マルチカラーフローサイトメトリー:フローサイトメトリーパネル構築のヒントとツール
フローサイトメトリーは、不均一な浮遊細胞集団を、物理特性と蛍光特性に基づいて解析・選別するための強力な手法です。 フローサイトメトリーに適した新しい蛍光色素の開発に伴い、マルチカラーフローサイトメトリーへの関心が大いに高まっています。ここでは、マルチカラーフローサイトメトリーにおける課題、マルチカラーフローサイトメトリーパネル構築の手順、タンデム色素、およびマルチカラーアッセイデザイン用ツールについてご紹介します。
マルチカラーフローサイトメトリーとは?
マルチカラーフローサイトメトリーは急速な進化を遂げている技術で、目的の細胞亜集団を特定し解析するために複数の蛍光マーカーを使用します。 必要なサンプル数とサンプル量が少ないため、フローサイトメトリー実験の効率が向上します。また、サンプル処理能力が高いため、異なる種類の細胞に対する薬物有効性実験や、さまざまなタンパク質間相互作用の解析が可能になります。フローサイトメトリーパネルが少ないほどスピルオーバーや機器補正の複雑さは減りますが、フローサイトメーターが高機能で高性能なほど多くのパラメータを同時に測定することができ、より複雑な問題に答えることができます。
マルチカラーフローサイトメトリーはマルチプレックスフローサイトメトリーとも呼ばれ、より少量のサンプルからマルチパラメトリックデータを抽出できることから、健康および疾患分野における免疫系の研究に不可欠なツールとなっています。しかし、フローサイトメーターにより性能はさまざまであるため、プロセスが複雑になる可能性があります。使用されるフローサイトメーターで実験するために、各マルチカラーパネルにおける蛍光色素分子の組み合わせを系統的に行う必要があります。 また、マルチカラーフローサイトメトリー実験で得られたデータの分析も、慎重に行う必要があります。
マルチカラーフローサイトメトリーにおける課題
フローサイトメトリーのマルチプレックスは、1サンプルにつき1つの一次標識抗体を使用するよりも多くの利点がありますが、マルチカラーフローサイトメトリーには独自の課題があります。
課題には以下のものが挙げられます:
- 蛍光色素の選択やターゲットの考慮など綿密な実験デザインが必要です。
- マルチカラーパネルのデザインにおいては、スペクトルがオーバーラップしない蛍光色素を慎重に組み合わせる必要があります。
- 精度、信頼性および再現性に優れたデータを得るために、補正や「スピルオーバー」調整も必要になります。
マルチカラーフローサイトメトリーパネルの構築方法
信頼性の高いマルチカラーフローサイトメトリーパネルを構築してスペクトルオーバーラップと分解能低下の問題を回避するには、使用するフローサイトメーターから生成されるスピルオーバー拡散マトリックス(spillover spreading matrix:SSM)を用いてパネルをデザインする必要があります。SSMは、スペクトルオーバーラップが大きい蛍光色素が同じ細胞種で発現する複数マーカーに使用されないようにするためや、極めて発現レベルが低いマーカーを検出するために使用されます。また、SSMを使用すると、発現レベルの高いマーカーにはくすんだ色、逆に低いマーカーには明るい色が確実に選択されます。
通常、研究者は対象とするマーカーと予想される抗原密度に関して、自らの経験に頼っています。抗体の親和性を自社のウェブサイトで公開しているメーカーもありますが、購入した新しいロットごとに結合能を試験して確認することが望ましいです。抗体試験が済んだら、マルチプレックスフローサイトメトリーパネル全体を健康な細胞で試験する必要があります。
マルチカラーフローサイトメトリーパネル構築の手順
マルチカラーフローサイトメトリーパネルのデザインと構築は、マルチプレックスフローサイトメトリーアッセイにおいて最も困難なプロセスの一つです。以下のような手順で行います:
- 抗原ターゲットを慎重に選択します。
- 使用する装置の構成(レーザーとフィルターの両方)に関する情報を確認します。
- 選択した蛍光色素のプロファイルは、フローサイトメーターの光学系仕様に合っている必要があります。
- 論文・文献をレビューしたりオンラインのスペクトルビューアーを使用して、スペクトルオーバーラップを調べます。
- 干渉をできるだけ抑えるために、蛍光色素分子がすべてのレーザーとフィルターにわたってできるだけ広範囲に分散するよう最適化します。
- マルチカラーパネルに使用される各蛍光色素に対してストークスシフトを考慮します。
- 発光スペクトルにオーバーラップがない蛍光色素分子の組み合わせが理想的ですが、フローサイトメトリー補正コントロールまたはコントロールビーズを使用すれば、検出された光が正しい蛍光色素分子のものであることを示すことができます。
- 抗原発現量が最も低い抗体には最も明るい蛍光色素を、逆に最も高い抗体には最も暗い蛍光色素を選定します。
- 論文・文献を調査して、目的のターゲットを発現する細胞集団と、各ターゲットの発現レベルを調べます。
- シグナルを発生させるために、特定の細胞株や細胞刺激が必要かどうかを確認します。
- 論文・文献をレビューして、同じマーカーを共発現する細胞亜集団を調べます。
- 適切なコントロールを選択します。
- 無染色細胞をネガティブコントロール集団として使用することができます。
- 各抗体濃度を最適化します。
- バックグラウンドを最小限に、拡散は最大限になるように濃度を決定してください。
- 抗体にされている蛍光色素分子の光安定性を考慮します。
- モノクローナル抗体で複数のクローンを利用できる場合には、どのクローンが最も適切かを判断します。
- フローサイトメトリーパネル全体で細胞を染色し評価します。必要に応じてパネルを変更してください。
- 実験過程における細胞死を評価するために、必ず細胞生存率を調べる色素をパネルに加えてください。
タンデム色素の使用
フローサイトメトリー分析では、タンデム色素がよく用いられます。しかし、高い光感受性や長期保存などにより劣化しやすい傾向があります。これは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の低下につながります。また、アクセプター分子とドナー分子からのシグナルの増加を招くため、追加補正の必要が生じたり、信頼性の低いデータが生成されるおそれがあります。
固定の影響を受けやすいタンデム色素もあります。また、一部の色素は特定の細胞種に非特異的に結合する可能性もあります。例えばPE-Cy5、PerCP-Cy5およびAPC-Cy7色素は単球やマクロファージに結合しますが、これはヒト高親和性FC受容体CD64との結合が一因となっています。
マルチカラーアッセイデザイン用ツール
私たちはマルチカラーアッセイのデザインや拡張性において、従来の標識済み一次抗体よりも高い柔軟性がある、ミックス&マッチのColorWheel®フローサイトメトリー用抗体および色素を幅広く取り揃えています。ColorWheel®抗体および色素は、実験上の制約や、マルチカラーフローサイトメトリーアッセイの構築におけるさまざまな課題を回避できるようにデザインされています。
独自のオリゴベース技術により、ユーザーの希望するColorWheel®抗体をどのColorWheel®色素とも容易に結合させることができます。抗体と色素のペアを簡単に調製できるように、抗体と色素の混合比は1:1(容量比)で最適化されています。簡単3ステップで実質5分間、試薬を調製することにより、各抗原に対する抗体色素ペアからなる最適なマルチカラーパネルを構築できます。
ColorWheel®フローサイトメトリー用抗体および色素によりマルチカラーフローサイトメトリー実験をいかに強化できるかについては、マルチプレックスにおける柔軟性のページをご覧ください。
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