はじめに
ミセル触媒は、有機合成において最も有用な変換反応の多くを水中で可能とし、有機溶媒の廃棄を大きく削減します。この技術は両親媒性物質の凝集によるナノミセルの形成によって可能となり、有機物を取り囲み、変換反応に適した環境を提供します。Lipshutz(Professor Product Portal USサイト)らは、このコンセプトがpolyoxyethanyl-α-tocopheryl sebacate (PTS、698717)やDL-α-tocopherol methoxypolyethylene glycol succinate(TPGS-750-M、763896)などの既存の両親媒性物質で効果が高いことをすでに報告しています。これらの界面活性剤は、室温・水中での有機合成反応においてともに高い効果を示しますが、コスト効率のより高い両親媒性物質の開発が望まれています。最近、Lipshutzらはβ-sitosterol methoxyethyleneglycol succinate(SPGS-550-M、776033)もしくは「Nok」として知られる新規両親媒性物質を報告しました1。この第三世代界面活性剤Nokは、Sigma-Aldrichから発売されているDesigner Surfactant製品の中で最も新しく、最もコスト効率の高い製品です。
利点
低コストに加えてNokは初期の2つの世代(PTS、TPGS)と同等以上の転換率と単離収率を示します。 より重要な点は、Nokを用いた水中でのいくつかの変換反応における、環境へ与える影響について改善の可能性を見出したことです。Lipshutzらは、省資源性の尺度として一般的に用いられているE-Factor(kg (waste) / kg (product))の向上について報告しています2。水溶媒のリサイクル性と有機物抽出に必要な溶媒を最小限に抑えることで、彼らは2-bromobenzotrifluorideと6-methoxy-2-naphthaleneboronic acidとの鈴木-宮浦カップリング反応における廃棄物生成の改善を行いました。
Nokの利用によって、非常に高濃度で反応を行うことができるため、プロセスで使用される水の量をE-Factorの計算に含めたとしても、全体的な最終結果(3.4 vs 7.6)で顕著な増加がみられませんでした。
また、PTSやTPGSと同様に、水層は同じ反応に数回再利用できます。例えば、1-bromo-4-methylnaphthaleneとphenylboronic acidとの鈴木-宮浦カップリング反応では転換率の低下もなく、6回繰り返し利用できます。
主な利用例
Nokを用いて室温で実施可能な反応を以下に示します。
- 鈴木-宮浦カップリング反応
- 根岸反応
- オレフィンメタセシス反応
- 宮浦-石山ホウ素化
- 薗頭反応
- Heck反応
- 右田-小杉-Stille反応
- Buchwald-Hartwigアミノ化反応
参考文献
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