固体高分子形燃料電池(PEFC)用材料
はじめに
燃料電池は、水素(あるいは水素を多く含む燃料源)と酸素との反応によって電気エネルギーを発生させる代替エネルギー技術です。従来の燃焼エンジンと比較してエネルギー効率が高く、発生する廃棄物が少ない(熱と水のみ)ため、活発に研究が行われており、性能およびコストパフォーマンスを向上させるような新規材料の開発が急務となっています。
その種類には、固体高分子形(PEFC:polymer electrolyte fuel cell)、直接メタノール形(DMFC:direct methanol fuel cell)、固体酸化物形(SOFC:solid oxide fuel cell)、リン酸形(PAFC:phosphoric acid fuel cell)などがあります。
燃料電池の構造
多くの場合、燃料電池デバイスは複数の燃料電池セルをスタック化し電気的に直列に接続することで、出力電圧を増加させます(図1)。個々の発電セルは、3つの主要部材である2つの電極(アノードおよびカソード)と導電性電解質から構成されています。PEFCの場合、電極はいずれも多孔質で高表面積の材料から構成され、通常は白金や白金合金の電極触媒が含浸されています。電解質材料はイオン伝導体として働く高分子膜(Nafion、Aquivion、炭化水素系高分子電解質膜)が用いられます1。
燃料電池では、主に2つの化学反応によって電気が発生します(図2)。純粋なH2で動作する燃料電池の場合、水素ガスはアノードでプロトン(H+)と電子(e-)に分解された後、プロトンは電解質膜内を伝導し、電子は外部回路を流れます(=電流の発生)。荷電イオン(H+とe-)はカソードで酸素と結合し、水と熱が生成します2。
図1複数の燃料電池セルから構成されるスタックの模式図
図2PEM(proton exchange membrane)燃料電池における主な部材と電気化学反応の図
燃料電池向け触媒
白金は水素の酸化に高い活性を示し、電極触媒材料として長年用いられています。燃料電池研究における主要なテーマの1つは、セル性能を低下させることなく白金の使用量を低減することで、デバイスのコストパフォーマンスを改善することです3。現在は、導電性カーボン上に白金系ナノ粒子を担持させた触媒(例:738581、738549、738557)の利用が検討されています。これら材料には、高分散ナノ粒子で表面積が大きく(図3)、白金担持量が多い場合でも高温での粒子成長が少ないという利点があります。
Pt含有合金は、メタノールや改質ガス(CO2、CO、N2)のような特別な燃料源で動作するデバイスに有用であり、たとえばPt/Ru合金(738573)の場合、メタノール酸化や一酸化炭素被毒に関して純粋なPt電極触媒よりも高い性能を示します4。また、特にPEFCカソード用として注目されているPt3Co触媒(738565)では、高い安定性とともに酸素の還元反応に対する高い性能が報告されています5。
図3Pt/C触媒(左)およびPt3Co/C触媒(右)の代表的なTEM画像。高表面積カーボン担体上にナノ粒子が高分散していることがわかります。
燃料電池用固体高分子電解質
燃料電池用電解質として要求される物性4,6には、高いプロトン導電性や優れた化学的および熱的安定性、低いガス透過性などが挙げられます。代表的な材料は、スルホン酸基で官能基化されたフッ素化高分子です。「Nafion™」は発売から50年以上にわたり、燃料電池のみならず、イオン交換や電気分解、触媒などの様々な分野にて使用されてきたロングセラー製品です。また、非常に短い側鎖を持つ「アクイヴィオン® PFSA」は、1. 高い軟化点(高温での動作が可能)、2. 高い水分保持力、3. 耐酸化性・耐熱性が高い、4. 低い相対湿度でも高いプロトン導電性を示す、5. 高い膜耐久性、などの優れた特長を備えています。
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