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キラルHPLC・MS検出を使用したアンフェタミン・メタンフェタミン乱用試験

本研究では、尿中のアンフェタミンとメタンフェタミンのエナンチオマーをLC/MS分析するための分析前処理と、キラルクロマトグラフィーを最適化する方法を紹介します。

はじめに

さまざまな医療用途がある強力なCNS興奮剤であるメタンフェタミンとアンフェタミンには自信、社交性、および活力を増進させる副作用があるため、快楽を得るための向精神薬として広く乱用されています。精神的覚醒が向上したり疲労を抑制したりする別の特性もあるため、スポーツ界での乱用が広まっています。1マイナス面の副作用には高血圧、頻脈などがあります。一般にアンフェタミンのほうがメタンフェタミンより弱いのですが、薬物乱用が野放しになっている状況では同じような精神活性効果を示します。

これらの薬物は依然として違法に使用され続けています。英国公衆衛生庁の最近の報告では、注射した主な薬物がアンフェタミンとアンフェタミン型物質(メフェドロンなど)と答えた人の数は2002年から2012年の間に3倍近くに増えました。2さらに、揮発性の低いアンフェタミン硫酸塩とは異なり、メタンフェタミン塩酸塩(「アイス」、「クリスタルメス」と呼ばれることもある)は煙を吸ってクラックコカインと同様の高揚感が得られますが、その状態はクラックコカインよりはるかに長く持続します。通常、メタンフェタミンとアンフェタミンは日常的に共同監視されていないため、どちらのほうが広く使用されているかという情報はほとんどないことが報告されています。しかし、欧州ではアンフェタミンがメタンフェタミンより広く出回っており、北米とアジアではその逆であるとの指摘がありました。3

キラリティー

アンフェタミンとメタンフェタミンはキラル分子です(図1)。いずれのケースでも、D-エナンチオマーがL-エナンチオマーより強い生物活性を持っています。メタンフェタミンは規制薬物(欧州ではクラスA、米国ではスケジュールII、いずれも個々のエナンチオマーとラセミ体として)ですが、L-異性体が実際にいくつかの市販薬(北米のVicks® 吸入器など)に使用されているため、薬物乱用に起因する本当の濃度が変わる可能性があります。その分析は、L-メタンフェタミンが若年性パーキンソン病、うつ病、および認知症の治療薬であるセレギリンなど、特定の治療薬の代謝物でもあるという事実によってさらに困難になっています。アンフェタミンの定量は、アンフェタミンがメタンフェタミンの主な代謝物でもあるというだけでさらに複雑になります。従来から薬物分析に使用されている方法であるイムノアッセイはエナンチオマーと別のエナンチオマーを区別できないため、不完全で曖昧な結果にすぎません。

D-およびL-アンフェタミンとメタンフェタミンの構造

図1.D-およびL-アンフェタミンとメタンフェタミンの構造

メタンフェタミンが違法に売られるときは、一般にD-エナンチオマーまたはラセミ体として売られます。摂取用量は純度と異性体組成によって数十~数百ミリグラムの範囲で変わり、アンフェタミンと4-ヒドロキシメタンフェタミンに代謝されます。3アンフェタミンは主に1-フェニル-2-プロパノンに代謝され、4-ヒドロキシアンフェタミンも少量生じます。しかし、経口摂取後、最大54%のメタンフェタミンが変化せずにそのまま、10~23%がアンフェタミンとして排泄されるため、通常モニターされるのは親化合物です。1

アンフェタミンとメタンフェタミンの違法な使用を罪に問えるかどうかは、測定された乱用製品の起源をL-エナンチオマーに考えられる別の起源から区別できるかどうかにかかっています。そのため、エナンチオマーの分離が正確なアプローチになります。違法源が使用した合成経路をキラル法で示すこともでき、これは犯罪捜査の一部として役立つ可能性があります。実際、エフェドリンとプソイエドフェドリンのいずれかから調製された製品中では、D-メタンフェタミン異性体だけが検出されることが明らかになっています。4

分析法の開発

柔軟性が高く、毒性学的に関心がある化合物への対応範囲が広いためにLC/MS/MS法が選択されることが増えていますが、キラルGCとLCはいずれも分析法として利用できます。

