エンドトキシンとは?
エンドトキシンは細菌由来の疎水性リポ多糖(LPS)低分子で、実験器具を容易に汚染しうるため、その存在はin vitroおよびin vivo実験に大きく影響する恐れがあります。エンドトキシン0.01単位(EU)/mLまで検出可能なリムルスアメボサイトライセート(LALアッセイ)でエンドトキシンの存在を検出します。エンドトキシンの大きさは約10 kDaですが、最大1,000 kDaの大きな凝集塊を形成する傾向があります。細胞が死んだり、活発に増殖・分裂したりするとき、細菌は大量のエンドトキシンを放出します。大腸菌1個に約200万のLPS分子が含まれています。エンドトキシンは高温での安定性が高く、通常の滅菌条件で破壊することができません。エンドトキシンは両親媒性分子で溶液中では正味負電荷を帯びています。疎水性であるため、実験で使用するプラスチック製品などの他の疎水性材料に強い親和性を示す可能性が高いです。このため、実験用ビーカー、スターラー、その他の実験器具からの持ち越し汚染が頻発しています。
図1.細菌エンドトキシンの構造・物理特性。エンドトキシンはグラム陰性細菌の細胞外膜に存在するリポ多糖(LPS)の複合体です。エンドトキシンはコアの多糖鎖であるO多糖側鎖(O抗原)および毒性作用を担う脂質成分のリピッドAで構成されます。
エンドトキシンとエキソトキシンの違いは何か?
両方とも培養細胞にとって有害です。エキソトキシンは毒性物質で、通常はタンパク質であり、細菌が分泌し細胞外に放出されます。一方、エンドトキシンは、細菌の細胞壁内にある脂質からなる細菌毒素です。エキソトキシンは通常、熱で破壊されますが、エンドトキシンは高温で破壊することができません。エキソトキシンは抗原性が高く、免疫反応を起こしますが、エンドトキシンは免疫反応を起こしません。
エンドトキシンの試験方法
Limulus amebocyte lysate assay(LALアッセイ)がエンドトキシンの試験に汎用されています。LAL(カブトガニ由来)は、細菌エンドトキシンのグラム陰性細菌の細胞膜成分であるリポ多糖(LPS)と反応します。この反応でゲル状の塊を形成し、定量することが可能です。エンドトキシンは溶液1 mL当たりのエンドトキシン単位(EU/mL)で測定します。1 EUは溶液1 mL当たり約0.1~0.2 ngのエンドトキシンに相当します。現在、3種類のLAL定量法があり、感度が異なります。LALゲル法は0.03 EU/mLまで検出可能で、LAL比濁法および比色法は0.01 EU/mLまで検出可能です。
図2.LALアッセイの原理。Limulus amebocyte lysate assay(LAL)アッセイによるエンドトキシン検出カスケードは、エンドトキシンLPSがC因子に反応することに始まり、これがB因子を活性化します。B因子が凝固酵素前駆体を凝固酵素に変換します。この酵素はコアギュローゲン内の2つのペプチドを繋ぎ、不溶性のゲルを形成します。カブトガニのアメボサイトライセートでゲル化を起こす他の成分は、細菌エンドトキシン試験に干渉する恐れがあります。このような化合物として(1,3)-β-D-グルカンがあり、LAL試験で偽陽性の結果に繋がります。
実験室でのエンドトキシン混入の主な発生源
細胞培養実験でのエンドトキシンレベルを大幅に下げるには、すべての実験器具と培地原材料を清潔に保ち、手技を正しく行うことが不可欠です。また細菌導入前に、あらゆるエンドトキシン混入の可能性を排除できるステリカップ®フィルターユニットなどのろ過装置を使用し、すべての培地をろ過滅菌することをお勧めします。
- 水:どの実験室でも高精製水が欠かせません。Milli-Q®Integralは水道水から直接、エンドトキシンフリーの高精製水を実験室に供給する純水製造装置です。本装置は最大300 L/日の純水・超純水を製造する能力があり、大半の実験室のニーズに応えます。さらに、細胞培養のあらゆる用途に使用できる、使い切りボトル入りエンドトキシンフリー水も販売しています。
- 血清:生体動物由来であるウシ胎児血清は古くから、エンドトキシンの主たる混入源でした。しかし、スクリーニングが向上し、そのリスクは大幅に低下しています。メルクの血清は全ロットでエンドトキシン濃度の検査を行っており、高品質を保証します。
- 細胞培養試薬:大腸菌由来遺伝子組換え成長因子、ホルモン、脂質、基本培地、およびトリプシンなどの分解試薬といった汎用試薬はすべて、エンドトキシンの混入源になり得ます。メルクの細胞培養試薬はすべて、エンドトキシン濃度の検査を行っています。
- プラスチック・ガラス器具:ガラス器具、プラスチック試験管およびその付属品は発熱性物質フリーにしてください。再使用品は、発熱性物質フリーまたは低エンドトキシン水で洗浄してください。プラスチックボトルはγ線照射により滅菌してください。
- ユーザーによる混入:人間の皮膚、毛髪、唾液の表面には細菌が存在しています。よって、培養細胞を扱うときはシステムへのエンドトキシンの持ち込みリスクを最小化するために無菌操作を正しく行ってください。
エンドトキシンが培養細胞に与える影響
エンドトキシンはin vitroおよびin vivoともに細胞の増殖および機能に影響し、重大な変異源です。In vitroでは、エンドトキシンが細胞培養研究にさまざまな問題をもたらすというエビデンスが次々と出てきています。たとえば、極めて低濃度(1 ng/mL未満)のエンドトキシンにより、培養白血球が刺激され組織因子を産生したり、ウママクロファージにおいてIL-6産生が誘発されたり、げっ歯類赤血球コロニー形成が抑制されたり、といった影響が報告されています。In vivo動物試験では、エンドトキシンが免疫反応を起こしています。注射用製剤(ワクチン、注射薬)へのエンドトキシンの混入により、発熱や悪寒から不可逆的・致死的な敗血症ショックまで、さまざまな発熱反応を起こす恐れがあります。
細胞培養中のエンドトキシンの許容限度
エンドトキシン汚染に関連して起こる重篤なリスクのため、米国食品医薬品局(FDA)は、研究者が知っておくべき医療機器および非経口薬のエンドトキシン濃度に制限を設けています。現行のFDA上限値は、当該機器が脳脊髄液と接触しない医療機器の抽出液の場合で0.5 EU/mL未満、接触する場合で0.06 EU/mL未満が求められています。
エンドトキシン混入の予防法
信頼できる試薬供給業者からエンドトキシン試験済みの試薬、添加物、および培地を購入し、使用することが基本です。また、ユーザーが無菌操作を正しく行い、細胞培養に用いるプラスチック器具、ピペット、コニカルチューブのすべてを培養前にきちんと洗浄し、滅菌することも重要です。
混入が起きた培養細胞からエンドトキシンを除去する方法
培養細胞にエンドトキシンが混入した場合、試薬および細胞をすべて廃棄し、新しい試薬と細胞でやり直すことをお勧めします。ただし、試料を廃棄できない場合、試薬を使ったエンドトキシンの除去も可能です。エンドトキシン除去溶液は、Triton X-114のミセル特性によって試料中のLPSエンドトキシンを除去します。
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