理化学的性質や特性評価について簡単に解説し、最近の技術開発の進展によって実現可能となった新規材料およびその商業化の状況を紹介します。

多層カーボンナノチューブの模式図

図1多層カーボンナノチューブの模式図

多層カーボンナノチューブの特性

一般誌や科学誌で報告されているカーボンナノチューブの優れた性質、たとえば、機械的強度、光学特性、電気および熱伝導性、化学的性質の大部分は、主に単層カーボンナノチューブの特徴です。しかしながら、そのコスト(通常、SWNTはMWNTよりもおよそ100から1000倍のコストがかかります)とSWNTの溶液やポリマー材料への分散に関する幾つかの課題のために、MWNTの商業用途での利用ペースはこれまでSWNTを上回っています。多層カーボンナノチューブは物質それ自体に優れた特性をもち、今尚、産業用利用は拡大し続けています。しかし、層の数がさまざまであることや、層数に起因する材料性能の大きな違いによって、最終的な性能と直接結び付けられるMWNTに特有の有意な性質を見出すことが困難です。多層カーボンナノチューブは、一般的にはポリマー材料への添加剤やバッキーペーパー(カーボンナノチューブが凝集した薄いシート状の材料)、電池電極、その他複合材料に用いられ、MWNT自体の固有の性質のみならずその形態に関する要因によって、材料全体の性能が向上します。多層カーボンナノチューブの一般的な性質を以下に挙げました。

電気的特性:複合材料内に適切に導入することで高い伝導性が得られます。なお、電気伝導に寄与するのは外層のみで、内側の層は関与しない点に注意が必要です。

形態:MWNTは高いアスペクト比をもち、長さは直径に対して通常約100倍、場合によってはそれ以上の値を示します。MWNTの用途や性能は、アスペクト比だけではなくチューブの直線性や絡み具合にも影響され、同様にチューブ寸法や欠陥の程度とも関連があります。

物理的特性:欠陥のない個々のMWNTは非常に高い引張強度を持ち、熱可塑性もしくは熱硬化性の複合材料に用いた場合、その強度は飛躍的に向上します2

熱特性:MWNTは、その欠陥の程度にもよりますが600℃を超えても熱的に安定です。なお、残留触媒が分解反応の触媒として働くために、純度も熱安定性に影響を与えます。

化学的性質:MWNTはフラーレンや黒鉛などの<i>sp</i>2混成炭素からなる同素体の一つであり、それ自体は化学的に非常に安定です。しかし、ナノチューブの官能基化によって分散性や複合材料強度の向上が可能です3

これらの優れた性質を生かすべく、多くの企業で多層カーボンナノチューブの商業化が検討されています。

多層カーボンナノチューブの商業化における課題

多層カーボンナノチューブの複雑性および多様性のために、工業製品への実用化には大きな課題があります。加えて、以下に挙げるMWNT特有の性質がその複雑性をさらに高めています。

分散性:一般にSWNTよりも溶液やポリマーへの分散はかなり容易であるものの、MWNTの分散は困難であり、得られる分散液の品質は、最終製品の性能に大きな影響を与えます。

純度:多くのMWNT製造プロセスでは、性能に良い影響をもたらさない金属触媒が多く残留します。

欠陥:MWNT内の層が多くなるほど欠陥の数も同様に増加し、内側の層が隣接する層の欠陥のテンプレートとして働きます4。分散プロセスのエネルギーによって、これら欠陥サイトにおいてチューブが切断されやすいために、カーボンナノチューブが短くなります。MWNTの高いアスペクト比は、ナノチューブの応用の際の重要な要素の一つです。

多層カーボンナノチューブの特性評価と品質保証のための指標

多層カーボンナノチューブの特性評価に用いられている主な手法は、長さや直径、層の数などのサイズ情報が得られるTEM、SEMやAFMなどの観察手法です。さらに、熱重量分析(TGA:thermogravimetric analysis)は残留物質の決定に用いられ、酸化反応の開始温度や最大反応速度が得られます。酸化温度の最大値はチューブ直径や欠陥および残留触媒の存在に影響されます。現時点ではこれらファクターを分けることは難しく、この温度に対する明確な定義がなされていませんが、製造の際の制御パラメータとして有用です。さらに、微分曲線の形状からは、材料の分散度など、試料の均一性に関する定量的な情報が得られます。高くて鋭いピークは直径の分布が狭く、チューブ欠陥が少ないことを示しています。図4に3種類の試料のTGA曲線を示しました。

多層カーボンナノチューブのラマン分光法の場合、RBM領域のピークが見られないため、SWNTほど有用ではありません。通常、およそ1350と2700 cm-1のDバンドがSWNTよりも強く見られ、1590 cm-1のGバンド強度が弱くなります。実際、幾つかのMWNT材料ではDバンドとGバンドの強度が同程度の場合があり、そのスペクトルの違いがSWNTとMWNTの存在比の推定に用いられています5

多層カーボンナノチューブの応用

多層カーボンナノチューブの用いられている応用および新規用途には、以下のようなさまざまな例があります。

  • <b>電気伝導性ポリマー</b>:多層カーボンナノチューブの高い導電性と高いアスペクト比によって、優れた添加剤として利用されています。カーボンブラックや金属粒子などのより一般的な方法よりもかなり少ない量で、目的とする導電性を得ることができます。そのため、ポリマー自体の固有の物理的特性をあまり損なうことなく材料への添加を行うことが可能です。その他の用途には、ウエハ製造における静電気放電、自動車燃料ライン部品の帯電防止エラストマープラスチック材料、自動車車体部品の静電スプレー塗装用の高い導電性の付与に用いられる樹脂、RFIシールド材料などがあります。
  • <b>電池正極材料</b>:SouthWest NanoTechnologies社の新規多層カーボンナノチューブ製品(SWeNT®)を正極材料に導入することで、電池性能の著しい向上が得られることが明らかになっています。
  • <b>強化複合材料</b>:バッキーペーパーを含む樹脂、織物や不織布としてのMWNTは、ゴルフクラブシャフトや航空宇宙用積層板などの複合材料の強度や硬さを著しく強化することが明らかになっています。
  • <b>浄水用膜</b>: 高い機械的強度とアスペクト比、比表面積によって、優れた浄化膜の作製が可能です。
  • 開発中もしくは最近上市されたその他の応用には、スプレーコーティング可能な発熱素子、熱界面(放熱)材料や他の熱伝導材料、強化カーボンファイバーなどがあります。

