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リチウムイオン電池に用いられる、より安全な高性能電極、固体電解質および界面反応

Yves J. Chabal, Kyeongjae Cho, Christopher L. Hinkle, Roberto C. Longo, K. C. Santosh, Amandeep K. Sra, David E. Arreaga-Salas, Katy Roodenko

Department of Materials Science and Engineering, University of Texas at Dallas, Richardson, Texas 75082 USA

はじめに

現在、リチウムイオン電池の分野では、炭素系化合物の排出削減、エネルギー貯蔵容量の向上を目的とした応用開発に関する研究が精力的に行われています1,2。リチウムイオン電池は、高エネルギー密度で大容量のデバイス実現可能性を有することから、ハイブリッド自動車や電気自動車、または太陽光や風力発電のエネルギー貯蔵への大規模な導入が検討されているきわめて有望なデバイスです3,4。リチウムイオン電池は化学エネルギーを貯蔵し、そのエネルギーを高効率かつ無排気で電力として供給します5。リチウムイオン電池は携帯用電子デバイスに広く使用されていますが、電極材料と電解液の性能がまだ十分ではないために、より大規模な用途への実用化は遅れています1,5,6

また、安全性もリチウムイオン電池技術の大きな懸念の一つであり、「熱暴走」と呼ばれる事例が多く報告されているため、より高い安定性を備えた最先端材料の研究が進められています。層状酸化物(LiMO2)のような典型的な正極材料は、充電反応の最後で無視することのできない不安定性を示し、高温で分解します。市販されているほとんどの電解液はリチウム塩の溶解した有機溶媒ですが、正極からの酸素放出に対して極めて不安定です。これら安全上の問題を解決するために、安全性の向上(短絡しても燃焼しない)と幅広い使用時温度や動作温度における化学的安定性の向上を目的に、新規代替材料に関する研究が活発に行われています7,8

本稿では、次世代正極材料および固体電解質として期待されている材料グループを取り上げます。また、電池性能および安定性向上において、界面反応が大きな障害の1つであり、化学分光法や第一原理計算の必要性について紹介します。

ケイ酸塩を基盤とした正極材料

より安定かつ安全な正極材料の開発には、これまでオリビンリン酸鉄(LiFePO4)を用いた研究が主に行われており、1997年に正極材料として報告された化合物として知られています1。オリビン構造は、毒性がなく、潜在的には安価で、オキシアニオン基(PO4四面体)が安定した骨格構造を形成するために過酷な使用条件下でもきわめて高い安定性を示す、などの理由から注目を集めています2,3。さらに近年では、LiFePO4粒子のナノ構造化および炭素コーティングにより、性能が著しく向上し、商業的に利用可能なレベルに近いレート特性とサイクル特性が実証されています3。しかし、低いエネルギー密度(平衡電位はわずかに約3.4 V)と比較的低いイオン伝導性および電子伝導性から、高いエネルギー密度や電力密度が必要な用途(ハイブリッド自動車など)での使用という点で大きな問題となります1

安全かつ安価な正極材料としてのポリオキシアニオン化合物の潜在的可能性を考慮すると、ケイ酸塩はリン酸塩の代替化合物の一つと考えられます4,5。Si-O結合は、少なくとも他のポリオキシアニオングループと同様に安定であり、中規模から大規模のエネルギー用途に必要な熱安定性をもたらします。さらに、オルトケイ酸塩に属する化合物であるLi2MSiO4(M=Fe、MnまたはNiなどの遷移金属)は、2つの連続的な酸化還元反応でLi2MSiO4あたり2つのLi原子の脱離が可能であり、現在の正極材料のほぼ2倍の容量(330 mAh/g)の実現可能性を秘めています5。しかし、この化学式あたり2つのLi原子の脱離には課題が多いため、まだ実験的に実現されてはいません5。実際、Li2FeSiO4において2つ目の電子の脱離が起こる際の高い電圧、これら中程度のバンドギャップを有する絶縁体のもつ低い電子伝導性、およびリン酸鉄に匹敵する低いイオン伝導性の問題があります5。さらに重要な課題は構造安定性にあり、この四面体構造を有する化合物には形成エネルギーの近い、いくつかの結晶多形が存在するために5、最初の充放電サイクル後に相転移が報告されています。ケイ酸塩の潜在的可能性を十分に引き出すには、これら欠点すべてに対処する必要があります5

