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フローサイトメトリーによる検出のためのDuolink® PLAを最適化する方法

Duolink® in situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)をフローサイトメトリーに適用することにより、統計学的検出力の高い、タンパク質間相互作用、タンパク質翻訳後修飾、タンパク質発現の定量的検出が可能になります。しかし、フローサイトメトリーによる検出のためのDuolink® PLAを正しく実行するためには、アッセイプロトコルを適切にセットアップおよび実施するために必要な検討事項があります。Duolink® flowPLA試薬は、従来のフローサイトメトリーおよびイメージングフローサイトメトリーに使用できます。お客さまのアプリケーションに適した製品を選ぶためには、製品について概説したDuolink® PLA製品のセレクションガイドをご参照ください。

実験デザイン

フローサイトメトリーのためのDuolink® PLA実験を正しくデザインするにあたり検討すべき要素は数多くあります。以下にその一部を示します:

  • ターゲットタンパク質とアッセイタイプの決定
  • 適切なサンプルの選択
  • アッセイ条件の考案
  • 下流でのデータ取得に適した蛍光色素の選択
  • 実験におけるコントロールの選定(技術的・生物学的)

ターゲットの特定

まず始めに、対象となるターゲットタンパク質を決定します。単一のタンパク質発現、タンパク質間相互作用、またはタンパク質翻訳後修飾などから選択します。Duolink® PLAを使用して種々のタイプのターゲットタンパク質を検出する方法について、以下に簡単に説明します。

単一のタンパク質発現の検出

Duolink® PLAテクノロジーを用いて単一のターゲットタンパク質発現を検出する方法は2つあります。ターゲットに対して1つの一次抗体を用いる方法(単独識別)と2つの一次抗体を用いる方法(二重識別)です。

単独識別は最も感度が高く、発現レベルが低い状態で存在する単一のターゲットタンパク質の検出に推奨されます。この方法は、2つの抗体を使用する実験の前に、個々の一次抗体の濃度を測定する場合にも有用です。しかし、この方法が推奨されるのは、十分に機能する特異的一次抗体の利用が可能な場合に限られます。非特異的一次抗体を使用すると、アッセイの感度が影響を受けてバックグラウンドが高くなります。

単独識別

図1.単独識別

二重識別は、2つの一次抗体の使用によって特異性を向上させます。各一次抗体は、同じターゲット分子上の異なる非競合的エピトープを標的とする必要があります。また、2つの一次抗体は、異なる動物種(マウス、ウサギ、ヤギまたはヒト)で産生され、同じ実験条件下でターゲットと結合しなければなりません。これらの条件については、後述のアッセイの準備のセクションで詳しく説明します。

二重識別

図2.二重識別

タンパク質間相互作用の検出

Duolink® PLAテクノロジーは、フローサイトメトリーを用いてタンパク質間相互作用を検出するための革新的な方法を提供します。検出は、2つの一次抗体を用いて行われます。各抗体はいずれかの対象ターゲットに対する抗体であり、またそれぞれ異なる動物種(マウス、ウサギ、ヤギまたはヒト)で産生された抗体です。この2つの一次抗体は、同じ実験条件下でターゲットと結合しなければなりません。

タンパク質間相互作用の検出

図3.タンパク質間相互作用の検出

タンパク質修飾の検出

リン酸化などのタンパク質修飾の検出では、特異性が低いため、しばしば困難に直面します。そこで、ターゲットタンパク質に対する抗体および同じタンパク質上の特異的な修飾部位に対する抗体の2つの一次抗体を用いる方法が推奨されます。部位特異的な修飾に対する抗体が利用できない場合は、代わりに、修飾部位(例えば抗リン酸化チロシン)に対する一般抗体を使用することも可能です。2つの一次抗体は、異なる動物種(マウス、ウサギ、ヤギまたはヒト)で産生され、同じ実験条件下でターゲットと結合しなければなりません。

タンパク質修飾の検出

図4.タンパク質修飾の検出

サンプルの選択

文献検索を行うことや細胞サンプルとターゲットタンパク質に対する予備知識を得ることが重要です。既知のターゲットタンパク質の発現を用いたシステムを選択すれば、Duolink® PLA実験の成功確率が格段に高まります。さらに、タンパク質の相対的発現量を知ることも、蛍光色素を選ぶ際に役立ちます。