我々は、SMW(specialty multi-walled CNT)と呼ばれる新たなカテゴリーの多層カーボンナノチューブを開発しました。チューブの長さを3 μmより長く保ちつつ層の数を3から8層に制御しているため、350~550のアスペクト比をもつ多層カーボンナノチューブです。直線性の高い、長いチューブは全体的なCNTの形態が優れている一方で(図2図3)、層の数が少ないほど構造的欠陥の少ない、より高純度(>98% CNT)の炭素材料となります。

汎用MWNTとSWeNT SMW 200のTEMおよびAFM画像

図2汎用MWNT(左)とSWeNT SMW 200(中央、右)のTEMおよびAFM画像

SWeNT SMW 200と他社製MWNTのTEMおよびAFM画像

図3SWeNT SMW 200(左)と他社製MWNT(中央、右)のTEMおよびAFM画像

図3に、SWeNT SMW 200と二つの他社製汎用多層カーボンナノチューブの電子顕微鏡写真を示しました。

幾つかの重要な点を説明します。

  • SMWは他のいずれのグレードよりも基本的に高いアスペクト比(長さ/直径)を持ち、この高いアスペクト比は、少ない添加量でポリマーマトリックスにおいて導電性ネットワークを構築するために重要となります。
  • SMWチューブは直線性が高いことでも、導電性ネットワークの構築に有利となります。
  • 他社製材料には不純物や欠陥が見られます。チューブは分散時に欠陥サイトで破壊される傾向にあり、電気的経路の減少および導電性の低下につながります。

図4には、SWeNT SMW 200と二つの他社製多層カーボンナノチューブのTGA測定の結果を比較しました。図4(a)は3つの材料の重量減少曲線を重ねたものです。グラフ右側の平坦部は材料中の残留(非炭素系)物質を示します。図4(b)、<b>(c)</b>、<b>(d)</b>には微分曲線と共に個々の曲線を示しました。微分曲線の最大値の温度は、材料の熱安定性を表します。さらに、TGAは材料の均一性の推測にも利用され、重量減少曲線の微分曲線のピーク高さと幅はカーボンナノチューブの均一性の指標となります。高くて鋭いピークは、直径分布の狭さとチューブ欠陥が少ないことを示唆します。SMW 200は、非常に低い残留物の割合と高い純度を持つことがわかります。

SWeNT SMW 200と二つの他社製MWNT材料の重量減少曲線

図4(<b>a</b>)SWeNT SMW 200と二つの他社製MWNT材料の重量減少曲線 (<b>b</b>)(<b>c</b>)(<b>d</b>)個々の曲線とそれぞれの微分曲線

図5は、SWeNT SMW 200と他の商業用多層カーボンナノチューブ材料について導電性を比較したものです。CNTバッキーペーパー(0.15 g CNT/m2でろ取することで作製した固体薄膜)のシート抵抗の測定では、予想通り、単層カーボンナノチューブ(この場合はSWeNT SG76、製品番号:704121)が最も低い抵抗値を示します。しかし、SMW 200高純度材料は、用いたMWNT(A社)の最高値と比較して明らかに2倍以上の導電性を示しました。

様々なカーボンナノチューブを用いたバッキーペーパーの抵抗値

図5様々なカーボンナノチューブを用いたバッキーペーパーの抵抗値

図6は異なる材料のバッキーペーパーのシート抵抗値を、CNTアスペクト比(AFMおよびTEMで確認)を用いて比較したものです。高いアスペクト比ほどシート抵抗が低い傾向にあることがはっきりと確認され、SWeNT SMW 200が最も高い導電性を示しています。また、我々はCNTのアスペクト比に加えて、チューブの形態が導電性に大きな影響を与えるもう一つの要因であることも見出しています。チューブの欠陥の数が少ないほどより高い電気的導電性を示す結果が得られています。

CNTのアスペクト比とバッキーペーパーのシート抵抗値との関係

図6CNTのアスペクト比とバッキーペーパーのシート抵抗値との関係

まとめ

多層カーボンナノチューブは非常に多くの分野で応用されていますが、材料のもつ可能性を十分に引き出すためにその特性向上が求められています。改良された多層カーボンナノチューブが最近開発され、この先端材料分野の市場の大幅な拡大に貢献しています。

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References

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Tasis D, Tagmatarchis N, Bianco A, Prato M. 2006. Chemistry of Carbon Nanotubes. Chem. Rev.. 106(3):1105-1136. https://doi.org/10.1021/cr050569o
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Thostenson ET, Chou T. 2004. Nanotube buckling in aligned multi-wall carbon nanotube composites. Carbon. 42(14):3015-3018. https://doi.org/10.1016/j.carbon.2004.06.012
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Delhaes P, Couzi M, Trinquecoste M, Dentzer J, Hamidou H, Vix-Guterl C. 2006. A comparison between Raman spectroscopy and surface characterizations of multiwall carbon nanotubes. Carbon. 44(14):3005-3013. https://doi.org/10.1016/j.carbon.2006.05.021
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