層状酸化物およびオリビンリン酸塩の特性向上のために用いられた方法6と同様に、上述した問題のいくつかを解決するために、ケイ酸塩正極材料への異種遷移金属元素の導入が行われています。図1は密度汎関数理論(DFT:density functional theory)を用いた第一原理計算によって得られた理論上の電圧で、幾つかのケイ酸塩および異なる遷移金属組成の結晶構造における、2電子の酸化還元反応の電位を示しています。これらの計算結果から、ケイ酸塩の材料設計で重要ないくつかの特徴が示唆されます。まず、作動電圧依存性について、遷移金属種の違いのほうが結晶多形の違いよりも強い傾向が見られます。次に、第1の酸化還元過程については、異種遷移金属の「ドーピング」濃度が高くなるにつれて(例えば、Fe0.75Mn0.25からFe0.5Mn0.5)電圧が増加し、33%の化学量論比で遷移金属カチオンを3元素含んだ組成(Fe–Mn–Ni)の電圧は、この2元素組成の電圧範囲内の値を示します。さらに、最初のLi脱離の電圧も予測どおり、外殻のd電子数の増加とともに上昇しています4。重要となる第2の酸化還元過程については、第1の反応の傾向とは反対に、遷移金属のドーピング濃度やd電子数の増加につれて電圧は減少しています。電圧の範囲は、第1の反応では3.43 V(Li2Mn0.25Fe0.75SiO4Pmn21)から4.34 V(Li2Ni0.5Fe0.5SiO4Pmn21)、第2の反応では5.3 V(Li2Mn0.25Fe0.75SiO4Pmn21)から4.13 V(Li2Mn0.33Fe0.33Ni0.33SiO4P21/n)です。

様々なケイ酸塩結晶多形構造。ドープしたLi2TMSiO4からのLi脱離に関する酸化還元反応に由来する2つの電圧プラトー(平坦域)の値

図1様々なケイ酸塩結晶多形構造。ドープしたLi2TMSiO4からのLi脱離に関する酸化還元反応に由来する2つの電圧プラトー(平坦域)の値。

計算に用いたすべての多成分ケイ酸塩は負の形成エネルギーをもつことから、室温で熱力学的に安定であることを意味しています。遷移金属カチオンを複数含む固溶体のもつ構造のゆがみが、LiMSiO4中間化合物(半脱リチウム化した化合物)の相対的な安定性を減少させるために第1の反応の作動電圧が上昇し、一方で第2の反応(完全な脱リチウム化反応となる二つ目の電子の酸化還元過程に対応)の電圧は低下します。これら電圧は、従来のリチウムイオン電池にて達成可能な範囲にあります。ドーピングによるMnおよびNi添加により、Li脱離の間に見られるカチオン性静電反発は減少しますが、これは各結晶多形が、純粋な鉄ケイ酸塩の2電子酸化還元過程に対してより安定であることを示唆しています。この安定性により、第1と第2のLi脱離過程の間の電圧ステップが減少するため、これら化合物のレート容量特性が向上します。さらに、Niの含有によりケイ酸塩のバンドギャップが減少し、電子伝導性が増加します。一方、我々の計算では、Feに関連する、局在化した非混成のd–状態の存在が示されており、ポーラロン機構によって電子伝導性をさらに向上できる可能性があります。これらすべての知見は、多成分四面体ケイ酸塩の使用によって、正極材料の性能が改善する可能性があることを示しています。しかしながら、脱リチウム化による相転移の問題は未解決のままです。

複数の実験がすでに実施され、Li2Fe0.5Mn0.5SiO4固溶体が有望と考えられています。より高いMn含有量(Li2Fe0.1Mn0.9SiO4)では、中間組成(半脱リチウム化された)段階の化合物において、Mn3+イオンを有する安定かつ再現性の高い相が生成します7。なお、Li2Fe0.5Mn0.5SiO4では214 mAh g-1の容量が報告されていますが、充放電サイクルによって著しく減少します8。また、異なる化学量論比の材料(Li2Fe0.8Mn0.2SiO4)で良好な可逆性が示されましたが、単にFe3+への酸化によるものであり、4価のFeまたはMnによるものではありませんでした。つまり、1電子以上の交換が行われていないことを示唆しています5

