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Merck

ChIC/CUT&RUNキット


タンパク質-DNA相互作用とクロマチン免疫沈降(ChIP)法

タンパク質-DNA相互作用は、DNAの複製、修復、転写、遺伝子発現制御などの、多くの生物学的なプロセスにおいて不可欠です。そして、さまざまな生理学的条件においてタンパク質がDNA配列と特異的に結合することを理解することは、極めて重要です。タンパク質-DNA相互作用を調べるための技術は数多くありますが、なかでもクロマチン免疫沈降(ChIP)が幅広く使用されています。ChIPでは、ホルムアルデヒドで細胞をクロスリンクし、クロマチンを切断・可溶化し、可溶化されたクロマチンを免疫沈降します。ChIPにおいてDNAを読み出す方法は、エンドポイントPCRからハイスループットシーケンシングに至るまで長い年月をかけて発展してきましたが、ChIP自体は基本的に変わっていません。しかし、この技術には、感度が制限される高いバックグラウンド、多量の細胞を使用することによる課題、クロスリンクやタンパク質可溶化によるアーティファクトなどの問題が残っています。

改変ミクロコッカスDNAヌクレアーゼ(MNase)を用いたChIC/CUT&RUNの概要

不溶性タンパク質でChIP技術を実施する際に困難に直面していた研究者たちによって、Chromatin ImmunoCleavage(ChIC)と呼ばれる優れた代替法が開発されました1。ChICは、改変ミクロコッカスヌクレアーゼ(MNase)とプロテインAの結合体(pA-MN)を特異的抗体で捕捉することによって、ゲノム上の転写因子の結合部位を検出します。改変MNaseは、Ca2+イオンが存在する場合のみ、対象のタンパク質と相互作用する領域でDNAを特異的に切断するため、抗体結合部位でのDNA切断をコントロールすることができます。この手法では、従来のChIP法よりも高い100~200 bpの分解能と優れた特異性でタンパク質をマッピングできます1

さらに研究者たちは、プロトコルを最適化するとともにChICをディープシーケンシングと組み合わせることにより、ゲノム規模の転写因子結合部位やネイティブクロマチンのヒストン修飾を5 bp未満の分解能で検出できるように改良しました。ChICをディープシーケンシングと組み合わせたこの方法は、Cleavage Under Targets and Release Using Nuclease(CUT&RUN)と呼ばれています2

ChIC/CUT&RUN法では、標的フラグメントのみが溶液中に放出され、ほとんどのDNAは拡散しないため、バックグラウンドレベルが格段に低く抑えられます(図1)。

ChIC/CUT&RUN法の概要

図1:ChIC/CUT&RUN法の概要ChIC/CUT&RUNの手順:細胞を採取し、コンカナバリンAコーティングした磁気ビーズに結合させる。次に細胞膜をジギトニンで透過処理して、特異的抗体がその標的を捕捉できるようにする。抗体をインキュベートしたら、ビーズをすばやく洗浄しpA-MNでインキュベートする。細胞を0℃まで冷却し、Ca2+を含むインキュベーションバッファーを添加すると切断が始まる。反応はキレートによって停止され、切断によって溶液中に放出されたDNAフラグメントは上清から抽出される。

結果としてChIC/CUT&RUNでは、ヒストン修飾解析の場合はわずか100個、転写因子結合部位解析の場合は1,000個の細胞を使用すれば高品質なデータが得られます。ChIPとは異なり、ChIC/CUT&RUNでは溶解性の問題や、クロスリンクによるDNAアクセシビリティの問題によるアーティファクトがありません。ChIC/CUT&RUNは、分解能、シグナル/ノイズ比、および必要なシーケンシング深度に関してChIPよりも優れた性能を有します。X-ChIP-seqとの比較によるChIC/CUT&RUNの利点の一覧を以下に示します(表1)。

表1:X-ChIP-seqに対するChIC/CUT&RUNの利点。(Skeneほか 2018より引用改変)ChIP-seqよりも必要な細胞数とシーケンシングリード数が大幅に少なく、シグナル/ノイズ比が格段に高く、断片化バイアスがないうえ、定量用スパイクインが迅速かつ容易である2

