別名:LPS
製品情報
リポ多糖(LPS)はグラム陰性細菌の細胞壁に特徴的な成分で、グラム陽性細菌では見られません。細胞壁外層に局在し、非莢膜株では細胞表面に露出しています。LPSは外膜を無傷に保つ役割を担い、胆汁酸塩や親油性の抗生物質から細胞を守ります。1
リポ多糖は疎水性脂質(リピドA、本分子の毒性成分)、親水性のコア多糖鎖と親水性のO抗原多糖側鎖から構成されています。多くの場合、O抗原鎖はオリゴ糖ユニットの繰り返しでできており、細菌株特異的な構造多様性を示します。各菌株のO抗原の血清学的特異性は多糖の成分、配列、および結合様式によって決まります。これらはサルモネラ菌株の血清型分類の主要決定因子です。進化の過程で宿主免疫系から逃れるために細胞表面に(細菌の血清型に特異的な)新たな特異性を獲得していったことで、腸内細菌のO鎖が多様化したのかもしれません。1
リポ多糖によって細胞は抗原性を示すため、O抗原と呼ばれています。主要抗原としてリポ多糖は宿主と寄生生物のさまざまな相互作用に関与します。リポ多糖はグラム陰性細菌を食作用や細胞溶解から守っているようです。1細菌の一般的な表面抗原(O型、H型、またはLPS)は、同種の抗体と反応します。血清型の例として、大腸菌の場合はO55:B5とO26:B6があります。この命名は、どの抗体がどの菌株を認識したかを特定する免疫学的分類に基づいています。異なる菌株が共通する抗原決定因子を有する場合もあります。
UV光照射または変異誘発物質へのばく露により細菌の野生株は変異します。致死的ではない変異によって生存可能な変異株(ラフ株)が生じる場合がありますが、自然界では一般に見られないもので、いくつかのユニークな特性を持っています。リポ多糖の形成をコードしている遺伝子も変化し、多糖鎖の短いLPSが形成される場合があります。LPSの多糖の長さをRa、Rb、Rc、Rd、Re(a、b、c・・・はそれぞれ第1、第2、第3度・・・に相当)と呼称します。RaおよびReは、それぞれ多糖鎖が最長および最短の変異株に対する名称です。2最も極端な変異株はRe変異株で、コア領域成分がリピドAと3-デオキシ-D-マンノ-2-オクツロソン酸(2-ケト-3-デオキシオクトン酸、KDO)のみのLPSを生成します。2ラフ株由来のリピドAおよびリポ多糖のKDO含量について試験が行われています。3
精製したエンドトキシンは一般にリポ多糖またはLPSと呼ばれ、細胞膜に結合した状態のより自然で複雑な多糖類とは区別しています。多糖鎖のコア領域は細菌の野生株由来LPSと変異株由来LPSとの間で共通です。
多糖鎖を加水分解してLPSから除去するとリピドAになりますが、自然界では細胞毒性のあるジフォスフォリル体4 、または毒性の弱いモノフォスフォリル体5,6が生成されます。多糖鎖が長いほど、加水分解にはより時間がかかり、より困難になります。多糖鎖が長いLPSはリピドAの含量が相対的に少なく、加水分解によって生じる大量の副産物(オリゴ糖および糖類単量体)から精製しなければなりません。そのためリピドAの収率は低く、回収率は悪くなります。そこでリピドA産物の生産には変異株由来の多糖鎖が短いLPSを使います。リピドAの脂肪酸を除去すると、エンドトキシンレベルが元のLPSの1万分の1と解毒されたLPSが得られます。7
LPSの分子構造について研究が行われてきました。8,9LPSは均一ではなく、さまざまな大きさのLPS分子が凝集する傾向があるので、分子量に大きな意味はありません。ただし、100万~400万もしくはそれ以上と報告されています。LPSをSDSで処理し加熱すると、分子量は50~100 kDaになります。強い界面活性剤の存在下で、二価陽イオンがない場合、高純度の細菌性エンドトキシンは10~20 kDaの高分子になります。界面活性剤がなく、EDTAなどの二価陽イオンキレートが存在する場合、LPSは分子量が約1,000 kDaのミセル構造になると考えられています。これは水溶液中に存在する可能性がある細菌LPSとしては最も小さなものです。Ca2+およびMg2+などの二価陽イオンの存在下では、0.2 μmの膜を通過するが0.025 μmの膜を通過しない2層構造があるようです。二価陽イオンの存在下では、直径0.1 μm以下のLPS小胞も水中で形成される可能性があります。LPSの自己凝集は、疎水表面への結合力を付与する成分リピドAの機能に依るところが大きいです。