無機固体電解質

全固体リチウムイオン電池(ペースメーカーのような医療デバイスの電池を含む)向け固体電解質の商業利用に関心が寄せられているのは、現在の液体有機電解質に比べて電気的、化学的および機械的安定性が高いためです。固体電解質は、衝撃や振動に強いために安全性および信頼性の面でより適しており、自己放電や熱暴走が見られず、より確実な充放電が可能で、従来の液体電解質に比べて小型化することができます9,10。30年ほど前から固体電解質材料は研究され、電解質候補となる多くの材料が開発されています(図211‑14。例えば、リチウムランタンチタン酸塩(LLTO)、ガーネット型ジルコン酸塩(LLZO)、Li2S–P2S5系ガラスおよびリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)8-13は、薄膜電池の固体電解質として商業的に用いられています8-11。しかし、現在利用可能な固体電解質はイオン伝導性が非常に低いため、実用化がかなり制限されています。LiPONのイオン伝導性は10-6 S cm-1、LLTOおよびリチウムチオリン酸塩は約10-3 S cm-1で、有機液体電解質(10-2 S cm-1)と比べて非常に低い値です。正極材料の場合と同様に、固体電解質に多価イオンを用いると電荷移動度を高めることが容易になります。しかし、結晶格子とこれら多価イオンとの強い静電相互作用によってイオン移動のエネルギー障壁が高まるため、イオン伝導性は減少します。加えて、イオンの移動度とイオン半径には強い相関があるため、固体電解質の設計には、格子内の移動可能な経路の大きさに見合ったイオン種のサイズを検討することが必要です。

各種固体電解質の結晶構造

図2各種固体電解質の結晶構造。A)ガーネット型立方晶Li7La3Zr2O12超格子。青、紫、緑および赤い球は、それぞれLi、Zr、LaおよびO原子を表しています。B)γ-Li3PO4超格子。Li原子は緑の球、PO4グループは紫の四面体(赤い球は酸素)で示しました。C)リチウムランタンチタン酸塩(LLTO、Li0.25La0.583Ti0.167O3)。青、緑、水色および赤い球は、それぞれLi、La、TiおよびO原子を表しています。参考文献14から引用。

固体電解質において、イオン輸送は原子の無秩序性(空孔や格子間イオンなど)から生じます。第一原理計算を用いたLiPON固体電解質およびその電極界面に関する我々の研究からは、Li欠陥伝導は格子間Liを由来とし、電極の合金化により調整可能なフェルミ準位の位置に依存することが示されています14。すなわち、フェルミ準位を変えることにより、欠陥形成エネルギーを制御することができます。例えば、Efが価電子帯の頂上(最大値)から約3 eV以内にある場合、その低い形成エネルギーによりLi+格子間欠陥が容易に生じます(図3)。

バルクLi3PO4のバンドギャップに対する、フェルミ準位とLi+欠陥形成エネルギーとの関係

図3バルクLi3PO4のバンドギャップに対する、フェルミ準位とLi+欠陥形成エネルギーとの関係

反対に、LLTOにおけるイオン移動はLi空孔を由来とし、Liイオンの部分的占有がこれら化合物群における高いイオン伝導性に寄与します。ペロブスカイト(ABO3)構造(A=Li、Laまたは空孔B=Ti)を有するLLTOは、室温でより高いリチウムイオン伝導性(約10-3 S cm-1)を有するため、広く研究されています12。高いイオン伝導性は、Li欠陥形成エネルギーおよび隣接したAサイト空孔へのホッピングの際のLi移動障壁が共に低い点と関係しています。同様の伝導メカニズムが、ガーネット型固体電解質において予測されています。LLTOのもう一つの利点は、正極材料の保護コーティングとしても使用でき、充放電サイクル後の安定性が向上する点です。また、コンポジット電極におけるLi+拡散のインピーダンス低下にも有用です15。しかし、LLTO固体電解質はLi金属と接した場合に不安定であることが明らかとなっており、一方のガーネット型固体電解質は、Li金属に対する電気化学的な安定性が確認されています。

