はじめに
多環芳香族炭化水素(PAHs)は、さまざまな発生源に由来して食物中や環境中に存在することがある発がん性物質です。発生要因には、自然発生または汚染、包装に由来するものや、加熱や直火焼きといった食品の調理法に由来するものがあります(1)。PAHsは縮合芳香環から構成され、その疎水性の特徴から油脂に混入しやすい成分です。 ある報告では、26 μg/kgもの高濃度でPAHsが含まれるバージンオリーブオイルが見つかったことがあります(2)。代表的なPAHsの構造を図1に示します。2005年には、欧州連合委員会規則(EC)No 208/2005で食品に含まれるPAHsの上限値が設定されました。人間が直接摂取することを目的とした油脂での残留基準値は、ベンゾ(a)ピレンの湿重量として2 μg/kgです(3)。食用油の分析は、油のマトリックスがHPLCカラムにオーバーロードするため、特に困難とされています。
図1.PAHsの代表的な構造
SPEは、油からPAHsを抽出するために最もよく利用される方法の1つです。本稿ではオリーブオイルからPAHsを抽出するために開発された分子鋳型ポリマー(SupelMIP®PAH)を抽出と精製に用いてGC-MS分析をしました。
分子鋳型ポリマー(Molecularly Imprinted Polymer/MIP)
分子鋳型ポリマーは高い選択性で1つの特定のターゲット化合物や構造的に類似する化合物と結合するように設計された、高度に架橋された分子認識ポリマーです。MIPは測定化合物(群)と立体的かつ化学的に相補的な空洞によって設計されています。その結果、MIPの空洞と被分析物質の間で多様な相互作用(水素結合、イオン間、ファンデルワールス力、疎水性など)を持ちます。
オリーブオイル中におけるPAHsの抽出とGC/MS測定
PAHsの混合標準液を塩化メチレン中で調製しました。混合標準液は、ベンゾ(a)アントラセン、クリセン、ベンゾ(b)フルオランテン、ベンゾ(k)フルオランテン、ベンゾ(a)ピレン、インデノ(1,2,3-cd)ピレン、ジベンゾ(a,h)アントラセン、ベンゾ(ghi)ペリレンを含みます。
店舗から購入したオリーブオイルにPAHsを2 μg/kgの濃度で添加した同一試料を2つ調製しました。内部標準としてクリセン-d12を20 μg/kgの濃度で添加しました。
0.5 gの添加試料とブランク試料を0.5 mLのシクロヘキサンと混合し、表1に示すSupelMIPによるSPEワークフローを使用して抽出し、表2に記載したGC-MS条件で測定しました。
オリーブオイルのブランク試料には、バックグラウンドとなるPAHsのコンタミネーションが見られ、最も多く存在した化合物はクリセンでその濃度は約10 μg/kgでした。この結果は、オリーブ油に軽い(2~4環性)PAHsがより多く存在するとしたこれまでの研究と一致しています(2)。
SupelMIP SPE PAHs法を使って82%の平均回収率が観察されました。すべての化合物が少なくとも4つの縮合芳香環を含んでいました。
結論
本稿では、SupelMIP SPE PAHを使用したオリーブオイルからのPAHsの抽出とGC-MS分析を紹介しました。その抽出手順は極めて簡単であり、SPEでのクリーンアップ処理はわずか5ステップです。その手順はさらに大きなPAHs分子に適しています。さらに小さなPAHs分子(2~3環性)を抽出できる可能性もありますが、その回収率は低くなるかもしれません。
参考文献
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