チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックナノワイヤを用いた環境発電
Zhi Zhou<sup>1</sup>, Dr. Haixiong Tang<sup>1</sup>, Dr. Henry A. Sodano<sup>1,2*</sup>
はじめに
様々なセラミックスの中で、一次元(1-D)圧電セラミックスは、環境発電(energy harvesting)分野において科学的に大きな注目を集めています1–3。一次元圧電ナノ構造は、効率的な電子輸送が可能な最も小さな構造体であり、高いエネルギー変換効率を生み出す可能性を持っています4。さらに、1-Dナノ構造は高い機械的強度および柔軟性を持つため、電気信号に変換可能で環境発電およびナノスケールセンシングの両方に有用な、小さくランダムな機械的外乱(disturbance)にも応答性を有しています5–7。1-D圧電ナノ構造体の応答性は、圧電材料の性質に大きく依存します。このため、圧電結合係数が高い材料の探索が重要となることから、ZnO、BaTiO3、NaNbO3から構成されるナノワイヤ(NW:nanowire)などの一次元圧電ナノ構造体が研究されています6,8–11。しかし、これら化合物が示す圧電結合係数は比較的低く、応用は限られていました。ZnOナノワイヤを用いて測定された最も高い圧電結合係数は約13 pm/Vと報告されており8,9、BaTiO3ナノワイヤの場合は約50 pm/Vです10,11。
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:lead zirconate titanate)は、正方晶と菱面体晶との間のモルフォトロピック相境界(MPB:morphotropic phase boundary)近傍の組成において優れた圧電結合係数を示すため、センサーおよびトランスデューサへの応用が有望視されている圧電材料です。PZTの圧電性はドーピングおよび熱加工によってさらに高めることができると報告されています12–14。特にPZTナノワイヤは、1-D構造で優れた圧電特性を持つ可能性があるため、科学的な関心を集めています。
PZTナノワイヤを作製する方法は多数開発されており、水熱法15–19、template infiltration法20–22、電気泳動法23、パルスレーザ堆積法(PLD:pulsed laser deposition)24、エレクトロスピニング法12,25などがあります。しかし、これら方法の多くは収率が低く、コスト面の問題があります。一方、最近の報告では二段階水熱法を用いることで、高効率1-D PZTナノワイヤを、制御可能な組成、様々な結晶サイズ、高収率で得られることが示されています3。
本稿では、Zr:Tiのモル比が0.52:0.48および0.2:0.8の組成のペロブスカイトPZT(Pb(ZrxTi1-x)O3)ナノワイヤを二段階法を用いて水熱合成し、その構造と圧電特性に関する我々の研究について報告します。Zr:Tiのモル比は、Pb(ZrxTi1-x)O3の圧電特性におけるMPB相の重要性を強調するため、あえて0.52:0.48および0.2:0.8を選択しました。モル比が0.52:0.48の場合にMPB近傍組成のPZTが得られ、0.2:0.8のモル比ではMPBから離れた組成のPb(ZrxTi1-x)O3が得られます。改良した圧電応答顕微鏡(PFM:piezo-response force microscopy)法を用い、ナノワイヤの結合係数を測定しました。さらに、PZTナノワイヤを使用して、周囲環境の機械的振動を利用した環境発電デバイスの作製および試験を行いました。MPB組成に近いPZTナノワイヤは高い圧電結合係数および高い電力密度を持ち、センシングおよび環境発電アプリケーションにおいて既存の材料を上回る可能性を示しました。
合成および構造特性
二段階水熱法によるPZT(Pb(ZrxTi1-x)O3)NW合成の概要を、図1Aに模式的に示します(詳細は参考文献3を参照)。第一段階では、ジルコニウムプロポキシド(70% 1-プロパノール溶液)およびチタンイソプロポキシドを前駆体として使用し、H2ZrxTi1-xO3 NWを水熱合成します。第二段階では、PZT NWを合成するために、H2ZrxTi1-xO3NWをテンプレートとして用い、熱水条件下でPb(NO)3溶液中に分散させます。ここで得られたNWはPbTiO3タイプの相(非ペロブスカイト相のため、ここではPX相と呼びます)として結晶化しています。しかし、600℃で30分間熱処理を行うことで完全にペロブスカイト相に変換されます。