電極/電解液界面の分光学的分析19

ケイ酸塩正極、固体電解質およびSi負極といった新規材料の実用化に伴う、これら新しい構成材料すべてに共通する重要な問題は、界面の適合性および安定性です16。実際、電解液と活物質の間、もしくはその他材料との間の界面反応は、安全性および性能に極めて大きな影響を及ぼすため、詳細な研究が求められています。ここでは、水素化アモルファスSi負極表面の固体電解質界面(SEI:solid-electrolyte interphase)の形成を伴う、電極/電解液界面で起きる化学反応および形態変化を理解するために、分光学的分析がどのように役立つのかを説明します(電解液には、1 M LiPF6 エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート[EC/DEC]1:1混合溶液を使用しました)。

SEIは、電解液の分解を通して電極表面に不溶性の固体被膜として形成され、リチウムイオン電池の発電サイクルおよびサイクル寿命に関わる重要な要素です。再現性の高いリチウム化反応を維持するには、SEIの形成について十分に理解し、電極の不活性化、安定性およびインピーダンスを制御する必要があります。そのため、SEI膜に含まれる化学種の組成および形成メカニズムを特定することが重要となります。

いくつかの研究グループが、FTIR、ラマンおよびXPSなどの表面分析技術を用い、シリコン負極表面におけるSEI形成について報告しています17-20。これら研究に用いた負極は、他の電極構成材料(バインダーや導電剤)がSEI形成に及ぼす影響を排除するように設計されています。また、いくつかのグループは、未ドープ結晶シリコン(001)ウエハ、Siナノ粒子の電気泳動堆積、および水素化アモルファスSi(a-Si:H)負極などの、バインダーを含まない電極の作製について報告しています19,20。特にa-Si:H負極を使用する利点は、Liとの最初の反応でアモルファス化が進行する間、結晶Siの場合生じるストレスを受けない点にあります。測定対象のSEI層は、サイクリックボルタンメトリー(C-V)測定中に、Si電極表面に形成されます。サイクリックボルタンメトリーでは、リチウム化/脱リチウム化の速度論的知見のみならず(図4A)、電解液および電極の電気化学的安定性や、副反応に関する有用な情報が得られます。開放電圧(OCP:open-circuit potential)から0.0 Vへと掃引した際、最初のリチウム化反応を示す特徴的なピークが1.3~1.5 V付近で観察され(図4A)、このピークは以降のサイクルでは見られません。これは、電極表面におけるSEI形成の開始に相当します。

最初のリチウム化反応の後の、XPS表面分析によるSi 2p領域の結果(図4B)から、Si-Si結合の切断と、LiおよびFのa-Si:Hマトリックス内への侵入が始まっていることがわかります。最初の脱リチウム化によって、Si-LiおよびSi-Fのピーク強度は顕著に減少しますが、これは負極からのLi脱離と整合しています。2回目のリチウム化でSi-Liピークは広がり、その強度は著しく増加していることから、最初のリチウム化と比較して電極におけるLiの取り込みがより進んでいることを示しています。このように、XPS分析とサイクリックボルタンメトリー測定とを組み合わせることにより、主に最初のリチウム化サイクルで、電極自体に取り込まれる少量のLiによりSEI層が形成される一方、2回目のリチウム化反応ではa-Si:H負極への顕著なLi挿入が起きることが示されました。ラマンデータ(図4C)は、最初のサイクルの間はa-Si:Hネットワークがほぼが維持され、以降のサイクルで、Si-Si結合の切断が大きく発生していることを示唆しています。

シリコン負極表面におけるSEI形成

図4A)最初のリチウム化と脱リチウム化、および2回目のリチウム化サイクルのサイクリックボルタンメトリー曲線。B)1回目および2回目のC-Vサイクルのリチウム化-脱リチウム化反応における電極のSi 2p XPSスペクトル。C)未処理および各サイクル後の負極のラマンデータ。2回目のリチウム化サイクルで、高濃度のLiおよびF挿入による、a-Si:Hに典型的な近距離の結合切断が見られます。D)FTIRデータからは、Li-F、P-Fおよび溶媒分解物が見られます(J:OCP to 0.0 V, H:0.4 V,E:1.0 V, D:1.2 V)。参考文献19から引用。Copyright 2013 American Chemical Society。

