光エレクトロニクス用精密ナノ粒子
Benny Pacheco, Scott Kordyban
Product and Business Development Manager Cytodiagnostics, Inc. 919 Fraser Dr, Unit 11 Burlington, ON L7L 4X8
Material Matters Volume 7 Number 1
はじめに
無機ナノ材料は、大きさや形状、構造、もしくは組成の調整が可能な材料です。定義の明確なナノ材料合成方法が開発されたことで、その特有の光学的、電子的、化学的性質を制御できるようになり、幅広い分野において関心が非常に高まっています。本稿では、光エレクトロニクス用途における無機ナノ粒子(NP:nanoparticle)について、最近の研究成果をいくつか取り上げて解説します。
無機ナノ構造と性質
ナノ粒子の固有特性やその用途は、粒子の大きさ、形状、表面特性と密接に関係するため、ナノ粒子の精密合成に関してさまざまな研究が行われてきました。ナノ粒子(金や銀など)の重要な性質は、その物理的形状を変化させることで調整できます。たとえば、金のナノ球体(図1)1、ナノロッド2、ナノプリズム3、ナノキューブ4、ナノワイヤ5などをはじめとする、様々な形状の金属ナノ粒子が示す独特の性質について、これまでに多くの研究が報告されています。光共鳴波長、消光断面積、消光に対する散乱の相対的寄与などの光学的性質は、様々な用途に合わせて調整が可能です。球状ナノ粒子では可視領域の共鳴波長が得られますが、ナノシェルやナノロッドでは共鳴は近赤外(NIR)領域へとシフトします。さらに、ナノシェルとナノロッドはコアとシェルの半径及びアスペクト比を、それぞれ変化させることにより、光学的性質を高めることができます。
光学的性質は、光と金属ナノ粒子表面上の電子との相互作用によるものです。特定の波長(周波数)では、金属ナノ粒子表面の電子の集団振動によって表面プラズモン共鳴と呼ばれる現象が生じ、その結果、強い消光が起こります。この現象が生じる光の波長あるいは周波数は、ナノ粒子の大きさ、形状、表面、および凝集状態に大きく依存しています。ナノ粒子は、表面プラズモン共鳴が(特に可視光周波数領域内で)強く見られるため、非常に優れた可視光の散乱体もしくは吸収体であるといえます。このような現象に加えて、ナノ材料の合成6や表面結合7、自己組織化8に関する研究の進展によって、光学9、光エレクトロニクス、バイオ診断10用途に適したプラズモン共鳴ナノ構造材料が利用されるようになっています。

図 1.Cytodiagnostics社およびAldrichより入手可能な金ナノ粒子のTEM画像。A) 5 nm(741949)、B) 100 nm(753688)、C) 400 nm(742090)
有機太陽電池(OPV)デバイス
金属ナノ粒子を使った有機太陽電池デバイスの電力変換効率(PCE:power conversion efficiency)向上に関しては、数多くの報告があります。2011年、UCLAのYang教授が率いる国際研究チームが金ナノ粒子を用いてOPVを作製することで、従来よりも20%高い性能が得られました(図2)11。初めてプラズモン増強型タンデム太陽電池を作製し、太陽電池におけるプラズモン効果の有用性を報告しています。また別の方法で、National Chiao Tung University(台湾)のChia-Ling Leeらは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:localized surface plasmon resonance)を利用する目的で金ナノ粒子を陽極バッファー層中に組み込み、PCEを3.57%から4.2%へと向上させました12。性能向上は、金ナノ粒子近傍の電磁場が局所的に増強されたことによるものであると結論されました。

図 2.A)プラズモン型ポリマータンデム太陽電池、ITO/TiO2:Cs/P3HT:IC60BA/PEDOT:Au/TiO2:Cs/PSBTBT:PC70BM/MoO3/Alの模式図。B) AM 1.5G 100 mW·cm-2の照明下におけるタンデム型太陽電池のJ–V特性11。
有機電界効果トランジスタ(OFET)/有機薄膜トランジスタ(OTFT)材料
有機薄膜トランジスタ(OTFT:organic thin film transistor)デバイスへの無機ナノ粒子の利用が研究されています。Xerox Research Center(カナダ)のBrian Chiangらは、図3に示すように、有機半導体にpolyquaterthiophene(PQT-12)を用いたボトムコンタクト型OTFTデバイスにおいて、溶液堆積法によって作製した金属ナノ粒子(主に金)による電極を使用しました13。実験操作は、市販のプラスチック基板との適合性を確保するため、低温で行われました。そのスイッチング特性は、金電極の作製に真空蒸着などの大がかりでコストの高い処理法を用いた類似のデバイスと同等であることがわかりました。