走査型電子顕微鏡写真(SEM:scanning electron micrograph)により、第一段階で得たH2ZrxTi1-xO3ナノワイヤ(図1Bおよび1C)、加熱処理したPb(ZrxTi1-x)O3ナノワイヤ(図1Dおよび1E)を比較すると、PX相のPZTナノワイヤがペロブスカイト相に変換されてもNWの1-D形状に変化がないことが分かります。Pb(ZrxTi1-x)O3ナノワイヤのXRDパターンを図1Fに示します。XRDパターンの回折ピークは明確に識別可能でペロブスカイトPZT構造として同定され、この点からも第二合成段階でH2ZrxTi1-xO2からPZTナノワイヤへの変換が完了していることが確認できます。相変換は、PZTナノワイヤのエネルギー分散型X線分光分析(EDX:energy dispersive X-ray spectrometry)パターンにPb、Zr、およびTiのピークが存在することからも確かめることができます(図1Gおよび1H)。Pb(Zr0.52Ti0.48)O3ナノワイヤのEDXパターンにおけるZrピークはPb(Zr0.2Ti0.8)O3 NWのピークよりも高く、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3ナノワイヤにおいてZrがより高いモル比であることが確認できます。
図1(A)二段階水熱法によるPZT(Pb(ZrxTi1-x)O3)NW合成の模式図。(B~E)異なる組成のNWのSEM画像(B:H2Zr0.2Ti0.8O2、C:H2Zr0.52Ti0.48O2、D:Pb(Zr0.2Ti0.8)O3、E:Pb(Zr0.52Ti0.48)O3)。(F)第二段階の水熱処理後、および600℃での熱処理後に得られた各PZT NWのXRDパターン。(G、H)PZT(Pb(ZrxTi1-x)O3)NWのEDXパターン(Zr:Ti モル比はG:0.2:0.8、H:0.52:0.48)。
圧電特性
圧電応答顕微鏡(PFM:piezoelectric force microscopy)は、圧電ナノワイヤの圧電特性および応用の可能性を確認するために広く使用されている技術です。しかし、PFM法によって正確な圧電結合係数を求めるには、S/N比が低いという大きな問題があります15,26。例えば、Wangらは印加した電界に対するPZT NWのバタフライループおよび位相変化を測定しましたが、S/N比が低いために圧電結合係数を得ることができませんでした15。Xuらは、ビルトイン型ロックインアンプおよび市販のPFMソフトウエアパッケージを使用することで、圧電ナノワイヤの電気機械結合を定量的に測定できることを報告しています26。しかし、市販のプログラムを使用して得た電気機械結合は、圧電応答を直接解析できないため、信頼性に欠けると考えられます。PZT NWにおける圧電定数を定量的に測定するために、図2Aに模式的に示した実験装置を用いて精密なPFM試験を行いました15。PFM用サンプルは、超音波処理したPb(ZrxTi1-x)O3 NWエタノール懸濁液をPt/Ti被覆シリコンウエハー上にドロップキャストし、室温で自然乾燥して作製しました。NWの正確なトポグラフィー(図2Bおよび2C)は、非接触モード、低速スキャン(0.5 μm/s)にて原子間力顕微鏡法(AFM:atomic force microscope)により測定しました。電気機械応答を測定するため、1,500 nNの力で導電性AFMチップをナノワイヤ―のトップファセット上に置き、接触モードに切り替えた後、シリコンウエハー上のPt/Ti層に可変振幅の三角波1 Hz AC電圧を印加しました。測定中、AFMはアースの役割を果たします。ノイズに関するエラーを最小限に抑えるため、圧電効果による電気機械的変位および位相応答を100回測定し、得られたシグナルを加振波形の周波数に中心を合わせたバンドパスフィルターでフィルタリングし、平均しました。非分極PbZr0.2Ti0.8O3およびPbZr0.52Ti0.48O3 NWから得た、平均変位量(標準偏差30 pm未満)のバイポーラ電圧依存性をそれぞれ図2Dおよび2Gに示します。変位ループがバタフライ形状をしているのは、PZTナノワイヤのドメインの運動性および圧電特性によるものです。PbZr0.2Ti0.8O3およびPbZr0.52Ti0.48O3 NWから得た電圧に対する位相のヒステリシスループ(標準偏差3度未満)をそれぞれ図2Eおよび2Hに示します。ここで、加振波形適用時の90°から–90°までの位相変化は、位相と振幅ループにおいて保磁力場が一致することでナノワイヤの分極方向が切り替わるためです。図2Hから、直径200 nmのPbZr0.52Ti0.48O3 NWの抗電界値は50 kV/mmであると推定されます。