Duolink® PLA実験を実施する前に、すべての細胞サンプルを固定する必要があります。そのため、蛍光標識セルソーティング(FACS)分析は推奨されません。すべてのフローサイトメトリーアッセイと同様に、細胞懸濁液を使用する必要があります。Duolink® PLAフローサイトメトリーに適した細胞の種類は、従来のフローサイトメトリーで使用する細胞と同じです。例えば、以下の細胞が挙げられます。

  • 剥離後の接着細胞
  • 浮遊細胞
  • 血球細胞
  • 組織サンプルから単離された初代細胞

場合によっては、異なる種類の細胞からなる不均一な集団であることの多い初代細胞ではなく、比較的均一な細胞集団である継代細胞を用いるほうが有効な可能性があります。

蛍光色素の選択

Duolink® PLAフローサイトメトリープロトコルは、フロー装置の種類を問いません。利用可能なフローサイトメーターのレーザーと検出器に基づいてDuolink® flowPLAの検出試薬を選んでください。サンプルのなかには、Duolink® PLAのシグナルに干渉するような自己蛍光を示すものもあります。また、Duolink® PLAを免疫蛍光染色法(IF)によるマルチカラーフローサイトメトリーと組み合わせて使用する場合は、スペクトルの重なりが最小限に抑えられ、かつ最も発現量の小さいシグナルの光度が最も高くなるように蛍光色素を選んでください。

Duolink® flowPLA検出試薬は、紫、緑、オレンジ、赤、遠赤の検出色が利用可能です。 

蛍光色素の比較

図5.蛍光色素の比較

実験コントロール

Duolink® PLAから得られるのは、タンパク質の事象(発現、相互作用または修飾)の相対的な定量結果です。そのため、技術的なコントロールと、可能な場合には生物学的なコントロールを加えることが重要です。

技術的コントロール

ネガティブコントロールは、システム内のバックグラウンドシグナル量を決定するために不可欠です。種類の異なる技術的コントロールを用いると、バックグラウンドシグナルの原因解明に役立ちます。具体的には以下のとおりです。

  • 各一次抗体を個別に省略する
    • 各一次抗体の非特異的結合の検出に使用
    • 最適な一次抗体力価の決定に有用
  • すべての一次抗体を省略する
    • システム内のDuolink® PLAプローブの非特異的結合の検出に使用
  • 非染色細胞(染色する細胞と並行してインキュベートする)
    • 自己蛍光によるバックグラウンドの検出に使用

生物学的コントロール

技術的コントロールに加えて、生物学的コントロールの使用が強く推奨されます。ポジティブとネガティブ両方の生物学的コントロールから、価値のある情報が得られます。

  • ポジティブコントロール
    • タンパク質発現、相互作用または修飾が判明している個別のサンプルを実験試薬に含める
    • 誘導系(例えば、増殖因子刺激、熱ショックなど)の使用により、Duolink® PLAシグナルの生物学的関連性を得る
  • ネガティブコントロール
    • タンパク質ターゲットを発現しないサンプルの使用(例えば、ノックアウト、サイレンシングなど)により、一次抗体の特異性に関する情報を得る
    • 関連のない抗体(例えば、アイソタイプコントロールIgG、非結合タンパク質に対する抗体など)の使用により、一次抗体またはDuolink® PLAプローブの特異性に関する情報を得る

タンパク質の相互作用や修飾を妨げる阻害剤の使用により、Duolink® PLAシグナルの生物学的関連性を得る

アッセイの準備

フロー検出法によるDuolink® PLA実験を正しく実行するには、しっかりと準備を行う必要があります。この準備作業は、免疫蛍光染色法(IF)のための顕微鏡観察やフローサイトメトリー実験に要する作業と同様です。使用する一次抗体が最適な性能を発揮できる実験条件に関する予備知識を得ることが、Duolink® PLA実験で起こりうる問題を避けるために有用です。このセクションでは、一次抗体の特定、抗体の最適化、およびサンプル調製に関する検討事項について詳しく説明します。

