フルオロカーボンポリマーは、低分子フルオロカーボンと同様に、類似の炭化水素化合物に比べて、高い耐熱性、疎水性、疎油性、優れた耐薬品性、および低い分子間引力を示します。1こうした特性は、基本的にフッ素原子の高いイオン化ポテンシャルや低い分極率、および大きな電気陰性度といった特性に由来しています。非常に大きな電気陰性度のために、C-F結合は常に強く分極しています。この高いイオン性のために、C-F結合の強度は高く、パーフルオロカーボンの熱安定性に寄与しています。また、イオン化ポテンシャルの高さと分極率の低さは、ともに分子間相互作用を弱め、結果的にパーフルオロカーボンの表面エネルギーと屈折率の低さの要因となります。そのため、パーフルオロカーボンは表面エネルギーの低い、弱い接着性の濡れない表面素材を作るのに使われてきました。
テトラフルオロエチレン(テフロン®)のような直鎖フッ素ポリマーは、高い結晶性を示し融点もさらに高くなります。そのため、加工温度が過度に高くなる場合もあり、離型剤やコーティングなどへの応用には、高い結晶性が不要または不都合な場合さえあります。
高度に分岐したフルオロカーボンポリマーを作ることで、プロセス加工性が改善(高溶解度と低粘度2)し、元来の性質である優れた耐薬品性、疎水性、そして低い接着力と両立させることができます(図1)。3これら材料のガラス転移温度は55℃以下(分子量に依存)ですが、多くの用途に十分な温度である300℃まで熱的に安定です。この高分岐フルオロポリマー(HBFP: hyperbranched fluorinated polymer)の水との接触角はちょうど100˚未満(テトラフルオロエチレンでは105˚)で、残りのパラ位のフッ素の3分の1をより長いフルオロアルキル鎖に替えることで、120˚まで大きくすることができます。
図1高度に架橋されたフルオロポリマーの構造
この材料は優れた潤滑剤としての特徴をもち、ナノインプリント用のモールド剥離剤として使用されてきました(図2)。4高分岐ポリマーでコーティングされたモールドを使用した場合は、転写パターンの破壊を伴わずに250 nmの円と50~60 nmの直線をインプリントすることができます。
図2超分岐ポリマーのAFM像:a)厚さ約100 nmのフルオロアルキル置換したHBFP膜に作製した250 nmの穴、b)穴に隣接して排出された物質、c)210 nm間隔で配置された50~60 nm幅の細線インプリント。インプリンティング:Krchnavek, Dept. of Electrical Engineering, Washington University, St. Louis、AFM:Tomasz Kowalewski, Dept. of Chemistry, Carnegie Mellon University
コーティングへ応用するには、強度を高めるために高分岐フッ素ポリマーを架橋する必要があります(フルオロカーボンポリマーは接着力だけでなく結合性も低下しています)。同時に、架橋することによって他の特性や別の官能基を導入することも可能です。5
このように、高分岐のフッ素ポリマーは、フルオロカーボンポリマーの優れた特性にプロセス加工性を結びつけることで、さまざまな用途に用いられています。
参考文献
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