PbZr0.52Ti0.48O3 NWの抗電界はバルク材料(2.5 kV/mm)よりも大きい値を示しますが、これはナノワイヤの結晶粒度が小さく、結晶粒が電界方向に沿って配向していないためです27–29。図2Fおよび2Iに示す変位/ユニポーラ電圧ループから、PZT PbZr0.2Ti0.8O3(40±5 pm/V)とPbZr0.52Ti0.48O3(80±5 pm/V)NWの圧電定数(d33)が、それぞれ得られました。ここで、PbZr0.52Ti0.48O3のd33が、PbZr0.2Ti0.8O3よりも大きい点に注意が必要です。PbZr0.52Ti0.48O3における電気機械結合が高いのは、Zrの濃度が高いことで、強誘電菱面体晶と正方晶間のモルフォトロピック相境界組成に近いためであることが考えられます。PbZr0.52Ti0.48O3 NWのd33(80d33(80 pm/V)は、環境発電デバイスにおいて広く使用されているプロトタイプPZT NW(50 pm/V)やZnOナノワイヤ(13 pm/V)よりも大きい値を示すことが明らかになっています8,9,15。
図2(A)PFM法を用いた実験装置の模式図。(B、C)PZTナノワイヤのトポグラフィー(B:PbZr0.2Ti0.8O3、C:PbZr0.52Ti0.48O3)。(D、E、G、H)異なる3つの振幅のバイポーラ加振波形を適用した時の変位量(D:PbZr0.2Ti0.8O3、G:PbZr0.52Ti0.48O3)と位相変化(E:PbZr0.2Ti0.8O3、H:PbZr0.52Ti0.48O3)。(F、I)異なる3つの振幅のユニポーラ加振波形を適用した時の変位量(F:PbZr0.2Ti0.8O3、I:PbZr0.52Ti0.48O3)。
環境発電
PZT NWとポリジメチルシロキサン(PDMS)とを組み合わせたナノ複合体の作製によって、新規PZT NWの環境発電性能がより明らかになっています。PDMSは、環境発電試験で生じる歪みからナノワイヤ―を保護するだけでなく、弾性が高いために機械的に破損することなく引張応力を100%保持できる能力があり、大きな変形に耐えうることから、マトリックスとして選ばれました30,31。PZT NWおよびPDMSの混合物を、AuでコートしたTi箔(Ti厚 = 35 μm、Auコーティング = 20 nm)にテープキャストし、150℃で12時間硬化しました。Ti箔はデバイスの下部電極として機能します。次に、PZT NWの双極子配列が下部電極面へ向かう電場の向きに沿うように、硬化した混合物をコロナポーリング(150℃で2時間、15kV)することで分極しました。その後、第二の電極として働く、200 nm厚の銀箔をナノ複合体表面へかぶせました。
図3Aおよび3Bは、環境発電素子の模式図、およびPbZr0.52Ti0.48O3 NWとPDMSの50:50 wt.%ナノ複合体の断面図を示しています。環境発電素子では、振動により引き起こされるストレス下において、PZTナノワイヤが2つの電極間で電位差を生成し、エネルギー発生源として機能します。図3Bは、PDMSマトリックス中にナノワイヤ―が良く分散していることを示しています。このナノ複合体の場合、NWの最大重量パーセントは50%に設定されていますが、これはより高濃度になるとNWの分散性が低くなる可能性があるためです。デバイスでは、ナノ複合体は共振周波数において容易に振動するカンチレバーとして働きます。カンチレバーの形成はナノ複合体の根本をエポキシでガラス基板に貼り付けて行います(図3A)。試験を行った全てのデバイスの電力密度を比較するため、ナノ複合体の寸法をおよそ2 cm (L) × 1 cm (W) × 0.018 cm (T) としました。
図3(A)PZT/PDMSナノ複合材料を用いた環境発電素子の模式図。(B)PbZr0.52Ti0.48O3 NWとPDMSナノ複合体(50:50 wt.%)の断面図。
PZT NW/PDMSナノ複合体の応用可能性を調べるため、マニュアルによる周期的な曲げ変形と解放を行い、ナノ複合体から生じる電圧および電流を確認しました。この手作業による試験は、ナノ複合体を利用した環境発電デバイス作製における一次スクリーニングとして広く使用されている手法です。解放電圧(Voc)の測定は高インピーダンス(1 TΩ)ボルテージフォロワで行い、短絡電流(Isc)の測定は高速電位計で行いました。50:50 wt.%PbZr0.52Ti0.48O3 NW/PDMSナノ複合体を用いたデバイスのVocグラフを図4Aに示します。周期的な曲げ/解放で、本デバイスは6~7Vの電圧を発生しました。これはNaNbO3 NWナノ複合体(3.2V)の2倍以上、またZnO NWナノ複合体(2.03V)の3倍です32,33。