ウサギ・モノクローナル抗体とは?原理や特長を徹底解説
特異性と親和性の高い抗体として、ウサギ・モノクローナル抗体が注目されています。ウサギ・モノクローナル抗体が他の動物種のモノクローナル抗体と比べてどのような特長があるのか、その作製方法と共に解説します。
特異性と親和性の高い抗体がほしい、抗原のわずかな変化も高感度に検出したいと考えている方にとって、ウサギ・モノクローナル抗体はおすすめできる抗体です。ぜひご検討ください。
ウサギ・モノクローナル抗体とは
ウサギ・モノクローナル抗体とは、ウサギの単一の抗体産生細胞をクローニングして作られる抗体のことです。ウサギ・モノクローナル抗体は後述するように、マウスやラットから産生される抗体と比較して反応性が高いと言われています。研究用はもちろんのこと、診断用アッセイでも使われることがあり、医薬品開発に向けても有用なツールとなっています。
長く抗体実験をされてきた方にとって、ウサギ・モノクローナル抗体はあまりなじみがないかもしれません。ウサギ・モノクローナル抗体の基礎的技術が報告されたのは1990年代後半のことで、そこから技術が洗練され、さまざまなメーカーからウサギ・モノクローナル抗体が販売されて広く使われるようになったのは2010年代に入ってからのことです。
モノクローナル抗体とは
ここで改めて、モノクローナル抗体についておさらいします。
モノクローナル抗体とは、Bリンパ球と、ミエローマとよばれる不死化した骨髄腫がん細胞を融合させたハイブリドーマから産生される抗体で、全く同じ抗体からなります。ミエローマは増殖力が強く抗体を大量に産生する性質があるため、モノクローナル抗体の作製に使われています。
モノクローナル抗体の最大の特徴は、含まれる抗体が1種類であり、抗原の1つのエピトープのみと反応できることです。動物の血清から精製され、多種類の抗体が含まれるポリクローナル抗体と大きく異なる点でもあります。
モノクローナル抗体は、ポリクローナル抗体と比較してバックグラウンドシグナルを低く抑えられることが期待でき、高い結合親和性と特異性を有しています。そのため、生化学や分子生物学などの基礎研究で用いられるだけでなく、高い感度と特異性が求められる医学分野においても重要なツールとなっています。
なぜウサギの抗体を用いるのか
モノクローナル抗体の作製では、動物に抗原を注射し、上述の通りB細胞とミエローマと融合させます。この際、抗原を注射する動物としてマウスやラットなどが使われていますが、ウサギを使用するメリットは複数あります*1。
- ウサギ目に属するウサギの抗体は、げっ歯目の抗体では認識できないヒト抗原のエピトープを認識できる可能性があります。このことは、前臨床試験では特に重要になります。
- ウサギは低分子化合物やペプチドに対して強い免疫反応を引き起こすことが観察されています。さらに、リン酸化やアセチル化などの修飾の有無や、アミノ酸の1か所の違いを認識するなど、げっ歯目の抗体ではあまり見られない特長もウサギ抗体にはあります。
- ウサギはマウスやラットよりも体が大きいため、B細胞の回収や血清IgGの分析が容易という作製上のメリットもあります。
ウサギ・モノクローナル抗体の原理
モノクローナル抗体の作製では、前述したようにミエローマが必要です。ウサギ・モノクローナル抗体の作製を目指していた初期のころは、ウサギのB細胞とマウスのミエローマを融合させたヘテロハイブリドーマを使用していました。しかし、融合効率は低く、抗体の品質も悪いという課題がありました。
1995年、Spieker-Poletらは、がん遺伝子であるv-ablとc-mycを過剰発現させた二重トランスジェニックウサギを作製し、ここからウサギの形質細胞腫の細胞株240E-1を単離しました*2。
その後、ZhuとPytelaは240E-1のサブクローニングを繰り返し、240E-Wを作製しました*3。240E-Wは遺伝的安定性が高く、ハイブリドーマではより安定してウサギIgGを分泌する性質があります。現在では、より融合効率が高く、内因性IgGを産生しない240E-W2や240E-W3などが使用されています。
ウサギ・モノクローナル抗体の特長
ウサギ・モノクローナル抗体の特長は、具体的に以下の5つが挙げられます。
- 優れた特異性がある
- 親和性が高い
- 抗原認識能が多様
