TRI Reagent®のプロトコル
TRI Reagent®でできること
TRI Reagent®溶液(別名TRIzolでも販売)はグアニジンチオシアネートおよびフェノールを単相溶液に加えた混合液で、DNA、RNAおよびタンパク質をヒト、動物、植物、酵母、細菌、ウイルスの生物試料から分離するために使用します。TRI Reagent溶液はRNaseの活性を阻害します。TRI Reagent®はRNA、DNA、またはタンパク質を抽出する生体試料のホモジネーションに使用します。
手順
試料の調製
1A組織:
Polytron®(ポリトロン)または他の適切なホモジナイザーに入れたTRI Reagent(組織50~100 mgにつき1 mL)に組織試料を加えてホモジネートします。
注記:DNAの剪断を最小限にしたい場合、ポリトロンホモジナイザーではなく微砕力が弱いホモジナイザーをお使いください(「DNA単離」ステップ3、注b参照)。組織の量はTRI Reagent量の10%以下にしてください。
1B.単層細胞:
培養プレート上で直接細胞を溶解します。ガラス培養プレート表面積10 cm2当たりTRI Reagent 1 mLをお使いください。試薬を添加後、細胞溶解液に数回ピペット操作を加え、均一な溶解液にします。
注記:TRI Reagentはプラスチック培養プレートに適合しません。
1C.懸濁細胞:
遠心分離により細胞を単離し、TRI Reagentに加え、数回ピペット操作を加えて溶かします。TRI Reagent 1 mLで動物、植物、または酵母細胞5~10 × 106 個または細菌細胞107 個を十分に溶解できます。
注記:
- 試料中の脂肪、タンパク質、多糖類、または筋肉、脂肪組織、および植物の塊茎状部等の細胞外物質の含量が多い場合、追加のステップが必要となる場合があります。ホモジネーション後、ホモジネート(破砕液)を12,000 × g、2~8℃で10分間遠心分離し、不溶性物質(細胞外膜、多糖類、高分子DNA)を除去します。上清にRNAおよびタンパク質が含まれています。試料の脂肪含量が高い場合、水相表面に脂肪物質の層があるので除去してください。澄明な上清を新しい試験管に移し、ステップ2に進んでください。「DNA単離」ステップ2および3に従い、ペレットから高分子DNAを回収します。
- 酵母および細菌細胞によってはホモジナイザーが必要となる場合があります。。
- 細胞をTRI Reagentでホモジネートまたは溶解した後は、–70℃で最長1か月保存が可能です。
相分離:核タンパク複合体を完全に分離できるよう、試料を室温で5分間放置します。TRI Reagent 1 mL当たり1-ブロモ-3-クロロプロパン0.1 mLまたはクロロホルム0.2 mLを添加します(「相分離」、注aおよびbを参照)。試料を密封し、15秒間激しく振盪し、室温で2~15分間放置します。生成した混合物を12,000 × g、2~8℃で15分間遠心分離します。遠心分離機によって混合物は赤色有機相(タンパク質含有)、中間相(DNA含有)、および無色の水相(RNA含有の最上層)の3相に分かれます。
注記:
- 1-ブロモ-3-クロロプロパンはクロロホルムよりも毒性が弱く、相分離に利用するとRNAにDNAが混入する可能が小さくなります。4
- イソアミルアルコールおよびその他の添加物を含まないクロロホルムを相分離にご使用ください。
- 水相からのポリA+ 画分の分離については付録Iをご参照ください。
RNA単離または抽出
1.水相を新しい試験管に移し、「試料の調製」ステップ1で使用したTRI Reagent 1 mL当たりに2-プロパノール0.5 mLを加えて混合します。試料を室温で5~10分間放置します。12,000 ×g、2~8℃で10分間遠心分離します。RNAが沈殿し、試験管の側壁および底にペレットを形成します。
注記:中間相および有機相を2~8℃で保存した後、DNAおよびタンパク質を単離します。
2.上清を除去し、「試料の調製」ステップ1で用いたTRI Reagent 1 mL当たりに75%エタノール1 mL以上を添加し、RNAペレットを洗浄します。試料をボルテックスし、7,500 × g、2~8℃で5分間遠心分離します。
注記:
- RNAペレットが浮いている場合、75%エタノールでの洗浄時に12,000 × gで遠心分離してください。
- 試料はエタノール中で2~8°Cで1週間以上、–20℃で最長1年間保管できます。
3.RNAペレットを5~10分間、風乾または減圧下で軽く乾かしてください。RNAペレットが溶けにくくなるので、完全に乾燥させないでください。減圧遠心分離(Speed-Vac®)でRNAペレットを乾燥させないでください。適量のホルムアミド、水、または0.5% SDS溶液をRNAペレットに添加します。溶解促進のため、マイクロピペットを用いて55~60℃で10~15分間、ピペット操作を繰り返して混合します。