この大きなVocピーク値は、PbZr0.52Ti0.48O3 NWの高い圧電係数によるものと考えられます。しかし、PZT/PDMSの性能はひずみ速度にも大きく依存するため、単にVocピークを比較しただけでは十分でない点に留意する必要があります。そのため、実際の性能を測定するためには、制御励振を加える必要があります。図4CはVocグラフを拡大したものです。曲げひずみに伴ってVocは負のピークを示し、続いて曲げられたナノ複合体の解放による大きな正のピークが生じ、大きなひずみ速度となります。環境発電デバイスのIsc出力グラフを図4Bに示します。周期的な曲げ変形および解放により、100~120 nAの電流が発生し続けています。図4Cと4Dに見られるVocおよびIscの振動はカンチレバーの減衰効果に起因し、このことからも出力シグナルがPZT/PDMSナノ複合体によって実際に発生したものであることが確認できます。
図4PbZr0.52Ti0.48O3 NW/PDMS(50:50 wt.%)ナノ複合体を用いたデバイスからの各種シグナル。カンチレバーのマニュアルによる周期的な曲げ変形と解放によって生成した(A)解放電圧(B)短絡電流(C)出力電圧(D)出力電流。CとDは、AおよびBの拡大図。
一般的に、環境振動エネルギーは1 Hz~1 kHzの範囲で存在します34,35。そのため、PZT/PDMSナノ複合体環境発電デバイスの環境振動エネルギーに対する性能を測定し、周波数応答関数(FRF:frequency response function)を用いた動的特性評価を行いました3。ナノ複合体カンチレバーにおいて、FRFは共振周波数43 Hzを示しました。
比較的低周波数でのPZTナノワイヤを用いた高性能ナノ複合体環境発電デバイスのポテンシャルを示すため、様々な負荷抵抗に対する交流(AC)電力および電力密度を計算しました。AC電力(PL)は、共振周波数における外部抵抗負荷(RL、1 MΩ~500 MΩ)にわたりRMS(root mean square)電圧(VL)を測定し、式1を用いて求めました36。
図5Aおよび5Bは、50:50wt%PbZr0.52Ti0.48O3 NW/PDMS環境発電デバイスのAC電力および電力密度を示しています。30 MΩを下回るRLでは電力が急激に上昇し、RL = 40 Mωの時に88 nWのピークに達します34,37。RL > 40 MΩでは、VLはVocに向かって飽和し始めるため、電力は減少し続けます。図5Cおよび5Dは、PZT NW/PDMSナノ複合体におけるVPPおよび電力密度の濃度依存性を示します。PbZr0.52Ti0.48O3およびPbZr0.2Ti0.8O3ナノ複合体のどちらも、濃度が上昇するにつれてVPPおよび電力密度が上がります。PbZr0.52Ti0.48O3およびPbZr0.2Ti0.8O3を用いた50:50 wt% PZT NW/PDMSデバイスの最大電力密度はそれぞれ2.4および0.75 μW/cm3と推測されます(図5D)。PbZr0.52Ti0.48O3をベースとしたナノ複合体の電力密度が、PbZr0.2Ti0.8O3と比べて高い(約3倍)のは、MPB近傍組成のPbZr0.52Ti0.48O3が示す高い圧電特性によるものと考えられます。
図5PZT/PDMSナノ複合体環境発電デバイスの電力特性。PbZr0.52Ti0.48O3/PDMSナノ複合体を用いた際の、さまざまな抵抗負荷(RL)でのAC電力(A)と電力密度(B)。RL = 40 MΩの時に88 nWのピーク電力に達し、2.4 μW/cm3の最大値を示します。PZTナノワイヤの含有量が増えるにつれてピーク電力も増加し、同様に、VPP,IPP(C)およびピーク電力密度(D)も増加します。
まとめ
圧電特性におけるモルフォトロピック相境界(MPB)の重要性が示されました。PbZr0.52Ti0.48O3 NW/PDMSナノ複合体環境発電デバイスでは、比較的低周波数で高い電力密度(2.4 μW/cm3)を得ることができました。この電力密度は、ベースの振動を利用したカンチレバー型環境発電デバイスに匹敵し38–40、環境発電およびセンシングにおけるPZT NW応用の可能性が示されました。さらに、二段階水熱法を用いることにより、様々な組成のPZT NWを高収率で合成することができるため、その重要性がより高まっています。
Acknowledgment
The authors gratefully acknowledge support from the Air Force Office of Scientific Research under contract FA9550-12-1-0132.
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