ホップおよび大麻中のテルペンのヘッドスペースSPME-GC/MS分析
Katherine K. Stenerson
Principal Scientist
本アプリケーションでは、ヘッドスペース-SPMEを用いて、 GC/MS により、一般的なホップおよび大麻の中に存在する数種のテルペン類の分析を行いました。
テルペン類は、ある種の植物によって合成される小さい分子です。テルペンの名前は、これらの化合物を高濃度で含むテルペンチンに由来します。テルペンの分子は、イソプレン単位を頭部―尾部まで結合した構造をしています(図1)。その上で、構造中におけるそれらのイソプレン単位の数で分類がされています(表1)。テルペン類の構造は環状または開放型の可能性があり、二重結合および水酸基、カルボニル基あるいは他の官能基を含んでいるものもあります。CとH以外の元素を含むテルペンはテルペノイドと呼ばれます1。
図1.1単位あたり
テルペン類は植物由来の精油中に存在し、植物あるいはその精油に特徴的な香りを発することが多くあります。例えば、d-リモネンは、レモン、オレンジ、キャラウェーや他の植物油中に見いだされるものですが、レモンのような香りを持ちます。精油は、その成分であるテルペンやテルペノイドと共に、不安神経症、うつ病、不眠症などの状態を緩和するためのアロマテラピーとして知られる医療に用いられています2。ここからさらに、これらの化合物を含有する植物を利用して、油、茶、強壮剤などの製品の製造が行われています。
テルペンのプロファイルを用いた植物の同定
大麻(アサあるいはマリファナ)草は、モノ、セスキ、ジ、トリおよびその他のテルペノイド起源の雑多な化合物を含む100種超のテルペンおよびテルペノイドを含有しています3。テルペンのプロファイルは必ずしも大麻試料の地理的起源を示すものではありませんが、様々な試料に共通するオリジンを決める鑑識用途に使用できます4。さらに、特定のテルペンの存在量が異なっているために明確に異なる香りと風味を持つ、別の大麻種が開発されました5。ホップ(普通のホップ)と大麻はどちらもアサ科の植物6なので、それぞれが含有するテルペン類には類似点があります。テルペン類により、どちらの植物製品も感覚器官を刺激する特徴的な特性を持ち、大麻の場合は、つぼみを加熱あるいは蒸発させたときに特徴的な香りを発します7。
実験
乾燥大麻の試料は、国立衛生研究所にある米国国立薬物乱用研究所、化学生理学システム研究部門のプログラムディレクターであるHari H. Singh博士の厚意で入手しました。その試料の抽出種は不明でした。品種が不明のホップの花はオンラインで購入しました。ペレット化したカスケードとUSゴールディングホップ変種は、地元の自家醸造用品店で購入しました。クロマトグラフィー分離はEquity®-1キャピラリーGCカラムで実施し、同定は保持指数とスペクトルライブラリーとの照合によって行いました。最終的な分析条件を図中に示します。
SPME法の最適化
乾燥ホップ花(10 mLバイアルに0.2 g)試料を使ってSPME法を開発しました。最初のSPMEパラメーターは以前に公開した研究に基づくものでした8。本分析でのGC/MS結果を図2に示します。最初の一連のパラメーターでは、100μmのPDMSファイバー、1 gの試料サイズ、抽出前に室温での60分平衡化を使用しました。試料サイズをその後0.2 gに減らし、平衡温度を40ºCに上げました。この温度上昇により平衡時間は60分から30分に短縮されましたが、感度の損失はありませんでした(図3および4)。使用した最初の抽出時間は20分で、10分に短縮した場合も評価しましたが、 感度の損失が見られたので抽出時間は20分のままとしました。次いで、DVB/CAR/PDMSファイバーを評価しました(図5)。予想通り、このファイバーで多く抽出されたのは軽い方の化合物で、これはMSスペクトル照合により短鎖アルコールおよび酸と同定されました。
図2.乾燥ホップ花のヘッドスペースSPME-GC/MS分析(100 μm PDMSファイバー、1 g試料)
