GABAB受容体が認知されたのは20年以上も前ですが、そのずっと以前にGABAB受容体に対する選択的アゴニストp-β-クロロフェニル-GABA(バクロフェン)が抗痙縮薬としてすでに市販されていました。しかし、その作用部位についてはほとんどわかっていませんでした。バクロフェンが作用する受容体はGi/Goタンパク質を介してニューロン内のカルシウムチャネルやカリウムチャネルさらにはアデニルシクラーゼと共役しているため、代謝型受容体に分類されています。さまざまな脳領域のシナプスでGABAB受容体が活性化されると遅い抑制性シナプス後膜電位(IPSP)が発生するのに対し、GABAA受容体が活性化されると速いIPSPが発生します。GABAB受容体はシナプス後膜だけではなくシナプス前終末にも存在します。シナプス前終末のGABAB受容体の活性化によって、各種神経伝達物質の放出が調節されています。この事象は脊髄で認められています。脊髄の一次求心性神経末でのGABAB受容体活性化は侵害性入力の調節に、単シナプス末でのGABAB受容体活性化による運動ニューロンへの入力は筋弛緩に重要と考えられています。
GABAB受容体の構造が初めて示されたのは1997年で、Bettlerらが7回膜貫通型の高分子(130 kDa)受容体タンパク質GABAB1を同定したときです。その同定には、高親和性放射性ヨウ素標識受容体リガンド[125I]-CGP64213の開発に依拠する発現クローニング技術が用いられました。他の7回膜貫通型受容体と配列相同性はありませんでしたが、代謝型グルタミン酸受容体とは20%の類似性が認められました。最初の発見から1年後、GABAB1はGABAB2と呼ぶ第2の受容体タンパク質の助けがなくては細胞表面で発現しないことがわかりました。GABAB2は小胞体レベルでGABAB1と共役し、細胞表面でのGABAB1発現を促すと考えられています。GABAB2も7回膜貫通型ドメインがあり、細胞内C末端でGABAB1とリンクしています。この2つのタンパク質の組み合わせが、GABA受容体機能の完全な発現に欠かせないヘテロダイマーを形成します。しかし、GABAの結合とGABAB2との関連性は見出されていません。ただし、GABAB2はGABAB1にとって単なる「運び屋」以上のもののようです。GABAB1にはさまざまなアイソフォームが報告されており、ヒトGABAB1タンパク質には少なくとも4つのアイソフォームがあります。しかし、こうしたアイソフォームの組み合わせの違いによって薬理学的特性が変わるかどうかはわかっていません。生来のGABAB受容体のサブタイプの存在についての確定的な証拠はまだ示されていませんが、神経薬理学・神経化学的分析に基づいた分類の裏付けデータはあります。GABAB受容体と関係がない多くのタンパク質、たとえばCREB2はGABAB1タンパク質およびGABAB2タンパク質のそれぞれに高い親和性を示しますが、受容体機能を発現させることができません。
プロトタイプのアゴニストであるバクロフェンの選択的作用が報告されて以降、GABAB受容体のアゴニストおよびアンタゴニストが多々開発されてきました。たとえば、Froestlらが合成した血液脳関門を通過する高親和性アンタゴニストおよび低親和性アンタゴニスト(nM~µM親和性)が目を引きます。しかし、GABAB受容体アンタゴニストがてんかん欠神発作を抑制し、認知機能障害を改善、さらに神経保護薬として作用する可能性が基礎研究によって示唆されているにも関わらず、こうした化合物の治療薬としての可能性はまだ十分実現されていません。SGS742(旧称CGP36742)の軽度認知機能障害に関する臨床試験が現在進められています。アゴニストであるバクロフェンは抗けいれん薬として臨床的有効性を持つことが実証されており、三叉神経痛などの特定タイプの疼痛に対し鎮痛作用を持つ可能性もあります。
Urwylerらは、GABAB受容体が2種の化合物CGP7930およびGS39783によって正のアロステリック調節を受け得ることを実証しました。どちらも受容体アゴニストではありませんが、GABAB2の7回膜貫通領域で作用し、受容体アゴニストであるGABAおよびバクロフェンの作用を強めると考えられています。
下の表に一般的なモジュレーターなど、詳細を紹介します。その他の製品一覧につきましては、後述の「関連製品」の項をご参照ください。
略語
CGP7930:2,6-ジ-tert-ブチル-4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピル)-フェノール
CGP13501:3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシ)フェニル-2,2-ジメチルプロパナール
CGP35348:3-アミノプロピル-ジエトキシメチル-ホスフィン酸
CGP36742:3-アミノプロピル-n-ブチル-ホスフィン酸
CGP52432:[3-[[(3,4-ジクロロフェニル)メチル]アミノ]プロピル](ジエトキシメチル)ホスフィン酸
CGP54626:(3-N[[1-(S)-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]アミノ-2-(S)-ヒドロキシプロピル)-シクロヘキシルメチルホスフィン酸
CGP55845:(3-N[[1-(S)-(3,4-ジクロロフェニル)エチル]アミノ-2-(S)-ヒドロキシプロピル)-ベンジル-ホスフィン酸
CGP62349:3-{1-(R)-[2-(S)-ヒドロキシ-3-[ヒドロキシ-(4-メトキシ-ベンジル)-ホスフィノイル]-プロピルアミノ]-エチル}-安息香酸
CGP64213:3-{1-(R)-[2-(S)-ヒドロキシ-3-[ヒドロキシ-(5-[3-(4-ヒドロキシ-3-ヨード-フェニル)-プロピオニルアミノ]-ペンチル-ホスフィノイル)-プロピルアミノ] ]-エチル}-安息香酸
CGP71872:3-{[1-(R)-(3-[[5-(4-アジド-2-ヒドロキシ-5-ヨード-ベンゾイルアミノ)-ペンチル]-ヒドロキシ-ホスフィノイル]-2-(S)-ヒドロキシ-プロピルアミノ) )-エチル}-安息香酸
SCH-50911:(+)-(S)-5,5-ジメチルモルホリニル-2-酢酸
参考文献
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