CRISPRおよびRNAiスクリーニング実験を計画するための研究者向けガイド
CRISPRとRNAiはいずれもスクリーニングツールであり、遺伝子発現を調節して結果を観察することによって遺伝子機能を研究するために使用できます。CRISPRは、DNAを結合することによって転写レベルでこれを行うのに対し、RNAiは、一般的にはmRNAを分解することにより、mRNAを結合して翻訳をブロックします。メカニズムは異なりますが、いずれの方法も同じワークフローに従います。このガイドは、スクリーニング実験の計画に関するいくつかの問題を検討するのに役立ちます。
ステップ1:スクリーニング対象の細胞株の選択
どの細胞株が実験要件に適合するかを特定する必要があります。まず、生物学を考慮した上で、細胞株が研究対象の生物学的過程を忠実にモデル化できるかどうかを検討してください。モデル生物や研究対象疾患を最もよく再現するものを選択してください。使用できる細胞株には以下のような種々のタイプがあります。
- 初代細胞。初代細胞は哺乳類組織から直接採取されます。これらの寿命は限られていますが、in vivoの生物学的メカニズムをより正確に表すことができます。初代細胞はドナー組織から採取できるため、年齢、性別、および病歴などの要素を研究の背景として考慮することができます。
- 不死化細胞株。不死化細胞株は、意図的に導入された変異株の結果として、無制限に繁殖させることできるため、連続的な複製が可能です。これらは連続的に繁殖するため、これらの細胞は所見を混乱させるおそれのある遺伝子型変異および表現型変異を伴うことがよくあります。
- 人工多能性幹細胞(iPSC)。iPSCは、対象の細胞タイプや疾患を不死化細胞株が最適に表現できない場合に使用できます。iPSCは多くの細胞タイプに分化できるため、多くの研究分野に適している可能性があります。
細胞株を選択する際は、使用するワークフローと実験パラメータに適応できる生物学的に適切な細胞株を考慮して判断する必要があります。例えば、不死化細胞株は多くの場合に使用しやすく、文書化および公表されている方法が利用できますが、研究対象を生物学的に最も正確に表現できない場合があります。また、使いやすさと結果を得るまでの時間に影響を及ぼすおそれのある、細胞の倍加時間や細胞株の倍数性などの実用面についても考慮する場合があります。
ステップ2:gRNAまたはshRNAライブラリとスクリーニング手法の設計または選択
CRISPRおよびRNAiライブラリには通常、各標的遺伝子に適した数千ものプラスミドと複数のgRNAまたはshRNAが含まれています。異なるgRNAやshRNAによりさまざまなオフターゲット作用が生じる可能性があるため、結果の信頼性を高めるにはどのような実験においても1つの遺伝子に対して複数の部位をターゲットにすることが重要です。
考慮すべきもう一つの重要事項は規模です。つまり、全ゲノムまたは配列のサブセットを中心とするゲノムの、いずれかをターゲットとするライブラリを選択できます。例えば、MISSION™ shRNAコレクションは、特定の経路に関連するライブラリ、またはホスファターゼやキナーゼなどの遺伝子ファミリーをターゲットとするライブラリとして使用できます。
また、プールアプローチとアレイアプローチのいずれを使用するかを選択する必要もあります。どちらも長所と短所があります。プールライブラリは1遺伝子標的あたりのgRNA/shRNAの数を最大化し、アレイライブラリはgRNA/shRNAの設計を最適化します。スクリーニングから得られたデータを解析するには、プールライブラリには次世代シーケンシングが必要ですが、アレイライブラリで得られた結果は解釈が容易です。デリバリーに関しては、プールライブラリはレンチウイルスを介してデリバリーする必要がありますが、アレイライブラリのほうが柔軟性に優れています。プールおよびアレイライブラリの実用上の違いに関する詳細は、ステップ5で説明します。
他の実験と同様に、スクリーニングには適切なコントロールが必要です。ノンターゲティングガイドとshRNAを使用し、使用するスクリーニング手法に応じてエンリッチメント/デプリ―ションに関するコントロールを考慮してください。ご自身でライブラリを設計する場合は、アクセスできないゲノム領域でgRNA/shRNAコントロールがクラスター化する可能性を回避するために、コントロールのターゲット位置を広げてください。