LPSはTCA10、フェノール11、またはフェノールクロロホルム-石油エーテル(ラフ株の場合)12抽出により調製することができます。TCAで抽出したリポ多糖はフェノールで抽出したリポ多糖と構造が類似しています。両者の電気泳動パターンや内毒素は似ています。主な違いは、核酸の量とタンパク質不純物の量です。TCA抽出の場合、約2%のRNAと約10%の変性タンパク質を含んでいます。フェノール抽出の場合、最高60%のRNAと1%未満のタンパク質を含んでいます。ゲルろ過クロマトグラフィーによる精製でフェノール抽出したLPSに含まれるタンパク質の多くを除去できますが、精製後も10~20%の核酸を含んでいます。イオン交換クロマトグラフィーによりさらに精製すると、タンパク質、RNAともに1%未満のLPSが得られます。メルクはタンパク質やRNAの含有量が異なるさまざまなLPSを販売しています。
特に記載のない場合、リポ多糖のエンドトキシンレベルは500,000 EU(エンドトキシンユニット)/mg以上です。500,000 EU/mg(リムルス細胞溶解物アッセイ)および10 EU(比色アッセイ)の場合、エンドトキシン1 ngは製品1 ng中0.5 EUに相当します。
LPSはLPSの構造13 、代謝14 、免疫学15 、生理学16、毒性17、および生合成18 を解明する研究で広く用いられています。また、インターロイキンなどの成長促進因子の合成および分泌の誘導にも使用されてきました。19
FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TRITC(テトラメチルローダミンイソチオシアネート)、およびTNP(トリニトロフェニル)標識体はそれぞれ、LPSをFITC、TRITC、または2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸と反応させて調製しています。20これらは細菌LPSに対するT非依存性B細胞免疫反応の研究にも使用されています。20
使用上の注意・免責事項
試験研究用のみ。ヒトまたは動物用の体外診断薬、食品、医薬品、医療用機器、化粧品その他の試験研究以外の用途に用いることはできません。
保管/安定性
バッファーまたは培地中で1 mg/mL溶液は、2~8℃で約1か月間安定です。凍結保存したアリコートは、最長2年間保存が可能です。凍結融解の繰り返しは推奨しません。LPSがプラスチックやある種のガラスに吸着する恐れがあるため(特に濃度が0.1 mg/mL未満の場合)、溶液はシラン処理した容器に保存してください。LPS濃度が1 mg/mLを超える場合、バイアル側壁への吸着はほとんどありません。ガラス容器を使った場合、溶液を30分以上ボルテックスし、吸着されたLPSを再度溶解してください。
調製手順
本品は水(5 mg/mL)または細胞培養培地(1 mg/mL)に溶け、淡黄色の不透明溶液になります。これ以上の濃度については、生理食塩水に添加してボルテックスし、
70~80℃に加熱すれば、やはり不透明ではありますが溶液(20 mg/mL)を調製できます。21リポ多糖はあらゆる溶媒でミセル化する分子です。水およびリン酸緩衝生理食塩水では不透明な溶液になります。有機溶媒でも透明な溶液にはなりません。メタノールでは、浮遊物のある濁った懸濁液になり、水では均一な不透明な溶液になります。
細胞培養を用途とする場合、LPS(1 mg)を
バイアルに入れ、滅菌した平衡塩溶液または細胞培養培地1 mLを添加し、粉末が溶けるまで穏やかに混ぜてください。滅菌した平衡塩溶液または細胞培養培地をさらに加え、溶液を目標濃度に希釈することもできます。
LPS製品一覧表 |
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* = 販売中止製品番号
Ph/Chl/Pet = フェノール/クロロホルム/石油エーテル
参考文献
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