はじめに
近年、製品のリコールなどの食品関連の不祥事の結果として、食料供給に対する消費者の信頼が揺らいでいます。今では多くの消費者が、自分たちの食料品がどこから来ているのか、そして、どのような原材料でできているのかということに疑問を持っています。食品メーカーからすれば、サプライチェーンの大きな失敗に続いて食品安全に関わる大きな事件や事故が起きた場合には、企業は取り返しがつかないほどのダメージを受けるばかりか、業界内での地位も大打撃を受ける可能性があります。その一例と言えるのが、2008年に発生した粉ミルクへのメラミン混入の問題でしょう。
このような事態を受けて、サプライチェーンに属する国際的なフレーバーメーカーや規制機関の間でより協調的な取り組みを行うことの必要性が重視されるようになりました。これがきっかけとなり、フレーバー素材のサプライチェーンを守るための効果的で迅速かつ精密な製品トラッキングシステムの重要性を認識することを目的とした世界的な解決策を見出すための大規模な取り組みが、業界主導で行われるようになりました。
「食品グレード」の定義
フレーバー素材の食品グレードには、世界共通の定義はありません。しかし、世界中の多くの規制機関によって、どのようなものを食品グレードだとみなすことができるのかについての指針が示されています。このような機関として、さまざまな要求事項を規定している規制機関やガイドラインを示している非営利機関があります。食品に使用されるフレーバー素材に関して遵守しなければならない一連の具体的な基準が、規定に定められています。しかし、これらの基準が国によって異なるために、製品が販売されている国におけるフレーバー素材に関する基準を常に把握し続けることは困難です。
米国では、Food and Drug Administration(食品医薬品局)(FDA)が国内外の規制機関と連携しながら、指令や規格の整備を進めています。FDAのDeputy Commissioner for Foods(食品担当副長官)であるMichael R. Taylor氏は、英国ロンドンで開催された「2011 Global Food Safety Conference」(世界食品安全会議2011)において、「サプライチェーン管理が法律で規定されていると考えてみてください」と述べました。食品添加物やフレーバー素材が一定の範囲の使用条件下で安全であることが専門家によって認められていることを示す「Generally Recognized as Safe(一般に安全と認められる物質)」(GRAS)認証では、検討されている物質はすべて、最初の段階として、申請前に適切な試験が実施されたことについてFDAによる確認を受けなければなりません。FDAは、物質がGRAS認証を維持するためには、21 CFR 182.1 (a)に示されているGood Manufacturing Practice(適正製造規範)(GMP)に従って製造されなければならないということも示しています。過去にGRAS認証を得たことのない物質は、FDAによる市販前審査と承認を受けることになります。Flavor and Extract Manufacturers Association(米国食品香料製造業者協会)(FEMA)は、GRAS認証を得た2,500を超える素材や物質のリストを維持しており、新たな候補物質を審査するための専門家委員会を設けています。別の組織であるInternational Organization of the Flavor Industry(国際食品香料工業協会)(IOFI)は、フレーバー素材として使用できる安全な原材料の生産と販売のための一貫した世界的基盤を提供することによって、加盟団体に指針を示しています。
2011 US Food Safety Modernization Act(2011年米国食品安全強化法)(FSMA)のような新たな取り組みにより、素材が米国で食品グレードであると認められるための前提条件が最近追加されました。現在では、食品やフレーバーを扱う施設は、GRASプロセスだけでなく、Hazard Analysis & Critical Control Points(ハサップ)(HACCP)の手順にも従わなければなりません。HACCPとは、原材料の生産、調達および取り扱いから最終製品の製造、流通および消費までの、生物学的、化学的および物理的危険性の分析と管理を通して、食品およびフレーバーの素材の安全に取り組む、体系化されたサプライチェーン管理システムです。