これら分子のGCでは、キラルGC相上のトリフルオロアセテートとしての誘導体化が不可避です。最近の研究では、代わりに(R)(-)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロリド(MTPA)を利用して、エナンチオマーをアキラルなポリシロキサン相で分離します。4この誘導体化では、尿中の定量限界(LOQ)が10 μg/L未満である、関連するMDA、MDMA、およびMDEAも含む試料に適した方法を提供しました。しかし、一般に分析前処理とHPLC法のほうが簡単で生体試料に適しているため、本研究ではこちらを選択しました。この方法を開発して分離能、保持、およびLOQに最適化しました。

HPLC法の開発

結合した大環状糖ペプチドをベースにしたAstec® CHIROBIOTIC® HPLCキラル固定相(CSP)を選択したのは、質量分析計(MS)検出との親和性が高く、極性分子への適合性を持っていたからでした。Astec CHIROBIOTIC CSPを臨床と法医学アプリケーションで利用するそれ以外の利点は、堅牢性と、他のCSPでは許容できない条件での生体試料の繰り返し注入に対する耐久性です。Astec CHIROBIOTIC CSPは逆相と極性イオン移動相のいずれでもエナンチオ選択性を示します。後者は、水と10%未満のさまざまな割合のイオン添加剤とともに90%超の有機修飾剤を含有する移動相として規定されます。

メタンフェタミンを逆相と極性イオンモードでキラルスクリーニングにかけたところ、酢酸/水酸化アンモニウムかトリフルオロ酢酸アンモニウム塩添加剤のいずれかを選択した極性イオンモードのAstec CHIROBIOTIC V2が最も高い選択性を示すことが分かりました。両方の添加剤システムを最適化プロセスの一環として検討しました。一般に、極性イオンモードの選択は100%有機系、本質的には非水系相ですが、メカニズムを逆相のものに変更する前に最大10%の水を添加できます。極性イオンモードに使用する代表的な添加剤は酸と塩基または揮発性塩です。その機能は、CSPのイオン化可能な表面とのイオン相互作用を強化し、MS中での被分析物質のイオン化を高めるという付随的かつ有益な効果を得ることです。移動相に最大10%の水を添加することによってイオン添加剤の溶解性を保ち、方法の堅牢性と再現性を向上させます。

すべてのキラル固定相に関するAstec CHIROBIOTICの分離メカニズムは複雑です。大環状糖ペプチドの表面には、包接錯体化ポケットに加えてアミド(ペプチド)、フェノール、イオン(アミンまたはカルボン酸)、芳香族塩素部位など、さまざまな相互作用を起こすサイトが含まれます。キラルセレクターとしてバンコマイシンを使用するAstec CHIROBIOTIC V2はカルボン酸基を持つため、その他の官能基が水素結合によって分離を向上させていると考えられる中で、多くのアミンの分離に適しています。

メタンフェタミンエナンチオマーの分離

15 cm x 4.6 mm、5 μm Astec CHIROBIOTIC V2カラムを使用し、2種類の極性イオン移動相の保持と分離能を比較しました。いずれの移動相もメタノール:水(95:5)で構成しました。第1の移動相のイオン添加剤には酢酸と水酸化アンモニウム(0.1:0.02)を使用しました。第2の移動相には0.05%トリフルオロ酢酸アンモニウムを使用しました。結果を図2に示します。いずれの場合も、D-(S(+))エナンチオマーがL-(R(-))エナンチオマーの前に溶出されてベースライン分離能が得られました。保持と分離能はトリフルオロ酢酸アンモニウムのほうが低くなりました。

次に、これら2種類の移動相システムの感度を比較しました。図3に示すデータでシグナル対ノイズ比を比較すると、酢酸/水酸化アンモニウム移動相を使用した方法で12.5ng/mL未満という最小のLOQを得たため、これを最適システムとして選択しました。検量線も作成し、その方法ではR(-)-メタンフェタミンについて12.5~240 ng/mLで直線性が認められました。アンフェタミンについても同一のクロマトグラフィー条件を試験し、メタンフェタミンより保持はやや低いものの高い分離能が得られました(図4)。