図 3.A)金ナノ粒子を使って金ソース/ドレイン電極をプリントし、PQT-12を半導体に用いたボトムコンタクト型OTFTの模式図。B)チャネル長240 μm、チャネル幅2,200 μmのソース/ドレイン電極をプリントしたOTFTにおける、ドレイン電流IDとソース-ドレイン電圧VDの関係を、ゲート電圧VGの関数として示したグラフ13。
National Tsing-Hua University(台湾)のYu-Tai TaoとChiao-Wei Tsengは、ペンタセン膜を用いたOFETデバイスの伝導チャネルに、表面官能基化金ナノ粒子を組み込みました14。金ナノ粒子上の自己組織化膜が、真空蒸着させたペンタセン膜の結晶度と形態に非常に大きな影響を与えることが示されましたが、これは金属とペンタセンの強い相互作用による可能性が最も高いと考えられます(図4)。電荷保持した金ナノ粒子に起因する電気的双安定性が認められたことから、トランジスタ/メモリ機能における金属ナノ粒子のフローティングゲートとしての利用可能性が示されました14。

図 4.A) 非修飾金ナノ粒子、B) SAM修飾金ナノ粒子、を塗布したシリコン基板上に堆積させた、ペンタセン分子の模式図14。ACSの許可を得て掲載。
分子エレクトロニクス/不揮発性メモリ
National University of SingaporeのSrinivasanらは、不揮発性メモリの性能向上、そして最終的にはナノ粒子を用いた電子デバイスの実現に向けて大きな一歩を踏み出しました。彼らは、表面修飾剤としてGantrezポリマーを用いたシリカ基板上に官能基化金ナノ粒子を共有結合させることで、金属‐絶縁体‐半導体(MIS:metal-insulator-semiconductor)デバイスを作製しています(図5)15。固定化ナノ粒子の安定性向上は超音波テストによって確認され、また、電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM:field emission scanning electron microscopy)では目立った変化は認められませんでした。このMISデバイスは、非常に明瞭なサイクリックボルタンメトリー(CV)ヒステリシス曲線を示すことから、優れたメモリ効果と保持特性(最長2万秒)をもつことが示唆されます。また、スワッピング電圧が±7 Vの場合、電圧の変化は1.64 Vでした。

図 5.A) 固定化Auナノ粒子を用いたMISデバイスの構造。B) 金ナノ粒子を用いた場合と用いない場合の、トップ電極に± 6 Vのバイアスをかけて得られた100 kHzにおける規格化したC–V特性15。ACSの許可を得て掲載。
光エレクトロニクス―蛍光ナノ結晶
近年の急速な電子化に伴い、電子捕獲効率や記憶装置、画像表示は進歩し続けています。そのため、高性能のイメージセンサやディスプレイを低コストで効率よく大量生産することが、現在の課題となっています。こうしたニーズに応えられる有望な技術に、量子ドット(QD:quantum dot)としても知られている蛍光ナノ結晶があります。蛍光ナノ結晶はナノスケールの半導体結晶で、多くの場合、懸濁液の状態です。量子ドットからの発光は発色性(color quality)の向上が期待され、高い電力効率で駆動する上に低コストの溶液処理が可能ということもあって、産学共に非常に大きな関心が寄せられています。
蛍光ナノ結晶の特異な発光特性や吸光特性は、結晶サイズが小さいことと量子閉じ込めによるものです。単に粒子の大きさを変えるだけで、あるいはわれわれのケースではその組成を変えるだけで、バンドギャップ、発光色、吸収スペクトルを、可視光から赤外までの波長を通して調整することができます。蛍光ナノ結晶の吸収域は広いため、光検知器や太陽電池への応用が期待されています。また、発光の幅は狭いため、ディスプレイや照明、光ラベル、バーコードとして非常に有用な材料です。
Choら16は、有機および無機半導体層とCdSe/CdS/ZnS蛍光ナノ結晶とを組み合わせることで、溶液処理で作製の可能な赤色発光デバイス(LED)のアクティブマトリクス配列(大面積)を報告しています(図6)。

図 6.(A) QD-LEDのデバイス構造(左)とTEM断面像(右)。TFBはpoly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(4,4’-(N-(4-sec-butylphenyl))diphenylamine)]。スケールバーは100 nm。(B) エネルギーバンド図。QDとTiO2のエネルギーバンドは、UPSおよび光吸収測定によって計測しました16。
まとめ、今後の展望
有機および無機ナノ材料を共に用いることで、材料科学における研究課題を解決できるような画期的な成果が得られる可能性があります。商品化においては、通常、用いる有機化合物の純度や規格に細心の注意が払われますが、官能基化ナノ材料においては必ずしも当てはまりません。高品質の無機ナノ材料は、世界中の多くの研究グループにとって必要不可欠の材料となりつつあり、材料科学分野の急速な発展に大きく貢献することでしょう。
References
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