はじめに
マルコフニコフ型アルケンの反応性についてはすでに研究が進んでおり、商用および研究用化学品の合成に幅広く使用されていますが、触媒を使用したアンチマルコフニコフ選択的付加化合物の合成に関する研究はまだまだ不十分です。Sigma-Aldrichは、David Nicewicz教授の協力のもと、光励起可能なアクリジニウム型触媒群を提供しています。これらのアクリジニウム型触媒を用いることにより、完璧なアンチマルコフニコフ選択性を有するさまざまなオレフィンヒドロ官能基化が可能となります。
カチオン性有機酸化剤である過塩素酸9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(747610)を最初にデザインしたのは福住俊一教授らのグループです1。この化合物が登場して以来、Nicewicz教授のグループはこの化合物と、関連する光レドックス触媒の幅広い有用性を明らかにしてきました(794171, 793876, 793221)。この有用性が発揮されるのは、主としてチオールを含有する水素移動共触媒とともに使用した場合です2。このユニークな光レドックス触媒反応は、反応の過程で生成するアルケンカチオンラジカル中間体を介して、非常に広範囲な活性化された、または非活性化されたアルケンと多様な求核化合物(カルボン酸、アミン、鉱酸、およびプロパギルとアリルアルコール)とのヒドロ官能基化反応を進行させます2–3。
図1.Propargylic-and-allylic-alcohols
利点
- 金属元素不使用、可視光による触媒活性化
- 空気や湿気に安定
- 温和な反応条件
- アンチ マルコフニコフ型の選択性
- RuおよびIrポリピリジル光酸化剤よりも優れた酸化能力
- LED照射による直接的な光励起が可能
代表的応用例
ヒドロエーテル化
過塩素酸9-メシチル-10-メチルアクリジニウムと2-フェニルマロノニトリルを水素原子供与体として用いた、アルケノールの直接分子内アンチマルコフニコフ水添化反応では、10種以上の反応例で、完全な位置選択性が得られました。4。
ヒドロアミノ化
触媒としてテトラフルオロホウ酸9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(794171)を使用すれば、アルケンのヒドロアミノ化が可能です。さらに、チオール含有共触媒存在下で反応させると完璧なアンチ マルコフニコフ選択性が得られます。チオフェノールとともに不飽和アミンの分子内ヒドロアミノ化を行うと、何種類かの含窒素ヘテロ環状化合物が得られます5。さらに、ジフェニルジスルフィドとともに反応させることによって、脂肪族アルケンやα-またはβ-置換スチレンとヘテロ環アミンとの分子間ヒドロアミノ化が可能です6。
図2.Diphenyl-disulfide
図3.Hydrotrifluoromethylation-of-styrenes
ヒドロアセトキシル化
スチレン、エナミド、三置換脂肪族アミンを広範囲のカルボン酸と反応させてアンチ マルコフニコフ型選択的ヒドロアセトキシル化を行う場合は、テトラフルオロホウ酸9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(794171)をベンゼンスルフィン酸ナトリウムまたはチオフェノールと組み合わせて使用します。17の反応事例を検証した結果、得られた収率の範囲は29~99%でした8。
図4.Sodium-benzene-sulfinate
鉱酸の付加
アンチ マルコフニコフ型付加を適用して強いブレンステッド酸をアルケンに付加させる場合、これらの光触媒を使用することによって完全な位置選択性が得られます。ヒドロ塩素化を行う場合、テトラフルオロホウ酸 9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(794171)をチオフェノールとともに使用すると付加物が得られます。ヒドロフッ素化、ヒドロキシホスホリル化、およびヒドロキシスルホニル化の場合は、テトラフルオロホウ酸 9-メシチル-2,7-ジメチル-10-フェニルアクリジニウム(793876)とともに水素原子ドナーである4-ニトロフェニルスルフィドまたは4-メトキシチオフェノールを使用するのが好適です。これらの反応では、求核剤の対イオンとして2,6-ルチジニウムを添加することによって最良の反応性が得られました9。
図5.Nucleophilic-couterion
アミドの分子内ヒドロ官能基化
不飽和アリルアミドとチオアミドのアンチマルコフニコフ型分子内環化反応を実施すると、それぞれ2-オキサゾリンと2-チアゾリンが得られます。これらの変換では、テトラフルオロホウ酸 9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(794171)をジフェニルジスルフィドと組み合わせた光レドックス触媒が使用されています。17件の実施例を検証した結果、観測された収率の範囲は59~82%でした10。
図6.Combination-with-diphenyl-disulfide
ヒドロ脱炭酸
カルボン酸とマロン酸のアンチマルコフニコフ型ヒドロ脱炭酸反応では9-メシチル-10-メチルアクリジニウムテトラフルオロボラン(793221)とジフェニルジスルフィドが使用されます。この脱炭酸反応では収率の向上と反応範囲の拡大のために、反応系に塩基と極性アルコール溶媒、トリフルオロエタノールを追加します。一級、二級、および三級カルボン酸のヒドロ脱炭酸反応を実証するため、18の反応事例を実施しています11。
図7.Tertiary-carboxylic-acids
極性ラジカル交差付加環化
各種光レドックス触媒を用いて、付加反応と環化反応を連続的に行うことで、アルケンから以下の各種環状化合物が得られます:g-ブチロラクトン(α,β-不飽和カルボン酸との反応)12、テトラヒドロフラン(アリルアルコールとの反応)13、g-ラクタム(不飽和アミドとの反応)、およびピロリジン(不飽和アミンとの反応)14。
図8.Unsaturated-amines
光酸化反応
Nicewicz教授らの報告に先立ち、GriesbeckとChoはO2存在下で、過塩素酸9-メシチル-10-メチルアクリジニウムを可視光感応触媒としてII型反応および電子移動光酸化反応へ適用する研究を行っていました15。
図9.Photooxygenation-reactions
参考文献
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