- アプリケーションが豊富
- 費用対効果が高い
それぞれの特長について解説します。
優れた特異性がある
特異性が低い抗体は、目的以外の抗原とも結合してしまい、バックグラウンドノイズや偽陽性の原因となってしまいます。
ウサギは、他の哺乳類よりも特異性の高い抗原を産生するとされています。これは、ウサギのB細胞レパートリー(レパトア)が他の哺乳類とは異なるしくみで発生することで多様性を有しているからだと考えられています。
特異性の高さは、診断薬や抗体医薬品などの開発において重要なポイントとなります。
親和性が高い
親和性の高いモノクローナル抗体を樹立できる確率は、マウスよりもウサギのほうが高いとされています。
Zhuらは、15アミノ酸からなる100種類以上のペプチドに対し、1410のウサギ・モノクローナル抗体と46のマウス・モノクローナル抗体の親和性を平衡解離定数(Kd)で評価しました*4。その結果、ウサギ・モノクローナル抗体のKdは20〜200pM(中央値: 66pM)だった一方、マウス・モノクローナル抗体のKdは30〜300pM(中央値: 72pM)でした。抗体の種類を揃えるなど、より厳密な比較は必要ですが、ウサギ・モノクローナル抗体の中にはKdが1pMだったものもありました。
こうしたことから、ウサギ・モノクローナル抗体を用いることで、マウス・モノクローナル抗体では結果が出にくいアプリケーションにも対応できる可能性があります。
抗原認識能が多様
ウサギの多様なB細胞レパートリーにより、ウサギ・モノクローナル抗体が多様な抗原認識能を有していることも大きな特長です。翻訳後修飾の有無、一アミノ酸置換、立体構造変化といった、エピトープのわずかな差異を認識できます。
単に抗原認識能が多様なだけでなく、親和性と特異性が高いからこそ、ターゲット抗原のわずかな変化も検出できるようになっています。
アプリケーションが豊富
モノクローナル抗体は、一般的にウエスタン・ブロッティング、ELISA、フローサイトメトリー、免疫沈降などに使われます。ウサギ・モノクローナル抗体はこれらに加え、免疫組織染色や免疫細胞染色などの染色用途でも良い結果が得られることが期待できます。また安定した高い感度や親和性が要求される診断薬開発などへの利用も期待できます。
費用対効果が高い
抗体作製を外部に委託する場合、ウサギ・モノクローナル抗体はマウス・モノクローナル抗体よりも作製難易度が高いため、やや高額になってしまうのが実情です。しかし、ここまで紹介してきたように、ウサギ・モノクローナル抗体には多くの利点があるため、マウス・モノクローナル抗体に若干の費用を上乗せして高品質の抗体が得られるという意味では、費用対効果が高いと言えます。
ウサギ・モノクローナル抗体が用いられる実験
ウサギ・モノクローナル抗体は、高い親和性と特異性をいかして、免疫組織染色や免疫細胞染色に向いており、in vivoイメージングにも用いられています。修飾の有無も識別できるため、生化学や分子生物学では強力なツールとなります。マウス抗体やラット抗体では認識しにくいヒト抗原のエピトープも認識しやすいため、前臨床試験においても有効です。
医療分野では、体外診断薬としてウサギ・モノクローナル抗体がすでに日本国内でも承認されています。例えば、悪性腫瘍の診断補助のために組織や細胞中のエストロゲンレセプターに結合する、ウサギ由来の抗ヒトエストロゲンレセプターモノクローナル抗体が試薬の一つに含まれています*5。
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高い特異性と親和性をもち、ヒト抗原のエピトープも認識しやすいウサギ・モノクローナル抗体を皆さんの研究に使いたいという場合には、シグマ アルドリッチの「受託ウサギリコンビナント・モノクローナル抗体作製」サービスを活用してみてはいかがでしょうか。経験豊富な抗体技術専門家がサポートし、作製した抗体の権利は完全譲渡されます。オリジナル発現ベクターに抗体遺伝子が導入された状態で納品されます。
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References
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