ステップ3:スクリーニングのための最適条件の決定
細胞にライブラリを導入する前に、形質導入またはトランスフェクションに最適な条件を特定するために一連の実験を行う必要があります。効率が低いと改変細胞母集団におけるライブラリの表現が不十分になるおそれがあり、効率が高すぎる場合には単一細胞が複数のgRNA/shRNAを発現して結果の解釈を困難にする可能性があるため、この実験は重要です。理想的には、最終的な細胞のプールが単独のgRNA/shRNAを発現するようにバランスを取る必要があります。 レンチウイルスの場合、これは感染多重度(MOI)が1細胞あたり0.4~0.6形質導入単位であることを意味します1。適切なMOIを求めるには、機能力価を測定するための抗生物質耐性または蛍光マーカーに基づくコロニー形成単位アッセイを使用できます。
すべての細胞が形質導入されるとは限らないため、適切な抗生物質濃度でgRNAまたはshRNAを取り込んだ細胞を選択する必要があります。トランスフェクトされない、または形質導入されない細胞を効果的に枯渇させるために必要な選択抗生物質の濃度は、殺菌曲線によって求められます。使用する抗生物質の濃度が低すぎると、トランスフェクトされない細胞が増殖し、スクリーニングから得られた結果が複雑になります。
ステップ4:Cas9発現ソースの評価
注記:このステップは、CRISPRスクリーニングのみと関連があり、RNAiスクリーニングとは無関係です。
CRISPR実験には、gRNAおよびCas9タンパク質とともに提供される標的細胞が必要不可欠です。そのためには、gRNAをデリバリーするCas9発現細胞株を確立するか、Casタンパク質とgRNAの両方を1つのコンストラクトで提供できる「オールインワン」ベクターで提供する必要があります(GeCKO2マウス全ゲノムプールライブラリなど)。
Cas9発現細胞株を使用する場合は、クローン単離を実行するか、Cas9発現細胞の混合母集団をスクリーニングに使用するかを選択できます。最適なCas9ソースを選択するために考慮すべきその他の事項には、一定のCas9発現があることを確認する、gRNAの同時形質導入に関する懸念を解消する、Cas9ソースがハイスループットsgRNAアプリケーションをサポートできることを確実にする、などがあります。
ステップ5:スクリーニングの実施
それでは、スクリーニングを実施しましょう。プールおよびアレイスクリーニングのワークフローは、全体的に類似していますが、以下のような違いがあります。2
- ライブラリの構築。プールライブラリには1チューブあたり数千のgRNA/shRNAが含まれていますが、アレイライブラリには1ウェルあたり1つのgRNA/shRNAが含まれています。
- ライブラリのデリバリー。プールライブラリは、通常レンチウイルスを介してデリバリーされますが、アレイライブラリは多くのフォーマットでデリバリーできます(プラスミドまたはウイルス発現ベクター、合成オリゴヌクレオチドなど)。3
- スクリーニング期間。プールライブラリはゲノム全体のスクリーニングに有効ですが、アレイライブラリはクローン数の増加に伴い、より多くの時間を必要とします。
- スクリーニング性能。in vivoスクリーニングには、プールライブラリを使用してください。アレイライブラリはサポートできません。
- 分析。プールライブラリスクリーニングはディープシーケンシングにより分析され、データの分析とヒットの特定にはデコンボリューションが必要です。アレイスクリーニングの場合、NGSは必要ありません。
- 測定値。プールライブラリスクリーニングの測定値は限定的(つまり、細胞死または細胞増殖)ですが、単一細胞分析との組み合わせが可能です。一方、アレイライブラリには、測定値を得るための複数のオプションがあり、これには蛍光法、発光法、ハイコンテント顕微鏡法、またはライブセルイメージングなどが含まれます。
このガイドには、スクリーニング実験の計画を始めるにあたって考慮すべき基本的事項が記載されています。この技術資料を要約した印刷可能な解説画像は、以下からご覧いただけます。スクリーニングの選択などについてご質問がある場合は、お問い合わせください。
参考文献
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