一次抗体の選択

Duolink® PLA試薬は、二次抗体を使用してターゲット特異的な一次抗体の存在を検出するための多用途な試薬です。Duolink® PLA実験をセットアップする際、一次抗体の選択はきわめて重要です。

必要条件

Duolink® PLAプローブは、ロバ抗マウス、抗ウサギ、抗ヤギ、または抗ヒト二次抗体です。従って、一次抗体に関する一定の必要条件があります。具体的には以下のとおりです。

  • 宿主はマウス、ウサギ、ヤギ、またはヒトであること(これ以外の場合はDuolink® Probemakerの使用が必要)
  • IgGクラス
  • モノクローナルまたはポリクローナルが可能
  • 交差反応を最小限に抑えるためにアフィニティー精製が望ましい
  • IFまたはフローサイトメトリーによるバリデーションを推奨

直接標識一次抗体の使用

直接標識一次抗体の使用が必要な場合があります。Duolink® Probemakerを使用すると、あらゆる抗体をPLAオリゴ(PLUSまたはMINUS)で標識できます。以下の場合に、Duolink® Probemakerの使用が検討されます。

  • 一次抗体の宿主がマウス、ウサギ、ヤギ、またはヒト以外の場合
  • 同一生物種に由来する2つの一次抗体を用いる場合

一次抗体の最適化

Duolink® PLA実験を正しく実行するには、一次抗体が実験対象のサンプル内で最適な性能を発揮できる条件を特定することが重要です。検討すべき一次抗体最適化の条件を以下に示します:

  • サンプル処理(固定および透過化)
  • 一次抗体の滴定
  • ブロッキング溶液・抗体希釈剤

サンプル処理、ブロッキング、および抗体希釈剤のそれぞれについて検討すべき事項を、以下に示します。一次抗体に関する条件を、まずIF(顕微鏡観察または従来のフローサイトメトリー)によって特定することが強く推奨されます。明確なシグナルが得られ、かつバックグラウンドが最小になる最適な希釈率を見つけるために一次抗体を滴定します。適切なデータシートで推奨されている希釈率を出発点として用います。2つの一次抗体を用いる場合は、各一次抗体の最適化を個別に行う必要がありますが、サンプル処理は両方の一次抗体に対し最適な性能を両立させるものでなければなりません。

IFによって条件が決定されれば、Duolink® PLAにこれらの条件を適用できます。しかし、Duolink® PLAテクノロジーはIFよりもはるかに高感度で、シグナルが大きく増幅されるため、Duolink® PLA実験に用いる一次抗体濃度をさらに滴定する必要があるかもしれません。一次抗体の濃度を最適化する際は、上述したDuolink® PLAの単独識別法を用いれば最高感度が得られます。これらの条件は、両方の一次抗体を用いたDuolink® PLA実験に使用できます。

サンプル処理

サンプルには、固定、透過化の処理や一般的な取り扱いが適切に行われなければなりません。アッセイの性能を発揮させるには、実験に使用する一次抗体の条件を最適化することが重要です。

固定

細胞構造と細胞内構造を保持したまま抗原を固定化するために、固定が用いられます。固定剤の選択は、サンプルの種類、一次抗体およびターゲットタンパク質によって異なる場合があります。固定剤が異なると、抗原性、ひいては一次抗体の性能に影響を及ぼすおそれがあります。選択した一次抗体に推奨される固定剤がない場合は、ユーザーによる最適化が必要です。Duolink® PLA試薬は、IFに通常使用される、以下のような固定剤のすべてに適合します:

  • アセトン
  • エタノール
  • ホルマリン
  • メタノール
  • パラホルムアルデヒド
  • グリオキサール

なお、一部の固定剤(例えば、アセトン、メタノール、エタノール)は透過作用も有するため、細胞内エピトープのための透過処理を追加する必要がなくなります。

透過化

抗体が細胞内エピトープにアクセスするためには、透過化が必要です。細胞質内エピトープの多くに対しては、弱い界面活性剤(例えば、サポニン、Tween-20)で十分に透過化できます。核抗原に対しては、やや強い界面活性剤(例えば、Triton-X、NP-40)が必要になる場合があります。リン酸化されたエピトープの検出については、メタノールが多く用いられます。市販の固定/透過化バッファーセットが抗体の最適化に有用な可能性があります。使用するすべての抗体が、同じ固定・透過化条件に適合していることを確認してください。

