バイオマーカーは創薬および開発過程で重要な役割を果たします。バイオマーカーからは、遺伝的感受性、疾患進行、医薬品の効果について強力な手がかりが得られます。血清は、推定タンパク質バイオマーカーの重要な資源です。新たなバイオマーカー発見の主要な障害は、血漿または血清中に存在する塩、タンパク質、脂質です。これらは、質量分析によるペプチド分析に干渉します。組織や体液からペプチドを抽出して濃縮するにはさまざまなプロトコルを用いることができます。
- タンパク質沈殿後、C18レジンの逆相クロマトグラフィーで分画します
- 大型のタンパク質をアセトニトリルで沈殿させ、小型のタンパク質とペプチドの溶解度を上げます
- バイオマーカー分析用の低分子量画分を調製するために限外ろ過を行います1–4
C18レジン固相抽出(SPE)と組み合わせた限外ろ過は、血清ペプチド精製には便利で効果的な方法です。この方法を用いると、アセトニトリル沈殿法と比較して、質量分析用により多くのペプチドが得られます。さらに、当初、Microcon®遠心式フィルターを使用して開発された5FASP法は、Amicon™ Ultra遠心式フィルターでの使用のために最適化されました6。
FASP法の利点は、乾燥/沈殿の懸念なく、高い回転数でサンプルのバッファー交換と濃縮ができる点です。さらに、MultiScreen®フィルタープレートを用いて、FASP法を96ウェルプレートのフォーマットに適合させました7。96ウェルフォーマットに適合させたことにより、生物材料の処理が迅速になり、将来、FASP法を自動化できる可能性が開けました。
方法
I. 血清ペプチドの調製
- 1~4 mLの血清、血漿、または細胞溶解物を、1:1の比率で10%アセトニトリルまたは10~20 mMのトリス塩酸バッファー(pH 7.5)で希釈します。
- Amicon™ Ultra-4 10K NMWL遠心式デバイスにサンプルを供し、スイングバケットローターで3000 x g、15~30分間遠心分離します。
- ろ液を収集します。
- サンプルにアセトニトリルが含まれている場合には、サンプルを遠心濃縮装置に入れて、アセトニトリルを蒸発させます。含まれていない場合には、直接ステップ5に進みます。
- 1%TFA 5 μLで、ろ液サンプル10 μLを酸性にします。
- ZipTip® μC18 ピペットチップのプロトコルに従って、濃縮物を脱塩し、サンプルを精製します。
- 2 μLの∂-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸マトリクス(50%アセトニトリル/0.1%TFAに5 mg/mL含有)で、MALDIターゲット上に直接サンプルを溶出します。注記:ろ過前にアセトニトリルを血清に添加した場合、Speed Vac®遠心濃縮装置でサンプルを短時間遠心濃縮し、 ZipTip®精製の前に溶媒を除去します。
II.Amicon™ Ultra 4 mL 10kDa遠心式限外ろ過フィルターのろ液を用いた質量分析によるペプチドの分析
- 1% TFAを用いて、細胞溶解物またはヒト血清から得られたペプチド含有の限外ろ過液を酸性にし、ユーザーガイドに概説する手順に従って、ZipTip® μC18またはZipTip®(強陽イオン樹脂充填)で濃縮します。
- 1 μLの∂-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸マトリクス(50%アセトニトリル/0.1%TFA溶液に5 mg/mL含有)でサンプルを覆って、MALDI質量分析で分析します。
III.アセトニトリル沈殿法による血清ペプチドの調製(コントロールサンプル)
- 前出のプロトコルI. 1)に示すとおり、10%アセトニトリルにより、1:1の比率(v:v)で血清サンプルを希釈します。
- 15 mLの遠心管にサンプルを入れ、遠心分離し、タンパク質を沈殿させます。
- 上澄みを集めて、Speed Vac遠心濃縮装置に入れてアセトニトリルを蒸発させます。
- サンプルを0.1%TFAに再懸濁して脱塩し、ZipTip® μC18ピペットチップを用いて濃縮します。
- 2 μLの∂-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸マトリクス(50%アセトニトリル/0.1%TFA溶液に5 mg/mL含有)で、MALDIターゲット上に直接共溶出します。
結果
Amicon™ Ultra-4 30K NMWL遠心分離デバイスは、高分解能質量分析による分析用の血清ペプチドを調製するために使用できます。未処理のラット血清と比較すると、アセトニトリル沈殿による大型タンパク質除去後、データの質は改善されました(以下図1A、B)。限外ろ過血清の使用により、MALDI-TOF検出のペプチドピークの数と質は顕著に改善されました(以下図1B)。
データの質は、サンプル調製プロトコルに逆相クロマトグラフィーを単独で、またはアセトニトリル沈殿と限外ろ過と併用して組み入れることにより、さらに改善されました(以下図2)。本試験では、ZipTip® μC18ピペットチップを、質量分析前の微量サンプルの調製に便利で効果的なツールとして用いました。シグナル、シグナル対ノイズ比、および検出ペプチド数は、3つすべての方法を使用して調製したサンプルで、最高になりました(以下図2D)。
このアプローチは、MS/MSによるペプチド同定のためのZipTip® μC18ピペットチップと直接併用して、またはSELDI-TOF法を用いたさらなる表面増強型濃縮に先立つ最初のステップとして使用できます。これらのプロトコルは、医薬品と代謝物のような、他の低分子量マーカーに適用できる可能性もあります。
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