一般に、要求事項が最も厳しいのはEU圏内です。というのも、EFSAの規制により、食品グレードとして使用されるフレーバー素材に関しては、いくつかの指令や法律を遵守することが求められているからです。同機関の規定で取り上げられている内容は広範囲に及び、その中には、フレーバーの製造に使用される抽出溶剤、HACCP要求事項、有効期限、フレーバーのカテゴリーなどがあります。そして最後には、EU圏内で許容される素材のポジティブリストが掲載され、そこには制限事項や最低限の純度に関する要求事項、さらにはJECFA番号とFLAVIS番号も示されています。従来の重金属の含有についての試験の要件に加えて、このような規定が全面的に施行される予定です(2013年3月現在)。
「食品グレード」と「工業グレード」の理解
フレーバーやフレグランスを探している食品メーカーは、どのような素材が食品への使用に適しているかを知っていなければなりません。食品と工業製品のどちらにも使用されている化学物質はたくさんあるため、どんなものが食用として適しているのかをメーカーが十分に理解していることが必要不可欠です。
たとえば、ベンジルアルコールは食品用としても工業用としても使用されています。この化学物質は、多くの食用果実や緑茶、紅茶の天然成分です。これは食品香料としてFCCに収載され、さらに、米国においてGRAS認証を受けた素材と物質をFEMAが取りまとめたリストに収載されています。ベンジルアルコールは、食品や飲料にベリー、チェリー、グレープフルーツ、柑橘類またはクルミのような風味を付与するために添加されることが多く、また、他のフレーバーの前駆物質としての機能を果たすこともできます。一方、食品以外の用途では、ベンジルアルコールは、局所麻酔薬、インクの溶剤、樹脂性コーティングやポリマーコーティングの成分として使用することができ、さらに、フレグランスや防腐剤、粘度低下剤などさまざまな化粧品成分として使用することもできます。
食品メーカーは、サプライチェーンにおける望まない不純物含有、コンタミネーション、そして不純物混和による粗悪化を最小限に抑えることに関心を持っています。その結果、一部の供給業者は、取り扱っている素材を工業用途や食品以外の用途に限って提供することを選択しています。しかし、食品用として添加物を製造することを選択している業者は、GMPに従ってそのような製品を製造し、かつ、安全で透明性があり認定されたサプライチェーンを提供しなければなりません。
食品グレードのフレーバー素材を調達する際には、そのサプライチェーンについての相談に積極的に応じてくれる供給業者を探すことが重要です。優良な供給業者なら、製品の販売予定国または地域における食品グレード要件のすべてをフレーバー素材が満たすことを保証してくれるでしょう。そして、適用される要件や指令を総合的に理解しているだけでなく、文書化された情報を顧客がすぐに閲覧できるように配慮してくれるでしょう。
フレーバー/フレグランス供給業者に聞くべき重要な質問
- 国内外の規制、リスクアセスメント、食品の品質、そして食品サプライチェーンにおける安全管理とトレーサビリティについて、どのように取り組んでいますか?
- 購入している素材は、一般に安全と認められる物質(GRAS認証を受けた物質)ですか?また、その素材の製造業者は適正製造規範(GMP)を適用していますか?
- 製品はHACCPの原則に従って製造されていますか?
- 供給業者、ベンダー、または調達先は、上記の要件がすべて満たされていることを証明するために必要な文書全部を提供し、かつ、施設に対する監査を受け入れていますか?
Sigma-Aldrichの取り組み
25年を超える経験を持つフレーバー素材の供給業者として、Sigma-Aldrichは、食品・飲料業界を熟知しており、食品安全に関する国内外の規制を理解しています。1,700品目を超える香料素材の品揃えを充実させ、維持するため、Sigma-Aldrichは、完全に透明性のあるサプライチェーンを提供する認定ベンダーと提携しています。さらに、私たちは、バイオ製剤関連のお客様からの原材料のトレーサビリティに関する要望を深く理解していることを活かして、フレーバー素材分野においてますます厳しくなっている要件への対応をサポートします。Sigma-Aldrichの香料素材はすべて純度と重金属の含有について試験されています。食品グレードプログラムの規制要件についてのご質問があれば、食品業界における品質保証のエキスパートによる専任チームがアドバイスさせていただき、ご相談にも応じます。
Sigma-Aldrichがいかにしてフレーバーやフレグランスの素材の品質を確保しているのかを詳しくお知りになりたい場合は、sigmaaldrich.com/flavors-fragrancesをご覧ください。
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