細胞表面エピトープに対しては、透過処理は必要ありません。しかし、確実に細胞表面マーカーが変性せず、一次抗体により認識されるようにするため、追加の予防措置が必要になる場合があります。接着細胞を用いる場合、トリプシンを用いて剥離すると細胞表面エピトープが除去される、あるいは一部の細胞表面タンパク質の細胞内移行が誘発される可能性があります。したがって、より刺激の少ない剥離方法(例えば、1~10mM EDTA、細胞分散バッファーまたはAccutase®)が推奨されます。

サンプルの一般的な取り扱い

フローサイトメトリーでは、単一の細胞懸濁液であることを確認するため品質サンプルの調製が不可欠です。サンプルに細胞塊や多量の細胞片が含まれていると、その後のデータ解析が困難になるおそれがあります。以下の方法により、細胞の凝集や損傷を最小限に抑えることが可能です。

  • カルシウム・マグネシウム不含バッファー(任意で1~5 mM EDTAを添加)の使用
  • 泡立たないようにし、強くボルテックスせず、過剰な遠心分離を避ける
  • メッシュストレーナーを用いてサンプルをろ過する

フローサイトメトリー用の細胞サンプルの調製では、通常、U底またはV底の96ウェルプレートあるいはフローサイトメトリー用チューブを使用しますが、洗浄ステップで複数回にわたって遠心分離を行うため、細胞数が著しく減少する可能性があります。以下の方法により、細胞数の減少を最小限に抑えることが可能です。

  • バッファーを除去する際に細胞ペレットに触れない
  • 遠心速度を上げる(過剰な遠心分離は細胞凝集を引き起こす可能性があるため、経験により明らかにする必要性がある)。
  • 洗浄バッファーにBSAまたはFBSを添加する
  • フィルタープレートまたはフィルターカップの使用
  • セルウォッシャーの使用

ブロッキング溶液・抗体希釈剤

Duolink®ブロッキング溶液および抗体希釈剤は、Duolink® PLAプローブ(PLUSおよびMINUS)とともに提供されます。これらの溶液は、Duolink® PLA試薬と使用すると、抗体と検出オリゴの非特異的結合を最小限に抑えるように最適化されています。しかし、使用する一次抗体がこれらの条件下で対象タンパク質ターゲットと特異的に結合することを検証することは重要です。Duolink® PLA単独識別アッセイ、あるいはIFを使用して、各一次抗体を個別に実験する必要があります。

IF染色に使用する一次抗体に適合するブロッキング溶液および/または抗体希釈剤をすでに特定済みの場合は、Duolink® PLA実験にもこれらを使用できると思われます。B細胞、単球、マクロファージなどの細胞を用いる場合、Fcブロッカーまたは非標識ロバIgGをブロッキング溶液に添加すると、Fc受容体への抗体結合を最小限にすることができます。使用する一次抗体と同じ動物種由来のアイソタイプIgGは、Duolink® PLAプローブから誤ったシグナルが生じる原因となるため、Fc受容体に対するブロッキング試薬として使用しないでください。

反応量

フローサイトメトリーによる検出のためのDuolink® PLA実験で推奨される100,000細胞あたりの反応量は100μLです。この反応量は、相互作用量が高い場合でも十分です。相互作用が非常に低いあるいは低い場合は、反応量100μLあたりの細胞数を増加させることが可能で、ユーザーによる最適化が必要です。プロトコル全体を通じて、細胞凝集を避けるために反応量中の細胞を再懸濁してください。

Duolink® PLA検出の終了後、解析のために細胞サンプルを1x106~5x106細胞/mLとなるようにPBS中に再懸濁することを推奨します。細胞濃度が高いとフローサイトメーターに目詰まりが生じたり、解像度に影響が出る場合があります。しかし、解析に適した細胞濃度およびフロー速度については、使用する装置の仕様を確認してください。

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参考文献

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