異なる移動相添加剤におけるAstec CHIROBIOTIC V2によるメタンフェタミンエナンチオマーのキラルLC/MS分析

図2.異なる移動相添加剤におけるAstec CHIROBIOTIC V2によるメタンフェタミンエナンチオマーのキラルLC/MS分析

条件

カラム:Astec CHIROBIOTIC V2、15 cm x 4.6 mm、5 µm粒子(製品番号15023AST)
移動相1:[A]メタノール、[B]水、[C]酢酸、[D]水酸化アンモニウム(95:5:0.1:0.02、A:B:C:D)
移動相2:0.05%トリフルオロ酢酸アンモニウムを含むメタノール:水(95:5)
流量:1.0 mL/分
圧力:移動相1 1257 psi(87 bar)、移動相2 1220 psi(84 bar)、 カラム温度:20℃
検出器: MS、SIR 150.1、2 Hz(Waters ACQUITY QDa)
注入: 2 µL試料:(+/-)-メタンフェタミン、メタノール中500 ng/mL

LOQ最適化のためのS/N比研究

図3.LOQ最適化のためのS/N比研究

条件

図2と同一

 

Astec CHIROBIOTIC V2によるアンフェタミンエナンチオマーのキラルLC/MS分析

図4.Astec CHIROBIOTIC V2によるアンフェタミン・エナンチオマーのキラルLC/MS分析

条件

以下を除いて図2と同一:
移動相: [A]メタノール、[B]水、[C]酢酸、[D]水酸化アンモニウム(95:5:0.1:0.02、A:B:C:D)
圧力:1257 psi(87 bar)
試料:50 ng/mL、メタノール中に各エナンチオマー

アンフェタミンとメタンフェタミンの同時分析

これらの化合物は同重体ではありませんが、4種類すべてのエナンチオマーを同時にベースライン分離する方法を検討しました。メタンフェタミンとアンフェタミンを分離して分析する最適条件は、4種類すべてのエナンチオマーが同時に分離された4つのピークのうち2つの共溶出になりました。MSではこのオーバーラップが十分考慮されますが、本方法を最適化するための研究も行いました。酸/塩基比の変更が分離能に与える影響を研究し、Astec CHIROBIOTIC Vカラム(キラルセレクターは同一であるが結合の化学が異なる)への変更も検討しました。しかし、いずれの方法でも要求された分離能は得られませんでした。カラム長を長くして温度を高くするだけで成功しました(図5)。

Astec CHIROBIOTIC V2によるアンフェタミンとメタンフェタミンのエナンチオマーのLC/MS分析

図5.Astec CHIROBIOTIC V2によるアンフェタミンとメタンフェタミンのエナンチオマーのLC/MS分析

カラム: Astec CHIROBIOTIC V2、25 cm x 4.6 mm、5 µm粒子(製品番号15024AST)
移動相: [A]メタノール、[B]水、[C]酢酸、[D]水酸化アンモニウム(95:5:0.1:0.02、A:B:C:D)
流量:1.0 mL/分
圧力:840 psi(58 bar)
カラム温度:40℃
検出器:UV、205 nm
注入:5 µL
試料:100 μg/mL、メタノール中に各エナンチオマー

分析前処理の重要性

効果的な前処理により、感度の減少、堅牢性の低下、またはその両方につながる試料マトリックス成分を除去します。尿からメタンフェタミンを最適に抽出するために液-液抽出とSPEを比較しました。

液-液抽出

以前に発表した方法に従って、125 μLの合成尿画分にメタンフェタミン(125 ng/mLで各エナンチオマー)を添加し、1mLのジエチルエーテルを加えました。30分間ボルテックスした後、試料を10,000 rpmで10分間遠心分離しました。上層(有機)の500 μL画分を取り出し、窒素下55℃で溶媒を乾固しました。その後、500 μLの移動相で再溶解し、0.22 μm PVDFフィルターでろ過しました。6

固相抽出

SPE法用に1 mLの合成尿に25 ng/mLで各エナンチオマーを添加し、ぎ酸で酸性にしてpH3~4にしました。Supel™-Select SCX SPE 96ウェルプレート(30 mg/ウェル)を1 mLのアセトニトリル(1%ぎ酸)、次いで1 mLの水でコンディショニングした後、1 mLの尿試料とともにロードしました。プレートを2 mLの水、次いで1 mLの25%メタノールで洗浄しました。アンフェタミンについては、中間洗浄ステップとして1 mLの50%メタノール(5 mMリン酸水素二アンモニウム)を使用しました。被分析物質を1 mLのアセトニトリル(10%水酸化アンモニウム)でプレートから溶出しました。溶出液を窒素下40℃で乾固し、1 mLの移動相で再溶解しました。