図3.乾燥ホップ花のヘッドスペースSPME-GC/MS分析(100 μm PDMSファイバー、0.2 g試料)
図4.乾燥ホップ花のヘッドスペースSPME-GC/MS分析、試料平衡化温度上昇(100 μm PDMSファイバー、0.2 g試料)
図5.乾燥ホップ花のヘッドスペースSPME-GC/MS分析、試料平衡化温度上昇(100 μm DVB/CAR/PDMSファイバー、0.2 g試料)
GC/MSを用いたテルペン類の同定
最適化したSPME法でDVB/CAR/PDMSファイバーを用いて、ホップと大麻の試料を分析しました。ピーク同定は、MSスペクトルをWileyおよびNISTのライブラリーにある基準スペクトルとマッチングして割り当てました。確認同定は保持指数に基づいて行いました。保持指数は、同じGC条件で分析したn-アルカン標準品を用い、各試料で同定された化合物に対して計算しました。このデータを公開された値(表2および3)と比較し、図6および7に示すように最終同定を割り当てました。
ホップ試料中のテルペン類
乾燥ホップ花試料(図5)のテルペンプロファイルには、ホップおよびホップ油の代表的な芳香化合物であるβ-ミルセン、フムレンおよびカリオフィレンが圧倒的に多く見られるはずでした9。カリオフィレンは同定されましたが、β-ミルセンとフムレンはライブラリー検索で検出するのに十分な濃度では存在していませんでした。これは試料の状態か、または分析したホップの実際の品種によるのかもしれません。というのも、テルペンプロファイルは様々なホップの品種によって異なることが知られているからです10。分析したホップ花の品種は、包装に記述がなかったので不明です。比較のため、ペレット化したもう二種のホップ品種を粉砕して分析を行いました。
これらの試料は緑色で、乾燥花よりはるかに特徴的なホップのような香りを発していました。これらの試料を分析したところ、いずれにも、高濃度のβ-ミルセン、カリオフィレンおよびフムレンという特徴的なテルペンプロファイルが見られました(図6)。SPME法で、二種のホップ品種間のテルペンプロファイルの違いを検出できました。例えば、カスケードホップではファルネセン(ピーク18)が同定されましたが、USゴールディング試料ではシグナルが小さすぎて確認できませんでした。カスケードホップのファルネセン濃度は全オイルの3~7%と予想されますが、USコーディングでは<1%のはずです13。
大麻試料中のテルペン類
大麻試料(図7)中で同定されたテルペン類を表3に示します。プロファイルは、以前に行った乾燥大麻の分析で見られたものと同様でした4,8。図7のピーク1~27(ピーク7を除いて)は、モノテルペン類およびモノテルペノイドでした。後から溶出するピークは、セキテルペン類およびカリオフィレン酸化物(セキテルペノイド)で構成されていました。最も多かったテルペンはカリオフィレンでした。この化合物が圧倒的に多かったのは、試験した特定の大麻種によるものか、試験した試料の性質(乾燥試料)によるものと思われました。以前の研究では、乾燥によってこの化合物の濃度が他のテルペン類およびテルペノイドより著しく増加することが示されていました4。 そのため、揮発性が高いモノテルペン類およびテルペノイドの濃度が下がると予想され、これはある程度確認されました。モノテルペン類およびテルペノイドの中で最も多かったのはα-ピネンとd-リモネンでした。
図6.ホップペレットのヘッドスペースSPME-GC/MS分析。
図7.乾燥大麻のヘッドスペースSPME-GC/MS分析。
結論
簡単なヘッドスペースSPME-GC/MS法を用いてホップおよび大麻のテルペン/テルペノイドプロファイルを分析しました。その方法で、どちらの試料にも特徴的なテルペン類およびテルペノイドの検出ができ、様々なホップ品種間の違いを見分けることができました。
参考文献
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