最初のリチウム化サイクルにおけるSEI層の形成は、サイクリックボルタンメトリー測定を応用することで追跡することができます。最初のリチウム化反応において、OCPから電位を0.2 Vの間隔で増やしていき、各掃引ごとに負極をセルから引き抜き、表面分析を行いました。99.3 eVの結合エネルギーにおけるSi 2pピークの強度は、電解液分解およびSEI被膜形成に起因する減衰により減少します。完全なリチウム化でLiおよびFのSiマトリクスへの挿入が起こり、Si 2pピークは大きく広がります。

さらに、電解液分解による界面での化学反応についてのデータが、FおよびLiの1s 内殻準位のXPSスペクトルによって得られています(図5A5B)。1.8 Vのバイアスを印加したサンプルで見られる、687.8 eVの大きなピークは、電解液中のLiPF6の存在によるものであり、685.6 eVの比較的小さいピークは、LiPF6の主な分解生成物として知られるLiFの生成によるものです。よりリチウム化が進むにつれて、LiPF6ピーク強度の減少とそれに伴うLiFピーク強度の増加が見られました(図5C)。

シリコン負極表面におけるSEI形成

図5A)F 1s XPSスペクトル。バイアスの印加によって、LiPF6(687.8 eV)からLiF(685.6 eV)への分解が見られ、サンプルH(OCPから0.4 V)のスロープの変化は、F-Si-Linネットワークの形成を示しています。B)Li 1s XPSスペクトルおよびC)P 2p XPSスペクトル。いずれからもLiPF6からLiFへ分解が進んでいることがわかります。参考文献19から引用。Copyright 2013 American Chemical Society。

表面分析データを総合すると、SEI層の化学的形成のメカニズムは以下のようになります。最初の充電サイクルの1.8 Vにおいて、電解質LiPF6および溶媒が電極表面上で分解し始めます。1.8~0.6 Vの間では、電解質および溶媒の分解は、電極表面上でのSEI被膜の形成に寄与します。最初のリチウム化で形成されるSEI層は、LiFを主要な化学種とし、その他に低濃度の電解質LiPF6、電解質分解物のLixPFyおよびPFyを含んでいます。最初のリチウム化反応の後期まで、SiはLiおよびFイオンと相互作用を起こしません。0.4 V未満のバイアスの印加で、SEI層を通過したLiおよびFの拡散によりa-Si:H負極のリチウム化が開始し、Si-Li、Si-F、およびF-Si-Linネットワークが形成されます。電解液副生成物とSiが反応し始めると、(高容量につながるLi-Siばかりでなく)同時にFとLiが反応します。これらXPSの結果は、最初のリチウム化反応において主にLi-FおよびP-F結合を含む化合物の存在を示すIRスペクトル(図4D)により裏づけられます。また、高酸化状態のSiの存在を示すXPSデータによれば、Si-F結合に関連したスペクトル領域にも吸収が見られます。

2回目のリチウム化サイクルの間、LiによりSi-Si結合の大きな切断が起こり、高濃度のLixSiが形成されます。加えて、2回目のリチウム化サイクルの後、IRスペクトル(図4D)には、ROCO2LiやLi2CO3、R‑CO2‑Mn+(R=アルキル基、M=Si/Li)などのカルボン酸塩に由来する1,350~1,600 cm-1における吸収が見られます。これらの化学種は、炭酸塩系溶媒の典型的な分解生成物に相当します。IR分析からは、SEI層は、アルキル基を有する有機化合物を中心に、カルボン酸金属塩、Li-FやP-F含有化合物などの無機化合物から構成されることが示唆されます。

これらの研究は、界面化学の複雑さと、電極開発のあらゆる面で研究を進めていくためには分光学的な特性評価が必要であることを示しています。この特性評価を第一原理計算や綿密な材料合成と結びつけることで、新規で安全性の高い、高性能電極/電解液の設計・開発、ならびにこれら新材料間の反応制御が可能となります。

謝辞

本稿は、著者らの成果をもとに執筆されました。米国エネルギー省の基礎エネルギー科学局 Division of Materials Sciences and Engineeringの助成金(DE-SC001951 for KR)およびエネルギー効率・再生可能エネルギー局の助成金(DE-EE0004186 for CH)からの支援に感謝いたします。またDEAは、メキシコ国家科学技術審議会(CONACYT:the Mexican Council of Science and Technology)のGraduate scholarship program for studies abroadによる支援に感謝いたします。DFT計算は、テキサス先端計算センター(TACC:Texas Advanced Computing Center)で行われました。

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