注記:
- RNA最終調製液はDNAおよびタンパク質フリーです。A260:A280比は1.7以上です。
- 組織からの収率通常値(mg RNA/mg組織):肝臓、脾臓、6~10 mg;腎臓、3~4 mg;骨格筋、脳、1~1.5 mg;胎盤、1~4 mg。
- 培養組織からの収率通常値(mg RNA/106細胞):上皮細胞、8~15 mg;線維芽細胞、5~7 mg。
- アガロースゲル中RNAの臭化エチジウム染色により、小型(2 kb)および大型(5 kb)リボソームRNAの主要バンド2本、低分子(0.1~0.3 kb)RNA、およびそれぞれの高分子(7~15 kb)RNAのバンドを識別できます。
DNA単離または抽出
1.中間相の上に残った水相を慎重に取り除きます。中間相および有機相からDNAを沈殿させるため、「試料の調製」ステップ1で使用したTRI Reagent 1 mL当たり100%エタノール0.3 mLを添加します。転倒混和し、室温で2~3分間放置します。2,000 × g、2~8℃で5分間遠心分離します。
注記:DNA沈降を行う前に残った水相を取り除くステップは、単離したDNAの質向上に重要です。
2.上清を除去し、2~8℃で保存し、タンパク質を単離します。DNAペレットを0.1 Mクエン酸三ナトリウム-10%エタノール溶液で2回洗浄します。「試料の調製」ステップ1で用いたTRI Reagent 1 mL当たり洗浄溶液1 mLを使用します。各回の洗浄でDNAペレットを30分以上放置します(時折混ぜること)。2,000 × g、2~8℃で5分間遠心分離します。DNAペレットを75%エタノール(TRI Reagent 1 mL当たり1.5~2 mL)に再懸濁し、室温で10~20分間放置します。
注記:
- 重要:洗浄溶液を加えた試料の放置時間を短縮しないでください。DNAからフェノールを十分に除去するためには、30分以上は絶対に必要です。
- ペレットのDNA含量が200 mgを超えるか、非DNA物質の含量が多い場合0.1 Mクエン酸三ナトリウム、10%エタノール溶液でもう1度洗浄する必要があります。
- 75%エタノールに懸濁した試料は2~8℃で数か月保存可能です。
3.減圧下でDNAペレットを5~10分間乾燥させ、8 mM NaOHを加え、マイクロピペットで数回ゆっくりと吸吐し、溶かします。最終DNA濃度が0.2~0.3 mg/mL程度になるよう8 mM NaOHを添加します(通常、組織50~70 mgまたは107細胞から0.3~0.6 mLのDNAを単離できる)。この弱アルカリ溶液は、DNAペレットの完全溶解を確実なものにします。12,000 × gで10分間遠心分離し、不溶性物質を除去し、上清を別の試験管に移します。
注記:
- 上清の粘性が高いのは、高分子DNAが存在している証です。
- DNAのサイズはホモジネーションによって加えられる力で決まります。ポリトロンホモジナイザーの使用は避けてください。
- 8 mM NaOHに溶解した試料は2~8℃で一晩保存可能です。長期保存の際は、pH7~8に調節し、EDTA(最終濃度1 mM)を加えてください。
- DNA濃度を求めるには、溶液の一部を水で希釈し、A260を測定します。二本鎖DNAの場合、1 A260単位/mL=50 µg/mLです。
- 細胞数算出の際は、ヒト、ラット、マウスの二倍体細胞106個のDNA量をそれぞれ7.1 µg、6.5 µg、および5.8 µgと仮定します。
- 組織からの収率通常値(µg DNA/mg組織):肝臓、腎臓、3~4 µg;骨格筋、脳、胎盤、2~3 µg。
- ヒト、ラット、マウス培養細胞からの収率通常値:5~7 µg DNA/106細胞。
DNAのPCR増幅法
8 mM NaOHに溶解後、HEPES(DNA溶液1 mL当たり0.1 M HEPES酸フリーを86 µL添加)によりpH8.4に調節します。試料(通常0.1~1 µg)をPCRミックスに加え、「PCRプロトコル」に従って操作してください。
制限酵素によるDNA消化法
HEPESを用いてDNA溶液のpHを制限酵素による消化に必要なpH値に調節するか、1 mM EDTA(pH 7~8)で試料を透析します。至適条件下で制限酵素による消化を3~24時間続けます。DNA 1 µg当たり3~5単位の酵素の使用を推奨します。通常、DNAの80~90%を消化できます。
タンパク質単離
1.「試料の調製」ステップ1で用いたTRI Reagent 1 mL当たり2-プロパノール1.5 mLを加え、フェノール・エタノール上清(「DNA単離」ステップ2)からタンパク質(「注記」を参照)を沈殿させます。試料を室温で10分間以上放置します。12,000 × g 、2~8℃で10分間遠心分離します。
注記:サンプルによっては、タンパク質ペレットを1% SDS(ステップ3)に溶解することが難しい場合があります。この時は以下の別法により問題を解消してください:
- フェノール・エタノール上清を2~8℃の0.1% SDSで3回透析します。
- 透析液を10,000 × g、2~8℃で10分間遠心分離します。
- 澄明な上清にウェスタンブロット手順での使用に最適なタンパク質が含まれています。
2.上清を捨て、「試料の調製」ステップ1で用いたTRI Reagent 1 mL当たり0.3 M塩酸グアニジン–95%エタノール溶液2 mLでペレットを3回洗浄します。洗浄各回で、洗浄溶液に加えた試料を室温で20分間保存します。7,500 × g、2~8℃で5分間遠心分離します。3回の洗浄後、タンパク質ペレットに100%エタノール2 mLを加えてボルテックスします。室温で20分間放置します。7,500 × g、2~8℃で5分間遠心分離します。
注記:0.3 M塩酸グアニジン-95%エタノール溶液または100%エタノールに懸濁したタンパク質試料は2~8℃で1か月、–20℃で1年間保存可能です。
3.減圧下でタンパク質ペレットを5~10分間乾燥させます。マイクロピペットのチップを溶液に漬けた状態でピペッティング操作を行い、ペレットを1% SDSに溶かします。10,000 × g、2~8℃で10分間遠心分離し、不溶性物質を除去します。上清を新しいサンプルチューブに移します。タンパク質溶液を直ちにウェスタンブロットに使用するか、–20℃で保存します。
トラブルシューティングガイド
1.RNAの単離:
A.収率が低い原因は以下が考えられます:
- 試料のホモジネーションまたは溶解が不十分だった。
- 最終RNAペレットが完全に解けていなかった。
B.A260:A280比が1.65未満の場合:
- ホモジネーションに使用した試料が少なすぎた。
- ホモジネーション後、試料を室温で5分間放置しなかった。
- 水相にフェノール相が混入していた。
- 最終RNAペレットが完全に解けていなかった。
C.RNAが分解している場合:
- 動物採取した組織を直ちに処理しなかった、または直ちに凍結しなかった。
- 単離に使用した試料またはRNA単離調製試料をプロトコルに沿った–70℃ではなく–20℃で保存した。
- トリプシン消化で細胞が消散した。
- 手順に用いた水溶液または試験管がRNAseフリーではなかった。
- アガロースゲル電気泳動で使用したホルムアルデヒドのpHが3.5未満だった。
D.DNAで汚染された場合:
- 試料ホモジネーションに用いた試薬の量が少なすぎた。
- 単離に用いた試料が有機溶剤(エタノール、DMSO)、強い緩衝液、またはアルカリ溶液を含んでいた。
2.DNA単離:
A.収率が低い原因は以下が考えられます:
- 試料のホモジネーションまたは溶解が不十分だった。
- 最終DNAペレットが完全に解けていなかった。
B.A260:A280比が1.70未満の場合:
- DNA調製品からのフェノール除去が不十分だった。DNAペレットを0.1 Mクエン酸三ナトリウム-10%エタノール溶液でもう1度洗浄してください。
C.DNAが分解している場合:
- 動物から採取した組織を直ちに処理しなかった、または直ちに凍結しなかった。
- 単離に使用した試料またはRNA単離調製試料をプロトコルに沿った–70℃ではなく–20℃で保存した。
- 試料をポリトロンホモジナイザーまたは他の高速ホモジナイザーでホモジネートした。
D.RNAで汚染された場合:
- 有機相および中間相に水相が多く残っていた。
- DNAペレットの0.1 Mクエン酸三ナトリウム-10%エタノール溶液による洗浄が不十分だった。
3.タンパク質単離:
A.収率が低い原因は以下が考えられます:
- 試料のホモジネーションまたは溶解が不十分だった。
- 最終タンパク質ペレットが完全に解けていなかった。
B.タンパク質が分解している場合:
- 動物から採取した組織を直ちに処理しなかった、または直ちに凍結しなかった。
C.PAGEバンドが変形している場合:
- タンパク質ペレットの洗浄が不十分だった。
補足資料
I.ポリA + RNAの単離
AvivおよびLederのプロトコルに従い、RNAを2-プロパノールで沈殿させた後(「RNA単離」ステップ1)、ペレットをポリA+結合バッファーに溶解し、オリゴ‑dTセルロースカラムに通し、mRNAを選択的に除去します。3
II.単離したRNAを「RT-PCR」に使用してください。
1.初回の「試料の調製」ステップ1B、注記cで遠心分離ステップを追加で行い手順を修正すれば、TRI Reagent LSで抽出されたRNAのDNAによる汚染をさらに最小化できます。
2.RNA試料をRT-PCRに用いる場合はエタノールをより完全に蒸発させる必要があります。これは試料が少ない場合(5~20 µL)、乾燥不十分によってエタノール含量が増える恐れがあるため、特に重要です。
参考文献
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