L/L法とSPE法の比較を 図6に示します。SPE法を使用するほうが清浄な抽出物が得られたことに注目してください。早期に溶出したマトリックス干渉のほぼすべてがSPE法で除去され、被分析物質の回収率が向上しました。

L/L抽出後、およびSupel-Select SCXを使用したSPE抽出後に行った、Astec CHIROBIOTIC V2による尿からの(+/-)-メタンフェタミンのLC/MS分析

図6.L/L抽出後、およびSupel-Select SCXを使用したSPE抽出後に行った、Astec CHIROBIOTIC V2による尿からの(+/-)-メタンフェタミンのLC/MS分析

L/L抽出条件

125 ng/mLで各エナンチオマーを添加した125μLの添加尿、ジエチルエーテル1 mLを加え、30分間ボルテックスして10,000rpmで10分間遠心分離し、上澄み液の500 μL画分を取り出して窒素下55℃で溶媒を乾固し、移動相500 μL中で再溶解して0.22 μm PVDFフィルターでろ過します。

SPE抽出条件

マトリックス:25 ng/mLで各エナンチオマーを添加した合成尿1 mL、ぎ酸で酸性にしてpH 3~4にします
SPEウェルプレート:Supel-Select SCX SPE 96ウェルプレート、30 mg/ウェル(製品番号575664-U)
コンディショニング:アセトニトリル(1%ぎ酸)1 mL、次いで水1 mL
試料添加:添加尿1mL
洗浄:水2 mL、次いで25%メタノール1 mL(アンフェタミンについては、中間洗浄ステップとして50%メタノール(5 mMリン酸水素二アンモニウム)1 mLを使用)
溶出:アセトニトリル(10%水酸化アンモニウム)1 mL
溶出液後処理:窒素下40℃で溶媒を乾固し、移動相1mL中で再溶解します。

LC/MS条件 以下を除いて図2と同一

移動相:[A]メタノール、[B]水、[C]酢酸、[D]水酸化アンモニウム(95:5:0.1:0.02、A:B:C:D)
圧力: 1257 psi(87 bar)
試料:抽出された添加尿

結論

バンコマイシンキラルセレクターを有するAstec CHIROBIOTIC V2により、メタンフェタミンとアンフェタミンのエナンチオマーを迅速にベースライン分離しました。これらの化合物は同重体ではないため、同一方法を4種類すべてのエネンチオマーのLC/MS分析に適用できます。極性イオンモードでメタノール:水への移動相添加物として酢酸と水酸化アンモニウムを選択したため、アンフェタミンとメタンフェタミンを個々に、または同時に高感度かつ高スループットでキラルスクリーニングするのに最適なLOQと分離能が得られました。Supel-Select SCX SPEを使用した試料前処理により、尿マトリックスに由来する干渉の多くを除去しました。前処理とLC/MS法は堅牢かつ自動化に移行可能な方法を提供します。

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参考文献

  1. Methamphetamine.DrugBank.University of Alberta. http://www.drugbank.ca/drugs/DB01577, Accessed April 15, 2015.
  2. Shooting Up: Infections among people who inject drugs in the UK 2012.An update: November 2013.PHE, https://www.gov.uk/government/organisations/public-health-england, Accessed April 15, 2015.
  3. European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction, http://www.emcdda.europa.eu/publications/drug-profiles, Accessed April 15, 2015.
  4. UN Office on Drugs and Crime (UNDOC) ECSTASY and AMPHETAMINES Global Survey 2003, http://www.unodc.org/pdf/publications/report_ats_2003-09-23_1.pdf, Accessed April 15, 2015.
  5. Paul, B.D.; Jemionek, .J; Lesser.D.; Jacobs, A.; Searles, D.A.Enantiomeric separation and quantitation of (+/-)-amphetamine, (+/-)-methamphetamine, (+/-)-MDA, (+/-)-MDMA, and (+/-)-MDEA in urine specimens by GC-EI-MS after derivatization with (R)-(-)- or (S)-(+)-alpha-methoxy-alpha-(trifluoromethy)phenylacetyl chloride (MTPA).J. Anal.Toxicol., 2004, 28 (6), 449-455.
  6. Chiral LC/MS Analysis of Methamphetamine in Urine on Astec® CHIROBIOTIC® V2.Supelco Reporter, 2013, 31.2, 24-25.
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