ChIC/CUT&RUNキット

私たちは、ChIC/CUT&RUN技術に基づいて、使用する抗体に応じて付属のpG-MNまたはpA-MN/pG-MNタンパク質カクテルで選べる3種類のChIC/CUT&RUNキット(カタログ番号:CHR100~102)を開発しました。pA-MNはウサギIgGを含むほとんどの抗体との親和性が高いですが、pG-MNはプロテインAとの親和性が低いマウスIgG1などの抗体に適しています。

ChIC/CUT&RUNキットには、クロマチン―タンパク質相互作用のゲノムワイドプロファイリングに関して以下のような利点があります:

  • クロスリンクChIP-seqよりもシグナル/ノイズ比が極めて低い
  • クロスリンク、ソニケーション、および高速遠心分離のステップが不要
  • 開始に必要な細胞数が少ない(必要な最小細胞数:ヒストン修飾の場合は100個、転写因子の場合は1,000個)
  • 作業時間を大幅に削減-細胞から精製済みDNAが得られるまで1日以内(最短3時間)
  • 特別な機器は不要

ChIC/CUT&RUNキットは、例えば発生生物学研究や、蛍光セルソーターや切除で収集した臨床サンプル・細胞など、利用できる細胞数に限りのある(標準のクロスリンクChIPプロトコルが適さない)、数多くの基本および翻訳アプリケーションに使用できます。また、ChIC/CUT&RUNキットは不溶性物質の除去や細胞を磁気ビーズに付着させるためのソニケーションおよび高速遠心分離ステップが不要なため、ハイスループットアプリケーションにも使用できる可能性があります。

ChIC/CUT&RUNキットのアプリケーションデータ

ChIC/CUT&RUNキットを用いてChIC/CUT&RUNアッセイを実施した際のシーケンシング結果を以下に示します(図2・3)。

ChIC/CUT&RUNアッセイのシーケンス結果

図2:ChIC/CUT&RUNアッセイのシーケンス結果(H3K27me3)。ChIC/CUT&RUNアッセイを抗H3K27me3抗体と2×105個の細胞で実施した(先頭のグラフ)。その結果を、文献のCUT&RUNアッセイの結果(2番目のグラフ)およびENCODE ChIP-seqデータ(3番目のグラフ)と比較した2。ネガティブコントロールとして、ENCODEから得られた抗H3K4me3 ChIP-seqの結果も示す(4番目のグラフ)。

ChIC/CUT&RUNアッセイのシーケンス結果

図3.ChIC/CUT&RUNアッセイのシーケンス結果(CTCF)。ChIC/CUT&RUNアッセイを抗CTCF抗体(カタログ番号:07-729)と2×105個のK562細胞で実施した(先頭のグラフ)。これらの結果を、文献のCUT&RUNアッセイの結果(GSE104550)(2番目のグラフ)および同じ抗体を用いたENCODE ChIP-seqデータ(GSM749690)(3番目のグラフ)と比較した2

ChIC/CUT&RUNデータ解析ツール

ChIC/CUT&RUNの実験が正しく実施されたとしても、得られたデータの処理や解析に困難を伴う場合があります。そこで、私たちはお客様自身でデータ解析ができるChIC/CUT&RUNデータ解析ツールをご用意しました。このツールは、ピークコールに用いるMACS2などの一般に使用されているバリデーション済みのアルゴリズムに基づき、反復やバーコードの有無を考慮した上で開発されました。このツールは非常に使いやすく、バイオインフォマティクスの予備経験が不要で、ChIC/CUT&RUNキットをご購入のお客様は無料で利用できます。

詳しくは、ChIC/CUT&RUNデータ解析ツールの概要およびChIC/CUT&RUNデータ解析ツールのFAQをご覧ください。ご不明な点などございましたら、テクニカルサービスまでお問い合わせください。

 

参考文献

1.
Schmid M, Durussel T, Laemmli UK. 2004. ChIC and ChEC. Molecular Cell. 16(1):147-157. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2004.09.007
2.
Skene PJ, Henikoff JG, Henikoff S. 2018. Targeted in situ genome-wide profiling with high efficiency for low cell numbers. Nat Protoc. 13(5):1006-1019. https://doi.org/10.1038/nprot.2018.015
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