ピペラジン合成のためのSLAP試薬
はじめに
近年、Bodeグループにより数多くのSnAP(Stannyl (Sn) Amine Protocol)試薬が開発され、その多くが市販化されています。SnAP試薬は、アルデヒドやケトンとのクロスカップリング反応により、単工程でモルフォリン、ピペラジン、チオモルフォリン、オキサゼピン、ジアゼピン化合物を合成可能です(#1)。SnAP試薬は幅広い化合物の合成に展開できる可能性がある一方で、有毒なスズ試薬を使用せざるを得ない点が問題となっています。そこでこの問題を解決するために、新たにSLAP(SiLicon Amine Protocol)試薬が開発されました(#2)。
SLAP試薬は青色光照射下でイリジウム光レドックス触媒(747769)を用いることで、芳香族、複素環式芳香族、脂肪族のアルデヒドやケトンからピペラジンを得ることができます。加えてSnAP試薬で懸念されていた有毒性の高い副生成物の心配もありません。現在、多くのSLAP試薬がカタログ製品として市販されており、今後もそのラインアップは広がることでしょう。
図1.SLAP Reagents
SLAP試薬を用いた反応にルイス酸を添加することで、チオモルフォリンやチアゼパンの合成も可能になります。モルフォリンとチオモルフォリンの合成においては、有機光触媒である2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボレート(TPP・BF4、 272345)(#3)を用いることも可能です。これらの反応条件、特に有機光触媒(TPP)およびルイス酸を加える条件は、特にフローケミストリーとの相性が良いため、モルフォリン、オキサゼパン、チオモルフォリン誘導体の連続フロー合成によるスケールアップにも適用できます。
利点
TMS基は化学的安定性が高いため、市販のビルディングブロックからさまざまなSLAP試薬を容易に調製することができ、アルデヒドやケトンと縮合することで、SnAP試薬と同様に保護されていない官能基に対する高い耐性を示します。立体構造や立体化学に関係なく、すべてのSLAP試薬は光触媒を用いた含窒素複素環形成反応に活用可能です。反応生成物は温和な反応条件下で得られ、熱力学的に安定な異性体が優先するため高いジアステレオ選択性を示します。
図2.SNAP Reagents
一般的な合成スキーム
イミン形成の一般的な反応条件:
SLAP試薬(0.5 mmol)、アルデヒド化合物(0.5 mmol)、およびMS 4A(100.0 mg)の混合物を、SLAP Pip試薬の場合はMeCN溶液(1.0 mL、 0.5 M)、SLAP TM試薬またはSLAP TA試薬の場合はCH2Cl2溶液(1.0 mL、 0.5 M)にて、N2雰囲気下、室温にて終夜攪拌する。反応後、セライトにてろ過し、CH2Cl2にて洗浄する。ろ液を減圧濃縮し、そのまま環化反応に使用する。
ケチミン形成の一般的な反応条件:
SLAP試薬(0.5 mmol)、ケトン化合物(0.5 mmol)、およびMS 4A(100.0 mg)混合物を、ベンゼン溶液(1.0 mL、 0.5 M)、N2雰囲気下、室温にて終夜攪拌する。反応後、セライトにてろ過し、CH2Cl2にて洗浄する。ろ過物を減圧濃縮し、そのまま環化反応に使用する。
光触媒環化(ピペラジン化合物)の一般的な反応条件:
反応はバイアル中(20 mL、 脱気操作や無水溶媒の使用は不要)で実施する。イミンまたはケチミン(0.5 mmol、 1.00当量)のMeCN/TFE溶液(9:1、 10.0 mL、 0.05 M)、およびIr[(ppy)2dtbbpy]PF6 (4.6 mg、 5.0 μmol、 0.01当量)を加える。室温を維持しながら、青色LED光(30 W)を照射し攪拌する。水(0.1 mL)を加え、さらに5分攪拌する。溶媒を減圧除去し残留物をCH2Cl2に溶解し、Na2SO4にて脱水、ろ過後、減圧濃縮する。カラムクロマトグラフィーにて精製する。
光触媒環化(チオモルフォリン、チアゼパンおよびモルフォリン化合物)の一般的な反応条件:
反応はバイアル中(7 mL、 脱気操作や無水溶媒の使用は不要)で実施する。イミンまたはケチミン(0.5 mmol、 1.00当量)のMeCN溶液(5.0 mL、 0.05 M)、および、チオモルフォリンとチアゼパンの場合はCu(OTf)2(180.8 mg、 0.50 mmol、 1.00当量)/Bi(OTf)3(160.4 mg、 0.25 mmol、 0.5当量)とIr[(ppy)2dtbbpy]PF6 (4.6 mg、 5.00 μmol、 0.01当量)を添加、モルフォリンの場合は、TMSOTf(144.4 mg、 0.65 mmol、 1.30当量)とTPP・BF4 (9.9 mg、 0.025 mmol、 5 mol%)を添加する。室温を維持しながら16~48時間、青色光LED(30W)を照射し攪拌する。反応後、NH3水溶液(1 mL、 ca. 12 M)を加え、さらに10分攪拌する。溶媒を減圧除去し、残留物をCH2Cl2/NH3水溶液に溶解しセライトでろ過する。ろ過物をCH2Cl2で抽出し有機層をNH3水溶液で洗浄する。得られた有機物をNa2SO4で脱水、ろ過し、減圧濃縮する。残留物をカラムクロマトグラフィーで精製し目的物が得られる。
フロー合成リアクターを用いた環化反応の一般的な条件:
SLAP試薬とアルデヒドの種類に応じて、以下3種類の方法からいずれかを選択する。
プロセス①:イミン(0.50 mmol、 1.00当量)を10:1 CH3CN/HFIPに溶解。触媒(0.03 mmol、 5mol%)およびTMSOTf(0.65 mmol、 1.30当量)を添加し、溶液を3~5分攪拌する。混合物をフロー速度 r = 0.10 mL/min で送液しながら、青色光を照射する。反応混合物はCH2Cl2(15mL)にて希釈し、10% NH4OH溶液(5 mL)を加える。水層からCH2Cl2 (10mL×3回)にて抽出する。有機層と混ぜて塩水で洗浄し、MgSO4にて脱水後、減圧濃縮する。残留物をカラムクロマトグラフィーで精製し目的物が得られる。
プロセス②:プロセス①に加えて触媒10 mol%を使用し、フロー速度 r = 0.06 mL/min.に減速する。
プロセス③:プロセス①に加えて触媒10 mol%を使用する。
参考文献
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